日本で肉料理といえば、神戸牛などの高級な和牛を使った料理を思い浮かべる外国人の方が多いと思いますが、最近では、とんかつやしゃぶしゃぶ(豚しゃぶ)、生姜焼きなどさまざまな豚肉料理も人気です。
そんな人気上昇中の日本の豚肉の中でも、特に味わい深い「銘柄豚」「ブランド豚」と呼ばれる高級な豚肉があるのをご存じでしょうか。品種や産地が異なり、それぞれに特徴があるこれらの豚肉は、日本ではギフトとしても喜ばれています。
今回は、豚肉の格付けや名称などの基本の解説から、貴重な「アグー豚」や出荷量日本一の「和豚もちぶた」など、日本各地で生産されている銘柄豚・ブランド豚とは何かをご紹介します。
豚肉の等級や格付け
一般的に日本の市場で流通している豚肉の等級は、極上・上・中・並の4ランクに分かれます。定められた解体方法によって成型された豚枝肉(ぶたえだにく/血液・皮・頭部・内臓などを除去し背骨から2分割した“半丸”状のもの)を対象(品種・年齢・性別不問)とし、背脂肪の厚さ・外観・肉質について、その等級の条件が備わっているものを等級に格付けします。
【枝肉(半丸)重量と背脂肪の厚さによる等級の判定表】
※重量と脂肪の厚さが少なすぎても多すぎても「並」になるのは、赤身の割合が少ない上、脂肪が多すぎたり少なすぎたりと、赤身と脂肪のバランスが良いとは言えないからです。
豚肉の日本語の部位名と特徴
豚肉の日本語での部位名と特徴を番号順にご紹介しましょう。メニュー表を見てオーダーする際や料理などのヒントにしてみてくださいね。
1.肩
肩の周りから背中側の部位です。きめはやや粗く、少し硬めで赤身が多く、多少の脂肪と筋があるので、「豚汁(ぶたじる、とんじる/豚肉と野菜を煮込んだ具沢山の味噌汁)」「カレー」などの煮込み料理に向いています。
2.肩ロース
首から背中にかけての部分です。赤身に脂肪が粗く混ざっており、豚肉らしいコクや旨みがあります。薄切りでは「生姜焼き(しょうがやき/甘味と醤油をベースにすりおろした生姜を加えたタレを絡めた炒め物)」、厚切りでは「とんかつ(小麦粉をまぶした豚肉を溶き卵にくぐらせ更にパン粉を絡めて高温の油で揚げたもの)」「焼き豚(塊をタレに漬けて煮込んだもので、薄くスライスしたものはラーメンのトッピングとしても知られている)」などいろいろな形状で料理に使われます。
3.ロース
肩の後ろから腰付近までの背中の中央部分です。きめが細かくて適度な脂肪がありやわらかい部位で、脂肪の旨みを生かした料理に向いています。薄切りでは「生姜焼き」、厚切りでは「ポークソテー」、角切りでは「酢豚(すぶた/下味をつけた肉に衣をつけて油で揚げ、甘酢あんをからませた中華料理)」などに利用されます。
4.モモ
尻の周囲の部位です。きめが少し粗く全体に脂肪が少ない赤身で、塊では「ローストポーク」や「ボンレスハム」、薄切りでは「炒め物」などに使われます。
5.バラ
胴体のあばら骨についている部位で、骨付き部分はスペアリブと呼ばれます。赤身と脂肪が層になっていて柔らかく、塊では「角煮(かくに/醤油と砂糖で甘辛く味付けした煮込み料理)」や「ゆで豚(塊をゆでて、冷ましてスライスしたものにソースをかけて食べる)」、薄切りは「焼肉(鉄板や網の上で肉を焼き小鉢に入ったタレにつけて食べる)」や「お好み焼き(小麦粉・卵・ダシ・キャベツ・豚肉などを混ぜて焼いた鉄板焼きの一種)」に向いています。
6.ヒレ
ロースの内側にあり、1頭あたり1キログラム程しか取れない希少部位です。脂肪が少なくヘルシーで柔らかく、「ひれかつ(とんかつと同様の調理)」や「ピカタ」など油を使った料理に使われます。
日本の銘柄豚・ブランド豚とは
銘柄豚・ブランド豚は、豚の品種・餌・飼育環境などの徹底管理で、一般的な豚肉と差別化を図っています。スペインの「イベリコ豚」のように、厳しい基準をクリアした日本の銘柄豚・ブランド豚は、全国に400以上あると言われています(資料参照:銘柄豚肉ハンドブック2020 株式会社食肉通信社)。
銘柄豚とブランド豚には明確な線引きはありませんが、銘柄豚を独自にブランド化したものをブランド豚と呼ぶことが多いようです。ものによっては銘柄豚でありブランド豚であるものもあります。
ブランド豚は品種ではなく、生産者が与える餌や水やり、飼育期間などのルールを決めて飼育された豚のことで、品質が高く、生産量がある程度一定であるものを指します。
ぜひ食べておきたい!日本のブランド豚10選
ここからは、数あるブランド豚のなかからぜひ日本を訪れた際には食べてみて欲しいものを、おすすめメニューとともにご紹介します。
1.沖縄あぐー
【基準】沖縄で飼い続けられていた小型の「島豚」が起源で、頭数が少ない貴重な豚です。出荷日齢は240日で、あぐー豚専用飼料で育てられています。
【飼育エリア】沖縄県
【肉質・味の特徴】霜降り肉で脂に甘み・旨みがあり、脂肪の溶ける温度が一般豚に比べて低く、口に入れると脂がとろけます。
【おすすめメニュー】ラフテー(角煮)など
「ラフテー」は、沖縄県の豚肉の代表的な料理で、バラ肉をダシと泡盛(沖縄独自の焼酎)に砂糖・醤油でじっくりと煮込んだものです。濃厚で深い味わいがあり、とろけるような舌触りが絶品です。
2.かごしま黒豚
【基準】品種は全てバークシャー(アメリカバークシャーは除く)で、他の品種と一緒に飼育しないことを条件としています。出荷日齢は230~270日で、出荷前の60日以上、甘しょ(さつまいも)を10~20%を含む飼料を与えています。
【飼育エリア】鹿児島県
【肉質・味の特徴】柔らかさと弾力のバランスがとれた肉質で、上品な味わいと脂質の甘さが特徴です。
【おすすめメニュー】しゃぶしゃぶなど
「しゃぶしゃぶ」は、鍋のダシが煮立ったところに、薄切り肉をくぐらせます。肉に火が通ったらすぐにダシから引き揚げ、小鉢に入ったタレをつけて食べます。肉と脂の甘味・旨みが引き立つ料理です。
3.藏尾(くらお)ポーク ※バームクーヘン豚とも呼ばれる
【基準】自社(有限会社藏尾ポーク)で製造した飼料(地元で有名なバームクーヘンの切れ端や崩れてしまった部分など)を独自に配合して、1頭ずつの餌の食べ方を確認しながら量を調整します。出荷日齢は210~240日で、マイナスイオン水を飲料としています。
【飼育エリア】滋賀県
【肉質・味の特徴】引き締まった肉質で脂肪の溶ける温度が高く、さっぱりとした味わいです。うまみを引き出すアミノ酸が多く含まれており、こまやかで趣のある味です。
【おすすめメニュー】しゃぶしゃぶなど
4.ボーノポークぎふ
【基準】霜降り割合を増加させる能力のあるデュロック種豚(ボーノブラウン)を交配して生産された豚肉です。出荷日齢は約180日で、ロース部位が一般的な豚肉の約2倍の霜降り割合を満たした枝肉のみを認証しています。
【飼育エリア】岐阜県
【肉質・味の特徴】肉の旨みと脂の甘味が強いのが特徴で、豚肉そのものの味を楽しめます。
【おすすめメニュー】焼肉、ポークソテーなど
「ポークソテー」は、厚めの豚肉を炒めソースをかけた料理です。表面はカリッと香ばしく、中はジューシーで、日本では箸で食べやすくするためにスライスして提供されることもあります。
5.TOKYO X(とうきょう えっくす)
【基準】育種改良を続け、遺伝的に固定した新たな系統豚として1997年に日本種豚登録協会に登録されました。出荷日齢は210日で、「Safety(安全性)」「Biotics(生命力学)」「Animal welfare(動物福祉)」「Quality(品質)」の4つの理念に基づいて飼育されています。
【飼育エリア】東京都、茨城県、宮城県、山梨県、群馬県
【肉質・味の特徴】微細な脂肪が入りきめ細かく、ジューシーでなめらかな舌触りが特徴。食後のしつこさを感じさせません。
【おすすめメニュー】ポークソテーなど
6.和豚もちぶた
【基準】種豚から育成管理を徹底し、厳選された豚を祖父母・父としたもの。出荷日齢は150~180日で、カロリーやアミノ酸のバランスを考慮した飼料を与えられています。
【飼育エリア】群馬県他(全国80カ所)
【肉質・味の特徴】しっとりツヤのある肉質で柔らかい食感、脂身はジューシーながらさっぱりとしており甘さがあるのが特徴です。
【おすすめメニュー】とんかつなど
7.ローズポーク
【基準】茨城県が造成した系統豚を交配したもので、育てる豚・育てる飼料・育てる人・販売する人を指定しています。出荷日齢は約190日で、大麦が15%以上配合された専用飼料を与えられています。
【飼育エリア】群馬県他(全国80カ所)
【肉質・味の特徴】締りの良い赤身に良質な脂肪が混在し、旨みを感じやすい濃厚な味わいは科学的に証明されています。
【おすすめメニュー】キムチ鍋など
「キムチ鍋」は、キムチ(韓国の漬物)や野菜と一緒に肉などを煮込んだ鍋料理です。キムチが持つ辛味や酸味と一緒に濃厚な豚肉の旨みを楽しめる逸品です。
8.日本の米育ち 平田牧場 三元豚(さんげんとん)
【基準】品種系統が明らかな3つの品種を掛け合わせた「三元交配豚」です。出荷日齢は200~250日で、食味アップと安全性に配慮した植物性の指定配合飼料(他契約産地飼料米を含む)を与えられています。
【飼育エリア】山形県
【肉質・味の特徴】肉の繊維のきめが細かく歯ごたえもあり、脂肪が一般的な豚肉よりも白くて甘いのが特徴です。
【おすすめメニュー】冷しゃぶサラダなど
「冷しゃぶサラダ」は、薄切り肉をさっと湯通しし冷やしたものを生野菜と一緒にドレッシングをかけていただく料理で、噛むほどに肉の旨みや脂の甘味を感じられます。さっぱりとしているので食欲のない夏場でもおいしくいただけます。
9.白金豚(はっきんとん)プラチナポーク
【基準】出荷日齢は200日で、地元産とうもろこし(非遺伝子組み替え)を積極的に使用しています。水は、天然の地下水を釜石(岩手県)で採取したミネラルたっぷりの鉱石でろ過した活性水を飲んで育てられています。
【飼育エリア】岩手県花巻市
【肉質・味の特徴】きめ細やかな肉質で優しい歯ごたえがあり、口に含むと脂の旨みが広がります。
【おすすめメニュー】生姜焼きなど
10.夢の大地
【基準】防疫の為、繁殖農場と肥育農場を完全分離(北海道内で分散)しています。出荷日齢は175日で、植物由来(麦類25%以上、いも類10%程度が入る)の仕上げ飼料を与えています。
【飼育エリア】北海道(十勝、他)
【肉質・味の特徴】肉質は軟らかくヘルシーで、オレイン酸が多くしっかりとした旨みが特徴です。
【おすすめメニュー】とんかつなど
日本のブランド豚は、それぞれ細心の注意を払って飼育されており、安全で食味をよくするためにさまざまな工夫がされています。いずれも繊細な味わいのものが多く、しゃぶしゃぶやとんかつといったシンプルな料理が、肉の旨みや脂の甘味を感じやすいかもしれません。こちらでご紹介したメニューはほんの一例なので、お店で味わったり、お取り寄せで楽しんだりと、お気に入りの食べ方を見つけてくださいね。
監修:一般社団法人あしたの食卓研究所 代表 石原奈津子氏
松田きこ、木村桂子、都志リサほか、関西に精通した女性ライターチーム。食べること、飲むこと、旅することが大好き! 自ら体験した楽しい情報を発信しています
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