HOME 東北 山形 山形近郊 わざわざ行きたい、日本唯一の「ユネスコ食文化創造都市」 日本の原風景が残る街・鶴岡で味わう多様な食文化【山形県】
わざわざ行きたい、日本唯一の「ユネスコ食文化創造都市」 日本の原風景が残る街・鶴岡で味わう多様な食文化【山形県】

わざわざ行きたい、日本唯一の「ユネスコ食文化創造都市」 日本の原風景が残る街・鶴岡で味わう多様な食文化【山形県】

公開日: 2021/03/31

日本の東北に位置する山形県鶴岡市は、国内で唯一、ユネスコから「食文化創造都市」に認定されている街です。日本海と気高い山々に囲まれ、ここでしか味わえない海の幸と山の幸を存分に堪能できます。

実は鶴岡は、日本の美を国内外へ発信し、文化継承することを目的とした「日本博」の一環として、新しい価値観を持ち若い世代を代表する料理人のコミュニティ「CLUB RED」が日本の食文化を未来に繋いでいくプロジェクト「日本博×CLUB RED 日本を旅するダイニング in 東北」の舞台となった街。「日本博×CLUB RED」では、郷土料理の再発見と日本の食文化の再評価とその伝播を目標とするLaboを開催し、「Labo#2 ~探訪の会~」では、6名の料理人が鶴岡を旅し、この地に受け継がれる食文化を学びました。時代を担う料理人が、地域を学び、郷土料理を次世代の料理へと昇華させる情熱を持って、奮闘しています。

若手料理人たちが新しい料理に挑戦した舞台である鶴岡には、どんな食文化が根付いているのでしょうか。鶴岡の食文化が「唯一無二」と認められているルーツを探りに、今もなお独自の食文化を守り続ける人々に会いに行きました。

日本で唯一!山形県鶴岡市はユネスコ「食文化創造都市」認定の街

日本で唯一!山形県鶴岡市はユネスコ「食文化創造都市」認定の街

東京の羽田空港から飛行機で約1時間。庄内平野が広がる、山形県鶴岡市に辿り着きます。ここで唯一無二の食文化が育まれた理由は、独特な自然気候と先人の知恵にあります。

鶴岡市は海抜0mから標高2000mになる高低差、夏は暑く冬は寒い気温差によって、多種多様な山菜や農作物が育まれてきました。雪深く厳しい冬を乗り越えるため、地域の人々は作物を保存する術を身につけたといわれています。

また鶴岡は、日本海に面し、三方を山に囲まれているため、「陸の孤島」と自称する地元の人がいるほど交易が少なかったこともあり、独自の文化が守られてきました。その代表が、「在来野菜」。60種類以上の野菜の種が栽培方法とともに継承され、今では“生きた文化財”として国内外で評価されています。

【山の幸】先人の知恵が詰まった出羽三山の精進料理

【山の幸】先人の知恵が詰まった出羽三山の精進料理

羽黒山、月山、湯殿山からなる出羽三山は、庄内平野を囲むように位置し、1400年以上前から「祖先の霊魂が鎮まる『お山』」と信仰されています。出羽三山の修験者である「山伏」たちが、厳しい修行中に作り出した「精進料理」も、鶴岡の食文化を語るうえで忘れてはならない存在です。

羽黒山頂近くにある「斎館」。元は華蔵院という寺院であり、山伏の住んだ遺構として唯一残る建物で、現在は精進料理を提供し、参拝者が宿泊する参籠所となっております。「日本博×CLUB RED 日本を旅するダイニング in 東北」の会場を予定していた場所でもあります。

「勅使の間」は、京都の高貴な方々をもてなした部屋。現在、こちらで精進料理をいただくことができます。

精進料理とは、仏道修行に励む僧侶の食事で、動物性食材や刺激の強い食材を使わず、野菜や大豆製品のみで構成されています。

出羽三山で採れた食材を使った10品の精進料理をいただける「精進御膳」(3,300円)。甘い餡をたっぷりかけたとろりとやわらかい胡麻豆腐、切り傷の治療にも用いられる山菜「イタドリ」など、季節に合わせた食材を味わえます。

出羽三山の精進料理の特徴は、山菜やきのこ、木の実など自然本来の味を活かしながら調理している点。最初は山の恵みを生で口に運んでいましたが、京都の精進料理の技法が伝わると、火を通した調理法や塩漬けにする保存法が用いられるようになりました。

斎館の伊藤料理長は、今もなお古くからの方法で山菜等を保存しています。ゼンマイはあく抜きをし、ワラビや赤ミズは塩漬けに。山菜によって適した保存方法があり、山伏たちは「お山」の恵みを無駄にしないためにひとつひとつ試しながら、おいしくいただく術をつけてきました。

神聖な「お山」の源を食することも、山伏の修行のひとつ。余すところなく生命をいただく「もったいない」精神のうえで、出羽三山の精進料理は成り立っています。

また、「日本博×CLUB RED Labo #2」の一環として、鶴岡市内でレストランを経営する若手料理人3名が斎館に訪れました。斎館の厨房を見学し、じっくり精進料理を味わいました。独自の料理手法を目の当たりにし、「精進料理の食文化や塩蔵技術のような昔の知恵を伝えることは、サステナブルな食文化の育成にもつながるのではないか」との感想も。若手料理人に大きなインスピレーションを与えたようです。

どれもしっかりとした味わいがあるのは、先人が編み出した素材の味を引き出す調理法のため。聖なる「お山」と山伏の知恵に感謝しながら、丁寧にいただきましょう。

  • 斎館/羽黒山参籠所
    • 住所 山形県鶴岡市羽黒町手向羽黒山33
    • 電話 0235-62-2357
    • 営業時間:要お問い合わせ
      定休日:年中無休

【里の幸】農家の食文化を伝えるレストランで、やさしいおかあさんと交流

【里の幸】農家の食文化を伝えるレストランで、やさしいおかあさんと交流

鶴岡の在来野菜を味わえる「知憩軒」は、農泊・農家レストランの先駆けといわれています。「日本博×CLUB RED」の若手料理人も訪れ、鶴岡の「里の味」を勉強しました。

1階は大広間の食事処、敷地内の別棟は宿泊所。ひとりで切り盛りする女将の長南光(ちょうなん・みつ)さんは、「農家の料理だから、特別な食材は使っていないの」とはにかみながら、手際よく準備します。

知憩軒で提供される食材のほとんどは、長南さんが収穫したもの。冬から初夏にかけての土が冷たい時期は、保存した山菜や根菜を使った料理を作ります。ゼンマイは、1週間ほどかけて水でゆっくり戻し、炒め物に。サラダ油は使わず、「油揚げの油で十分だから」と、とてもヘルシー。

この日出された「一汁三菜と保存食のランチ」(1,100円)の献立は、3月に収穫できるあさつきの酢味噌和え、保存していた身欠きニシンの炊き上げ、わらびのおみそ汁など。地元の農家たちにとって昔からなじみのある料理ばかりです。素朴な味つけに、在来野菜そのもののおいしさを存分に感じられます。夏はナスやきゅうりといった野菜料理がメインとなり、季節ごとに違う味を堪能できるのも魅力です。

「日本博×CLUB RED Labo #2」で訪れた若手料理人たちも、「海、山、川、平野があると聞いていたが、実際に来てみて、鶴岡は本当に食材が豊かな土地と感じた」と感激。

「農家の味だから外国の方の口に合うかしら」と控えめに笑う長南さん。“農家のおかあさん”のやさしさがたっぷり詰まった料理に、身も心も温まります。

  • 知憩軒
    • 住所 山形県鶴岡市西荒屋宮の根91
    • 電話 0235-57-2130
    • 営業時間:11:30~14:00(L.O.13:30)
      定休日:火・水曜日(3~11月)、12~2月は休業

【海の幸】日本海の絶景を臨む「沖海月」で、鶴岡の新鮮な地物鮮魚に舌鼓

【海の幸】日本海の絶景を臨む「沖海月」で、鶴岡の新鮮な地物鮮魚に舌鼓

日本海の恵みをたっぷり味わうなら、「魚匠ダイニング 沖海月」へ。鶴岡市立加茂水族館内にある日本料理店で、庄内浜で獲れた地物鮮魚を使って旬の海鮮丼や定食を提供。窓の外には一面の日本海が広がります。

沖海月の名物は、庄内浜で獲れたとらふぐのお刺身です。ふぐ調理師免許を持つ須田料理長が目の前で調理。オープンキッチンスタイルでふぐを捌く姿を見られるのは日本でも珍しく、これを目当てに大勢の観光客が訪れます。

須田料理長はふぐ食をはじめとする日本の海産文化を広めるため、外国人研修生を受け入れたり、海外での講演を行ったりと、広報活動を精力的に行っています。

一本数万円する包丁を実際に握らせてもらえる貴重な経験も!敷居の高い日本料理店も珍しくありませんが、沖海月はフレンドリーな接客で観光客をおもてなしします。

華麗な包丁さばきに、会話も忘れて釘付け。

「鶴盛りのふぐ刺し」(時価・5名分~)は、鶴岡で古くより縁起物とされているおめでたい一皿。完成した鶴盛りと一緒に記念撮影もできるなんてうれしい!

透き通るとらふぐの刺身をポン酢でいただきます。弾力のあるしっかりとした歯ごたえに、噛むほどに口の中に広がる上品な甘みが、庄内浜のとらふぐの特徴です。

大阪から北海道にかけて活躍した北国廻船「北前船」をモチーフにした「庄内北前膳」(2,130円)は、季節のお刺身や珍味、鱧の天ぷらをいただけます。

鶴岡で獲れた地物鮮魚、そして須田料理長による職人技に、鶴岡の豊かな食文化を感じられるに違いありません。

  • 魚匠ダイニング 沖海月
    • 住所 山形県鶴岡市今泉字大久保657-1 加茂水族館内
    • 電話 0235-33-3036
    • 営業時間:11:00~15:00(L.O.14:30)
      定休日:年中無休
      備考:レストランのみ利用可(繫忙期を除く)

鶴岡のお土産は、「本長」で風味豊かな在来野菜のお漬物を

鶴岡のお土産は、「本長」で風味豊かな在来野菜のお漬物を

鶴岡の食文化を巡る旅のお土産は、在来野菜のお漬物がおすすめ。「つけもの処 本長」は、創業110年を超える老舗の漬物店です。

鶴岡の大山地区は酒蔵の町で、酒蔵のひとつだった本長の創業者が酒粕を使った漬物のおいしさに着目。4代目となった今も、在来野菜の漬物をひとつひとつ丁寧に漬け込んでいます。

一番人気は、「民田茄子辛子漬」(写真右下)。ツンと鼻に抜ける辛さが癖になり、お酒のおつまみにぴったりです。酒粕はこの道40年以上のベテラン職人が、季節や野菜によって調合。また、「あつみかぶ」は甘酢漬に、「藤沢かぶ」は甘酢漬けやたまり漬にと、野菜の味によって漬け方を変えているのも特徴的。

洗練されたパッケージは、自分用だけではなく、大切な方への贈り物にも最適。最近では、「蔵王クリームチーズ粕漬」といったユニークな漬物も開発され、漬物展示品評会で最高賞である「農林水産大臣賞」を受賞しました。

希望者は漬物蔵の見学可能(事前予約制)。約1.8mにもなる木樽は、1798年に作られたもので、今も現役。時代が変わっても、食文化とともに大切に守られています。

  • つけもの処 本長
    • 住所 山形県鶴岡市大山1-7-7
    • 電話 0235-33-2023
    • 営業時間:8:30~17:00
      定休日:12月30日~1月5日
      備考:漬物蔵の見学は無料、要予約制。所要時間約30分(見学・試食・買い物含む)。

鶴岡で独特の食文化が育まれたのは、自然の恵みが豊かなだけではなく、先人の教えを受け継ぎ、未来へ継承しようとする人々がいるからこそと分かる旅になりました。

今回は「日本博×CLUB RED」の舞台を予定していた山形の鶴岡に注目し、地域に根付いた食材を生かした郷土料理を紹介しましたが、日本全国、ほかにも各地域の豊かな自然とその多様性によって、地域に根差し食材を生かした郷土料理がたくさんあります。さまざまな郷土料理に触れながら、日本の食文化を探求してはいかがでしょうか。

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