HOME 東京・東京周辺 千葉 成田 成田空港近くにある城下町・佐倉で、日本文化への知的好奇心をくすぐる1日さんぽ|元ミシュラン社長室長のカルチャーウォーク
成田空港近くにある城下町・佐倉で、日本文化への知的好奇心をくすぐる1日さんぽ|元ミシュラン社長室長のカルチャーウォーク

成田空港近くにある城下町・佐倉で、日本文化への知的好奇心をくすぐる1日さんぽ|元ミシュラン社長室長のカルチャーウォーク

更新日: 2020/11/30

世界的タイヤメーカー・ミシュラン社のフランス本社で社長室長を務めた森田哲史さん。『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』の制作の際、外国人が魅力を感じるであろう日本のスポットを視察して回った経験を活かし、欧米人の視点で日本人の知らない日本の魅力をお伝えする「カルチャーウォーク」もこれで5回目です。

今回ご紹介するのは、千葉県の佐倉市。日本の玄関口・成田空港に近く、上野からも特急で一時間程度で到着するこちらは、訪日外国人にとって身近なエリアといえます。

今回の旅のおともはドイツ出身のLIVE JAPANスタッフ・パメラ。
京成電鉄本線の京成佐倉駅で集合し、佐倉のぶらり歩きに出発です。

広大な「国立歴史民俗博物館」で日本の歴史を民俗学から学ぶ

広大な「国立歴史民俗博物館」で日本の歴史を民俗学から学ぶ

今回の最初の目的地は国立歴史民俗博物館
京成佐倉駅の南口を出てちばグリーンバスの田町車庫行きに乗車し、「国立博物館入口」で下車します。

森田:「パメラ、この国立歴史民俗博物館は外国から日本にやってきた人には、絶対に訪れて欲しい場所なんだよ。ここは先史・古代から現代に至るまで、日本の日常生活や文化の歴史を伝統芸能、信仰、風俗習慣などさまざまな面から見せてくれる博物館なんだ。ヨーロッパ人にとってはこういう博物館訪問は、旅行の大きな楽しみのひとつだよね。日本について深く知りたいと思ってやってくる旅行者にとっては最高の施設なんだよ」

パメラ:「日本の歴史を深く知りたい訪日観光客にとっては、すごく魅力的な施設ですね」

エントランスを入ってすぐのところにあるインフォメーションでは、英語、中国語、韓国語に対応した音声ガイドの貸し出しが行われています。日本語が堪能なパメラですが、より展示物への理解を深めるため、英語版をレンタルすることに。

森田:「ここには全部で6つの展示室があるんだ。2019年の3月まで先史・古代時代について展示されている第一展示室※が閉室されているので、今日はその他の5つの展示室を見ていこう。まず見て欲しいのは、祭りや信仰、習俗などの民俗文化についての展示がある第四展示室だね」(※第一展示室は2019年3月19日(火)リニューアルオープン予定)

森田:「日本人の“祭り”には、万物に宿る精霊を敬うアニミズムが底流にあるんだ。そこに稲作という文化が入ってきたことで、集団作業の必要性や水の分配と管理の重要性が加わり、雨を降らせる龍神へ集団で感謝を捧げるために“祭り”というイベントが発生するわけだね。祭りには地域のコミュニティーを活性化する意味もあったんだよ」

パメラ:「米作りと日本人の生活は本当に深い関わりがあるんですね」

森田:「日本の祭りには一見暴力的に見えるものもあるんだけど、これは疫病を流行らせたり、不作による飢饉をもたらした悪霊への怒りの表現という一面もあるんだ。こういうアニミズム信仰はヨーロッパにもあったはずなんだけれど、一神教であるキリスト教を信仰することで、そういう文化を全部なかったことにしてしまったかもしれないよね」

パメラ:「第二展示室のテーマとなっている中世とは、いつのことですか?」

森田:「平安時代から安土桃山時代までだね。この頃の庶民が暮らしていた町並みのジオラマ模型をみると、現代日本の農村部の里山風景とあんまり変わっていないことがわかるね」

森田:「第三展示室では、近世、いわゆる江戸時代の日本人の生活を知ることができるんだ。18世紀の江戸・日本橋界隈のジオラマなど、すごく面白いだろう。日本は四方を海に囲まれた国でもあり、物流は北前船などの船が重要だったんだ。この北前船では、昆布・にしん・干し貝柱などと言った北海道の産物を日本海を経て瀬戸内海から大阪へ運んでいたんだ。米・塩・味噌・醤油・酒・布などの生活必需品も海運輸送で運ばれたんだね。だから重要な物流路である川や運河を中心に街が発展していったわけだよ」

それに、木と紙でできた家が並ぶ江戸の街では、防火対策が重要だったから、延焼を防ぐために広い道や広場(広小路)が要所要所に作られていたんだよ」

パメラ:「神奈川県の大山で出会っため組の人たちと同じような格好の火消しもいますね」

森田:「め組の大山講なんかもそうだけど、伊勢講や金毘羅講など、庶民たちが旅をする文化があったこともわかるね。同じ頃のヨーロッパでは、こんなに庶民が旅をしてはいないはずだよ。江戸時代の日本は平和だったから、庶民の旅が可能だったんだよね」

森田:「19世紀後半から1920年代までの近代日本を知ることができるのが、この第五展示室だよ。江戸時代が終わり、西洋文明が入ってきた明治の文明開化の様子がよくわかるね」

パメラ:「実は、文明開化って言葉はあまり好きじゃないです。だって、明治以前の日本にも、素晴らしい文明が日本にいっぱいあったはずなのに。これまでの文明を否定して、西洋式のものだけを文明とするのはおかしいと思うな」

森田:「そのとおり。日本に古くから根付いてきた文化・文明は、現代人にとっても知るべき価値のあるものだよ。この歴博は、その日本の文明を教えてくれる素晴らしい場所だよね」

森田:「この歴博では、約13万平方メートルの敷地に、約25万点の資料を収蔵しているんだ。その中から適宜、展示内容を入れ替えて、常時約1万点の資料を展示しているから、何度来ても楽しめるはずだよ」

パメラ:「興味深い展示ばっかりで、もっとゆっくり見たいですね。1日いても足りないくらい。私が日本に来て知りたいと思っていたことが、ここに展示されていました」

森田:「本当に素晴らしい施設だから、旅行者以外の在日外国人にもぜひ訪れて欲しいよね。家族で来ても楽しめるはずだよ。成田空港にも近いから、来日してすぐここに来てくれれば、京都や北海道、九州に行っても、日本の理解が深まるんじゃないかな。帰国前でもいいから、ぜひ来て欲しいね」

国立歴史民俗博物館
〒285-8502 千葉県佐倉市城内町117番地
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
休館日:毎週月曜(祝日の場合開館し、翌日休館)、年末年始(12月27日〜1月4日)

江戸時代の旅籠屋のように多くの人と交流できるゲストハウス「おもてなしラボ」

次に森田さんとパメラが向かったのは、ゲストハウスのおもてなしラボ。

このおもてなしラボは、昭和31年に建てられた家屋を利用したゲストハウス。コミュニティースペースやコワーキングスペース、レンタルスペースなども運用されており、江戸時代の旅籠屋のような雰囲気で佐倉での滞在を楽しむことができます。

オーナーの鳥海さんは、ニュージーランドに8年ほど滞在していたそうで、その頃バックパッカーとして各地を回っていたそう。その当時に利用していたゲストハウスを、成田空港から近いこの佐倉の地で作りたいということで、4年前から「おもてなしラボ」を始めたそうです。

オーナー:「お客様の半分は海外のお客様です。アメリカやオーストラリア、ヨーロッパの方が多いですね。コミュニティースペースでは、学校帰りの小学生たちが来て宿題をしたりしていることも多いので、地元の子どもたちと海外からのゲストが交流していることもありますよ」

宿泊スペースには、2段ベッドが5台用意されています。ベッドルームの奥には宿泊ゲスト用のリビングスペースもあるので、そこでゲスト同士の交流も生まれているそう。

オーナー:「この建物は昔ながらの作りで、道路に面した部分が4.4メートルに対し、奥行きが35メートルと細長くなっているんですよ」

森田:「それは江戸時代の間口税の名残なんでしょうね。昔は道路に面した家の正面の広さによって、税金を課していたところがあったんだよ。間口が狭いと税金が安く済むということだね。だから、こんな風に間口が狭くて奥が広い、うなぎの寝床のような建物が多かったんだ。昭和に作られた建物にも、土地の使い方に江戸時代からの名残があるんだね」

パメラ:「面白いですね。学生とか若い人にはいいゲストハウスですね。ここに泊まって、さっき訪れた歴博とかにじっくり通うのも良さそうです」

おもてなしラボ
〒285-0023 千葉県佐倉市新町168番地
TEL:043-310-7595(受付時間:10:00 – 21:00)
定休日:月曜

日本有数の日本刀コレクションを無料で楽しめる「塚本美術館」

日本有数の日本刀コレクションを無料で楽しめる「塚本美術館」

続いて訪れたのは、おもてなしラボから徒歩10分の距離にある塚本美術館です。
この塚本美術館は佐倉出身の実業家、故塚本素山氏の日本刀コレクションを収蔵した美術館。刀身400点、外装(鞘など)250点という国内有数の収蔵数を誇り、3ヶ月ごとに展示が変更されています。

森田:「個人所蔵でこれだけの日本刀が展示されている美術館は珍しいね」

パメラ:「英語の説明はないけど、とても日本的な空間で眺めているだけでも楽しいです」

森田:「日本刀の原料は玉鋼というものなんだよ。これを刀鍛冶が鍛錬して、刀を作っていくんだ。作刀工程が展示されているのもいいよね」

パメラ:「日本刀ってこういう風に作られていくんですね。どうせなら木とか竹とかで試し斬りしてみたいな(笑)」

塚本美術館
〒285-0024 千葉県佐倉市裏新町1-4
TEL:043-486-7097
休館日:土曜日・日曜日・月曜日、祝日、年末年始 ※第3土曜日を除く

庭園の緑を楽しみながら「レストラン・ベルヴェデーレ」で千産千消の料理に舌鼓

塚本美術館で日本刀の美を堪能した森田さんとパメラ、京成佐倉駅まで歩いて戻ってきました。
ここから無料のシャトルバスに乗って、DIC川村記念美術館を目指します。

森田さん:「これから行くDIC川村記念美術館にはレストランもあって、そこはすごく素敵な雰囲気なんだ。緑あふれる庭園を見ながら本格的なイタリアンを楽しめるんだよ」

DIC川村記念美術館に併設されたベルヴェデーレは、四季折々の眺めを堪能できるイタリアンレストランです。イタリア語で「美しい眺め」を意味する店名のとおり、窓の外には緑が広がり、明るい光が差し込んでいます。
この日はランチタイムを過ぎていたので、アラカルトでいただくことに。

前菜盛り合わせ 1000円

A4ランク 和牛のローストビーフ 2000円

パメラ:「ローストビーフも美味しいし、付け合わせのお野菜も新鮮!」

森田:「このレストランでは基本的に地元・千葉の食材を使っているそうだよ。地産地消ならぬ千産千消だね。美術館で名画を楽しんだ後に、ここで作品について語り合うのもいいよね」

パメラ:「英語のメニューもあるし、日本語が読めない観光客でも安心して来られますね」

レストラン・ベルヴェデーレ
〒285-0078 千葉県佐倉市坂戸631番地
TEL:043-498-0848
営業時間:10:00〜17:00(16:30L.O.)
【ランチ】11:00〜14:30L.O.
店休日:月曜日(祝日の場合は営業し、翌平日休業)、年末年始、展示替期間の臨時休業
2019年2月1日〜18日(メンテナンスのため)

空間ごと美術作品を楽しめる「DIC川村記念美術館」

レストランでお腹を満たした後、美術館庭園をお散歩することに。

森田:「この美術館はDIC株式会社という化学メーカーが設立した美術館なんだ。約10ヘクタールの敷地に庭園自然散策路が広がっているんだ。四季折々の草花や野外彫刻も楽しめるんだよ」

パメラ:「緑がいっぱいですごくリラックスできる! 庭歩きも楽しいですね」

森田:「この庭園だけでも、訪れる価値のある場所だよね」

パメラ:「ここのテラスの奥はトイレになっているけど、ここがオープンカフェだったらもっといいのに。本を読んだりして、1日中ひなたぼっこしたいな」

さて、広い庭園を歩いてお腹もこなれてきた後は、いよいよDIC川村記念美術館へ。

パメラ:「外国旅行では、時間さえ調整できれば美術館に足を伸ばすのがヨーロッパ流なんですよね。美術鑑賞は旅の醍醐味のひとつです。ここの美術館はどんな作品が揃っているのかな」

森田:「ここは20世紀美術を中心に展示されている美術館なんだよ。DIC株式会社と関連会社が収集した美術品を公開するために、1990年に作られたんだ。ピカソ、ブラック、シャガール、ミロなど、さまざまな作品があるから、見応えもたっぷりだよ。この薄暗いエントランスも、芸術作品を味わうための前菜のように、気持ちを整えてくれる効果があるように感じるね」

パメラ:「床やライトに二つの円のモチーフが多く使われていて、素敵だわ」

森田:「コレクションを展示するために作られた美術館だから、作品に合わせて空間が作られているんだ。その絵画を活かすために空間が設計されるなんて、贅沢だよね」

パメラ:「レンブラントの『広つば帽を被った男』やモネの『睡蓮』なんかもあるんですね」

森田:「マーク・ロスコのシーグラム壁画7点が飾られた“ロスコ・ルーム”もいいだろう。自分の絵だけでひとつの空間を創り上げたいと切望していたロスコの意図を反映し、彼の作品だけを展示しているんだ。ロスコの世界に包まれている感じだよね。こちらの美術館は、1階の常設コレクションに続き、2階ではその時々の企画展が展示されているんだ。常設コレクションの展示も年に数回入れ替えが行われているから、何度来ても楽しめるはずだよ」

DIC川村記念美術館
〒 285-8505 千葉県佐倉市坂戸631番地
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
休館日:月曜日(※祝日の場合は開館し、翌平日に休館)、年末年始、展示替期間の臨時休館

訪日観光客にとっての日本の玄関口・成田空港から30分弱、東京からも約1時間で訪れることのできる佐倉。訪日観光客だけでなく、在日外国人、そして日本人にとっても何度も訪れたい施設が揃っています。おもてなしラボに滞在しながら、歴博に何度も通ったり、一日かけてゆっくりDIC川村美術館の芸術作品や庭園自然を堪能してもいいかもしれません。この街を訪問してくれれば、民俗学や日本刀の作刀過程などを知ることができ、日本についての理解が深まる旅ができることをお約束します。きっと何度も来たくなる、とても興味深い街でした。

Written by:

松村知恵美

松村知恵美

家と映画館(試写室)と取材先と酒場を往復する毎日を送る映画ライター、WEBディレクター。2001年から約8年、映画情報サイトの編集者をやってました。2009年に独立し、フリーランスに。ライターとしての仕事の他、Webディレクションなど、もろもろお仕事させていただいています。

Photo by:

石川ヨシカズ

石川ヨシカズ

1981年神奈川県横須賀市生まれ。フリーカメラマンとして、広告雑誌等で人物写真を中心に活動中。

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