日本の歴史が武家社会へと踏み出そうとしていた11世紀の岩手県平泉。この地で花開いたのが、浄土思想に基づいた仏教文化です。それは多様な寺院、庭園となり、現在まで良好な形で残されています。
中尊寺の金色堂、毛越寺の浄土庭園などはその代表例でしょう。その価値が認められ2011年に「世界遺産」にも指定されました。世界遺産を構成する寺や史跡を中心に、美しい平泉の黄金文化を巡ってみましょう。
東北を代表する名刹「中尊寺」
12世紀の初めに、奥州藤原氏初代・清衡によって造営されたのが中尊寺です。平泉仏教文化の中心的存在で、国宝建造物第一号の金色堂(こんじきどう)をはじめ、多くの宝物を展示する讃衡蔵(さんこうぞう)など見どころの多いスポット。
中尊寺は、標高130mほどの丘陵地に位置しているため、最初に現れるのは「月見坂(つきみざか)」と呼ばれる坂です。古くから本堂・金色堂へと参拝する人々の表参道として利用されてきた坂で、江戸時代に植樹された樹齢300年を超える大きな老杉が沿道に並び、荘厳な雰囲気を醸し出しています。
「弁慶堂」の名で親しまれるお堂
月見坂を登りきると道は平坦になり、右側には展望が開けた「東物見台(ひがしものみだい)」が見えてきます。眼下に北上川、衣川が流れ、その背後に束稲山が控えます。展望所の反対側に建つのが、中尊寺内の人気スポットのひとつ「弁慶堂(べんけいどう)」。
表参道沿いにはいくつかのお堂が点在していますが、江戸時代中期(1700~1750年頃)以降に建てられたものがほとんど。弁慶堂も1827年に建立され、勝軍地蔵を本尊としています。かつて「愛宕堂(あたごどう)」と呼ばれていた入母屋造りの堂内には、源義経、弁慶の木像を安置していて、いつの頃からか「弁慶堂」と呼ばれるようになりました。
中尊寺創建当時から残る「金色堂」
弁慶堂からは、不滅の法灯が輝く本堂、目をはじめ病気の治癒に御利益があるといわれる「峯薬師堂(みねやくしどう)」、そして中尊寺に伝わる3,000点以上の国宝、重要文化財のほとんどを収蔵する「讃衡蔵」などを見学し、「金色堂」へ。
金色堂は1124年、京都から一流の仏師や塗師などが集められて建てられたお堂で、建物の内外が金箔で覆われています。風雨をさけるため、建物はすっぽりと覆堂におさめられていて、ほの暗い館内に鮮やかな金色のお堂が輝く姿に目を奪われることでしょう。
巻柱や須弥壇(しゅみだん)、長押などいたるところに白く光る夜光貝の螺鈿細工(らでんざいく)が施され、さらには透かし彫りの金具や漆蒔絵などが彩り、他に類を見ない贅沢さです。中尊寺創建当初から残る唯一の建物でもあり、世界遺産平泉を知る上でも重要な建物といえるでしょう。
-
中尊寺
- 住所 〒029-4102 岩手県西磐井郡平泉町平泉衣関202
- 電話 0191-46-2211
営業時間:8:30~17:00(11~2月は~16:30)
料金:金色堂・讃衡蔵の拝観料800円(大人)
定休日:無休
月見坂の途中にある人気そば店「そば処義家」へ
中尊寺境内をゆっくりと散策したあとは、月見坂の途中にたたずむ「そば処義家」に立ち寄り、自慢のそばを味わうのもおすすめです。杉林の中にある、昔ながらの茶屋風のそば処で楽しめるのは、岩手名物でもある“わんこそば”。
この店では、最初からお椀に盛って出す「盛り出し式」で、わんこそばを提供。天ぷらや漬物、季節の総菜、果物なども付き、見た目も華やか。通常のそばのほか、茶そばも用意されています。
-
そば処義家
- 住所 〒029-4102 岩手県西磐井郡平泉町平泉衣関43
- 電話 0191-46-4369
営業時間:10:30~15:30※そばがなくなり次第終了
定休日:不定休
「毛越寺」の美しい浄土庭園を散策
850年、慈覚大師によって開山されたと伝わる「毛越寺(もうつうじ)」。その隆盛は、奥州藤原二代基衡から三代秀衡の時代に訪れます。広い境内に多くの伽藍が造営され、当時は堂塔40、僧坊500を数え、中尊寺をしのぐほどの規模とまでいわれていました。しかし、度重なる災禍に遭い、建物はほとんどが焼失、現在、往時の姿を見せるのは大泉が池を中心とする浄土庭園だけとなります。
北に塔山と呼ばれる小さな山を背景として、ゆったりとした景色が広がる庭園は、州浜、立石、枯山水風の築山といった石組や、池に引き入れる遣水など、訪れる人を穏やかな心地にするまさに浄土のような景観。平安期さながらの雅な景色を楽しみながら、池のまわりを散策してみましょう。
建物の礎石などが残る境内を巡る
毛越寺に入り、正面に見えてくるのが本堂です。平安様式の大きな建物で、本尊は薬師如来で平安期に造られたものです。本堂から右手には、大きな大泉が池が広がり、周囲に散策路があります。
池の北側に位置するのが慈覚大師を祀る「開山堂」。ここには藤原三代の画像も安置されています。緑が美しい庭園を見ながら、順路に従って進んで行けば、まもなく巨大な礎石が残る嘉祥寺跡や講堂跡へ。
さらに南へと歩いて行くと、池へと流れていく遣水が見られます。毛越寺の遣水は平安期の唯一の遺構で、全国的にも極めて珍しいものといわれています。この遣水周辺を舞台に、毎年初夏に「曲水の宴」が開催され、平安の雅な情景が再現されます。
-
毛越寺
- 住所 〒029-4102 岩手県西磐井郡平泉町平泉字大沢58
- 電話 0191-46-2331
営業時間:8:30~17:00(11~3月は~16:30)
料金:拝観料500円(大人)
定休日:無休
藤原基衡の妻によって造られた「観自在王院跡」
毛越寺に隣接して広がる「観自在王院跡(かんじざいおういんあと)」は、藤原基衡の妻によって造営されたもので、舞鶴が池を中心にした美しい浄土庭園です。国の特別史跡に指定されています。毛越寺の池は、大きく開放的な雰囲気ですが、こちらの観自在王院跡の池は、植林が多く、造形はより細やかな印象を受けます。
両方見学し、その違いを楽しむのもいいかもしれません。池の奥には18世紀に再建された仏堂が建っています。観自在王院跡は、史跡公園として一般に開放されていて、自由に入園できます。
-
観自在王院跡
- 住所 〒029-4102 岩手県西磐井郡平泉町平泉字志羅山
電話番号:0191-46-4012(平泉文化遺産センター)
営業時間:見学自由
金鶏山を望む「無量光院跡」
藤原秀衡が建立した「無量光院跡(むりょうこういんあと)」は、京都の平等院鳳凰堂を模して建てられました。残念ながら焼失し、現在は礎石が残るだけですが、往時の雰囲気をよく残し、正面から見ると、橋、中島、本堂が一直線に並び、その先に金鶏山(きんけいざん)が望めます。
金鶏山は、秀衡がひと晩で造った人工の山で、そこに雌雄一対の黄金の鶏が埋められているという伝説が残る山。無量光院跡、金鶏山とも、世界遺産を構成する重要な史跡で、往時を思いながら散策するのもいいでしょう。
-
無量光院跡
- 住所 〒029-4102 岩手県西磐井郡平泉町平泉字花立
電話番号:0191-46-4012(平泉文化遺産センター)
営業時間:見学自由
源義経最期の地に建てられたお堂
平泉の中心部から少し離れた小高い丘の上にあるのが「高館・義経堂(たかだちぎけいどう)」です。兄頼朝に追われた源義経は、藤原秀衡の庇護のもと、この高館に居館を与えられ住んでいました。しかし、秀衡の子・泰衡は頼朝からの圧迫に耐えかね、ついには義経を急襲、この高館で、義経は追い詰められ自害したと伝えられています。
見晴らしのいい丘の上には、1683年仙台藩主によって建てられた義経堂があり、中には義経の木像を安置。その後訪れた俳人松尾芭蕉は、この地で「夏草や 兵どもが 夢の跡」という句を詠んでいます。
-
高館・義経堂
- 住所 〒029-4102 岩手県西磐井郡平泉町平泉柳御所
- 電話 0191-46-3300
営業時間:8:30~16:30(11月上旬~3月上旬は~16:00)
料金:拝観料200円
定休日:無休
おみやげも充実した「道の駅平泉」
グルメやおみやげが充実したスポットとして人気を集める「道の駅平泉」。レストランでは新鮮野菜や地元で肥育している「いわて南牛」を使った料理が味わえるほか、土日祝にはバイキングも開催しています。
産直コーナーでは、地元で獲れた野菜や果物のほか、どぶろくやワインなど岩手県産のおみやげが充実。ファストフードが楽しめる売店では、平泉産の和がらしを使ったソフトクリームや、からし肉まんといったテイクアウトメニューもあります。
-
道の駅平泉
- 住所 〒100-6701 岩手県西磐井郡平泉町平泉字伽羅楽112-2
- 電話 0191-48-4795
営業時間:9:00~18:00
定休日:無休
中尊寺や毛越寺などの世界遺産の史跡めぐりがたっぷり楽しめる平泉。平安期のたおやかな文化にふれながら、のんびりと過ごしてみてはいかがでしょう。
Text by:株式会社シュープレス
※価格やメニュー内容は変更になる場合があります。
※特記以外すべて税込み価格です。