相撲は日本を代表する競技ですが、その起源を問われると、答えられる人は少ないかもしれません。日本初の天覧相撲を行ったとされる「當麻蹶速」の出身と言われているのが、奈良県の葛城市です。葛城市は縄文時代から交易の拠点とされ、国宝「當麻曼荼羅」など数多くの文化財があります。相撲・遺跡・国宝が眠る寺と、数々の歴史の舞台となった葛城市の名所を巡る旅へ出かけましょう。
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縄文時代から文化交流が盛ん。葛城市の歴史遺産と街道
奈良県北西部に位置する葛城市は、二上山や葛城山などの山地部から連なる丘陵地と平坦部で構成され、豊かな自然が広がります。二上山は石器の材料になる「サヌカイト」という貴重な岩石が採れることから、その周辺は石器製作の盛んな場所でした。そのため葛城市内には縄文時代から人々の生活があったことを示す遺跡が点在し、貴重な出土品が数多く発見されています。
葛城市を代表する縄文時代の遺跡「竹内(たけのうち)遺跡」では、東北地方や関東地方の土器が出土しています。これは、竹内遺跡で作られる石器を交易品として、太古の昔から遠方の人々とも交流をしていたことが分かります。
葛城市歴史博物館では、奈良県の有形文化財である竹内遺跡出土品や屋敷山古墳の長持形石棺をはじめ、市内の遺跡・古墳から発掘された石器や土器、埴輪などを展示。屋敷山古墳から出土した「馬形埴輪 脚部」は、馬の脚を忠実に表現しており、古墳時代中期にこの地に馬が身近にいたことを示す資料となっています。
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葛城市歴史博物館
- 住所 奈良県葛城市忍海250番地1
アクセス:近鉄御所線忍海駅より徒歩約3分
営業時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
定休日:火、第2・4水、12月28日~1月4日
観覧料:一般200円、高校・大学生100円、小・中学生50円
大阪府堺市の大小路から葛城市の長尾神社に至る全長約30kmにわたる「竹内街道」。日本書紀にある推古天皇21年(613年)の条にて、「難波より京(飛鳥)に至る大道を置く」と記された「大道」のルートと重なることから、「日本最古の官道(国道)」と呼ばれています。難波の港を経由して海外からの物資や文化が葛城を行き交いました。竹内街道沿いには、当時の交流を感じさせる建造物が今も残ります。
相撲発祥の地・葛城市で、相撲文化に触れる
葛城市の「日本最古」は、竹内街道だけではありません。日本書記には日本初の天覧相撲が行われたと記されています。この時に取り組みをしたと伝えられているのが、当麻邑(葛城市)出身の當麻蹶速(たいまのけはや)と、出雲国(島根県)出身の野見宿禰(のみのすくね)。當麻蹶速はこの戦いの末に絶命したといわれ、まさに決死の勝負だったといえます。
「相撲館けはや座」は、葛城市が誇る相撲の開祖・當麻蹶速の伝承と相撲の資料収集と展示を目的とした資料館です。相撲の資料館は全国でも珍しく、日本中の相撲ファンが訪れます。
館内1階にお目見えするのは、本場所と同じサイズで造られた展示用の土俵。老若男女問わず土足で土俵に上がることができ、土俵の上から升席や2階席を眺めれば、力士になったような気分が味わえます。来館の思い出に、館内で貸し出ししている力士の着ぐるみで記念撮影も可能です。
見どころは、市民らによる「相撲甚句」。相撲甚句とは大相撲の巡業で力士が唄う囃子歌のことで、「けはや相撲甚句会」の公開練習が通常毎月第1日曜・第2木曜の14時から行われており、来館者は自由に観覧可能です。腹に響く力強い歌声と心地よい五七五のリズムに、思わず引き込まれます。
館内2階では、全国の相撲ファンからの寄贈品を中心に、貴重な相撲関連の資料を展示しています。所蔵資料は12,000点。資料を詳しく解説するタブレットを片手に、相撲の歴史を学べます。タブレットは日本語・英語・フランス語・簡体字・繁体字・韓国語に対応しています。
葛城市の名所巡りに重要な「中将姫」の伝説
縄文時代から文化交流の盛んだった葛城市には数々の言い伝えが残っていますが、中でも観光名所を巡る上で知っておくべきは「中将姫」の伝説です。
中将姫は、奈良時代の747年に藤原豊成の娘として生誕したとされます。幼い頃に実母が亡くなり継母に疎まれて、命を狙われ始めます。武士の助けを得て、人里離れた場所で身を隠しながら生活をしていたところを狩りをしていた父親と偶然再会します。
継母に疎まれたことなどで世の無常を感じた中将姫は、古今まれにみる名刹で仏法の霊場である當麻寺で心静かに修行するため、入山を決意。當麻寺の門戸を叩き、出家します。そして、生きたまま阿弥陀如来に会いたいと願うようになります。極楽浄土を願っていると老尼から「蓮の茎を集めよ」とお告げがあり、美しい女性の助けを得て、集めた蓮糸から一夜で見事な「當麻曼陀羅」を織り上げました。のちに、老尼は阿弥陀、美しい女性は観音菩薩だったことがわかります。曼陀羅の完成から12年後、中将姫は阿弥陀如来と二十五菩薩に迎えられ、極楽浄土に旅立ちます。
心清らかに信心深く生き、極楽浄土に導かれた中将姫の伝説は今も語り継がれ、中将姫にゆかりのある場所は葛城市内で大切に守られています。
中将姫ゆかりの「當麻寺」で国宝と重要文化財に触れる
中将姫と縁深いのが、飛鳥時代に創建された當麻寺(たいまでら)です。この當麻寺に中将姫が入寺し、當麻曼荼羅を織り上げたとされています。
當麻寺は塔頭と呼ばれる独立した寺院が多数集まって形成されており、浄土宗と真言宗の寺院が同じ敷地内にあるのは日本国内でも珍しいこと。
當麻寺と各塔頭の所蔵品は、建造物も含めて国宝8件、日本最古の石灯籠や梵鐘などの重要文化財は31件にも達し、これほどの文化財が一か所に集まる寺は類を見ません。
平安時代に建てられた国宝「當麻寺本堂」は、當麻曼荼羅を本尊とする本堂です。ここで祀られる當麻曼荼羅は、中将姫が編んだとされる奈良時代の當麻曼荼羅を同じ寸法に写したもので、永正2(1505)年に完成し、"文亀本當麻曼荼羅"と呼ばれ、重要文化財に指定されています。
縦3.75m、横3.83mと見上げるほどの圧巻の大きさ。仄暗い本堂内部でも、荘厳な美しさをひしひしと感じ取れます。曼荼羅の中心に描かれる阿弥陀如来と向き合いながら、自分自身の内面に向き合う時間を過ごせるに違いありません。
本尊を安置する台の須弥壇は鎌倉時代製作、曼荼羅を飾るための厨子は奈良時代製作のものと考えられ、いずれも国宝に指定される貴重な文化財です。
重要文化財に指定されている金堂は、飛鳥時代の當麻寺創建時の本堂だった建物です。金堂内でひときわ目立つ丈六の大きさで国宝の弥勒仏坐像は、日本最古の塑像(粘土などで造られた像)として、仏像彫刻の歴史に名を刻んでいます。
弥勒仏坐像を守護する四天王立像は、そのうち三体が飛鳥時代の制作。当時の仏像の特徴のとおり、ふっくら朗らかなお顔立ちに親しみを感じます。
鎌倉時代に再建された講堂も、重要文化財に指定されています。同じく重要文化財となっている平安時代の阿弥陀如来坐像ほか、貴重な文化財が一堂に会します。拝観料(本堂・金堂・講堂合わせて)は500円。
次の段落から、各塔頭をご案内します。
「當麻寺護念院」は、尼となった中将姫が過ごした寺で、毎年4月14日に行われる「當麻寺練供養会式」の運営主体を取りまとめています。練供養とは、中将姫が二十五菩薩に導かれて極楽浄土へ向かう様子を再現した野外劇です。「當麻寺練供養」として、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
事前予約制で、精進料理も注文可能。豆腐、刺身こんにゃく、なますなど、肉類は一切使われていないので、ベジタリアンの方も安心です。江戸時代初期に作られた庭園を眺めながらのランチは、至福のひと時となるでしょう。當麻寺の他の塔頭でも、精進料理の対応をしているところがあります。
「當麻寺中之坊」は、中将姫が出家するときに剃髪したお寺です。「中将姫剃髪剃刀」は日本最古のかみそりで、常設展示されています。
中之坊では、中将姫の教えを辿る体験を受けられます。天井絵が鮮やかな写仏道場で行われるのは、「写経」と「写仏」体験。写経を熱心に続けていた中将姫に倣い、丁寧に真心を込めて描きましょう。
同じく写仏道場では、住職による「絵解き」を聴くことができます。中将姫が織り上げた當麻曼荼羅の模写を観ながら、どこに何が描かれ、どのような意味が込められているか知る貴重な体験で、當麻曼荼羅への理解が一層深まります。
本堂の奥にある「當麻寺奥院」は、自然豊かな「浄土庭園」を有する寺院です。浄土庭園には阿弥陀如来像など仏をあらわす石が並び、中央の宝池は水鏡となって仏を映します。中将姫が最後に導かれた浄土は、この庭のように、彩り豊かな自然と仏が一体となる世界だったのかもしれません。二上山から流れる風を感じながら、ゆっくりと散策してみましょう。
奥院の「宝物館」は、延宝7年(1679)に描かれた當麻曼陀羅をはじめ、中将姫の物語を表した「中将姫絵伝」などを保管しています。
「當麻寺西南院」は、四季折々の自然と庭園を感じられることで知られています。春にはぼたんや石楠花、夏は蓮、秋には紅葉と、どの時期に訪れても心あらわれる景色と巡り合えます。
寺院内にある見晴台からは、西塔と東塔を拝めます。僧侶が修行していた頃の奈良時代や平安時代の二つの塔(双塔式伽藍)が現存するのはここ當麻寺だけで、二つの塔を眼前にすれば、當麻寺の歴史の深さを実感できるでしょう。
※葛城市ならびに各院の協力を得て特別に撮影を許可いただいています。通常、文化財は撮影が禁止されています。
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當麻寺
- 住所 奈良県葛城市當麻1263
アクセス:近鉄南大阪線「当麻寺駅」より徒歩約15分
蓮糸が五色に染まった“染寺”の異名を持つ「石光寺」
當麻寺から徒歩圏内にある「石光寺」も、中将姫の伝説に登場する寺のひとつです。中将姫は當麻曼荼羅を編むために蓮の茎を集めて蓮糸を作りますが、石光寺内の井戸に浸すと、蓮糸が五色に染まったと伝えられています。鮮やかな蓮糸で編まれた当時の當麻曼荼羅は、想像を絶する輝きを放っていたに違いありません。この言い伝えから、石光寺は「染寺」とも呼ばれています。
石光寺では、中将姫が描かれた貴重な御朱印を書いていただけます。御朱印帳を振り返るたび、中将姫の奇跡を感じられるはず。
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慈雲山 石光寺
- 住所 奈良県葛城市染野387
アクセス:近鉄南大阪線二上神社口駅より徒歩約15分
よもぎの香りと上品なあんがやみつきになる「中将餅」
當麻寺の最寄り駅となる当麻寺駅前にある「中将堂本舗」は、喫茶スペースを併設した和菓子店で、お寺参りをした人たちや地元の方々の憩いの場となっています。
ここで提供される「中将餅」は、中将姫にちなんで名づけられたあんつけ餅です。よもぎ餅の上に、牡丹の花びらを模ったあんが添えられた上品な一品で、つぶあんとこしあんを混ぜたコクのある味わいが特徴です。休日は午前中のうちに完売することもあるため、早めの購入を。
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中将堂本舗
- 住所 奈良県葛城市当麻55-1
- 電話 0745-48-3211
アクセス:近鉄南大阪線当麻寺駅下車すぐ
営業時間:9:00~17:00 ※売り切れ次第終了
定休日:7月全休、8月中旬~8/31、12月末~1月初旬
「釜めし 玉や」で炊き立ての奈良県産米に舌鼓
當麻寺の門前に位置する「釜めし 玉や」は、築170年以上と考えられる旅籠をリノベーションした釜めし店。国の登録有形文化財でもあります。奈良県産のヒノヒカリを使用した炊き立てのご飯は、粒が際立ちみずみずしく絶品!釜にはお茶碗3杯分が入っており、1杯目はそのまま、2杯目は温泉玉子で玉子かけご飯、3杯目は出汁とネギでお茶漬けにして食べれば、あっという間に完食できます。
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釜めし 玉や
- 住所 奈良県葛城市當麻1242
アクセス:近鉄南大阪線当麻寺駅出口より徒歩約12分
営業時間:11:00~15:00
定休日:月(祝日の場合は営業、翌火曜休)
宮城野親方プロデュースのちゃんこ鍋
けはや座を見学した後に食事を取るなら、ちゃんこ鍋店「ダイニングHAKUHO」がおすすめ。ここは葛城市の観光大使を務める元横綱・白鵬の宮城野親方がプロデュースしたレストランです。古民家を改装した店内には相撲甚句が流れ、雰囲気たっぷり。
お昼の時間帯には、数種類のプレートとちゃんこ鍋がセットになったらランチ(1,800円)を提供しています。宮城野親方が慣れ親しんだちゃんこ鍋は、旨味がしっかり感じられてホッとする味。ご飯は升入りというユニークな計らいも。
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ダイニングHAKUHO
- 住所 奈良県葛城市寺口354
アクセス:近鉄御所線新庄駅からタクシー約8分
営業時間:11:00~14:00、17:30〜22:00
定休日:日、月
「梅乃宿酒造」で世界に一本の梅酒づくり
自分用へのお土産なら、葛城山の麓にある「梅乃宿酒造」へ。酒造に併設された直営店で、純米大吟醸「梅乃宿」をはじめとする日本酒や、日本酒で漬け込んだ梅酒を購入できます。蔵見学(事前予約制)では実際に酒造りを行っている工程を見物可能。好きな梅と糖を組み合わせて、梅酒または梅シロップを作れる体験(1,500円/1名)も実施しています。
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梅乃宿酒造
- 住所 奈良県葛城市寺口27番地1
アクセス:近鉄新庄駅より徒歩約25分
営業時間:10:00~18:00
定休日:不定休
「道の駅かつらぎ」でお土産探し
「道の駅かつらぎ」は、朝採れの野菜や果物をはじめ、お惣菜、生鮮食品、地酒も揃う大型施設です。コクのある「當麻のけはやたまご」、葛城山麓で栽培された桑の葉100%使用の「桑の葉粉末茶」や「桑の葉ラスク」など、地元企業による生産品や加工品も充実。奈良県内の加工品やお菓子も売られているので、お土産探しにうってつけです。
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道の駅かつらぎ
- 住所 奈良県葛城市太田1257
アクセス:南阪奈道路葛城ICすぐ
営業時間:農産物直売所・フォレストカフェ9:00~18:00/レストラン11:00~18:00(夏季は各19:00まで)
定休日:年中無休(施設内一部店舗を除く)
道の駅「當麻の家」で地元民気分のお買い物
「當麻の家」は、地元の方たちも足繁く通う道の駅です。野菜、生花、手作りのパンやケーキが所狭しと並ぶ中でも、特に人気は名物のおもち。毎日つきたてを提供し、弾力があり食べ応えのある食感が楽しめます。「小麦餅」はつぶした小麦ともち米を混ぜたおもちで、プチプチとした食感が癖になります。
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ふたかみパーク當麻 當麻の家
- 住所 奈良県葛城市新在家402-1
アクセス:西名阪自動車道「柏原IC」から国道165号線(バイパス)を御所方面へ10分
営業時間:9:00~17:00
休館日:12月31日~1月3日
縄文時代から人々が往来し、日本初の天覧相撲を行ったとされる「當麻蹶速」ゆかりの地であり、国宝と重要文化財が多く集まる當麻寺をはじめ、どこを訪れても歴史的な遺産に巡り合える奈良県葛城市。大阪から車・電車で1時間程度の距離にあります。いにしえの時代に思いを馳せながら、日本の歴史の重要拠点を探求してみませんか。
※価格やメニュー内容は変更になる場合があります。
※特記以外すべて税込み価格です。
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