日本旅行中、最も印象に残る場所となりうるかもしれない日本刀の店がある。まず店に足を踏み入れると、身を清める手水場が迎えてくれる。そしてそこから、伝統にあふれた世界が広がっていくのだ。今回は、日本刀に興味がある方はもちろんだが、興味がない方をも魅了する「日本刀天国」を紹介したい。
日本文化の継承

同店の名前は誠友堂。200振以上の刀が店頭に揃っているという、日本中を探しても、なかなかない稀な店だ。主には江戸時代または明治時代のものだが、なかには鎌倉時代(1192-1333年)の刀まである。店主である生野氏は、正真正銘の日本刀愛好家。氏は、刀の本来の美しさについて話すだけでなく、さらに理解しやすく、面白い方法で、一つ一つの刀の物語を紹介してくれる。「私は小学生の頃から刀が好きでした。当時のテレビではちゃんばらが多くて。友達もみんな、刀やピストルが好きだった。そんな時代でした」と生野氏。客層は多岐にわたっているとか。「多くは年配の方ばかり。だけど下は30代からで、上は70代、80代もいらっしゃいますよ」その理由はというと?「刀は安いものではないからね。刀に対する情熱がないとね。でも、国宝に指定されているもので、もっとも多いものは刀なんですよ」と生野氏が教えてくれた。
情熱と美がひとつになる時

日本の古美術を語るとき、刀はそれだけでひとつの世界がある。「日本の文化は刀なくしては語れないですよ」と生野氏。店内には重要刀剣の指定を受けた刀がある。その一つは、さかのぼること南北朝時代(1390年)に作られた太刀だ。目を見張るような美しい金細工が施された鍔が印象的。刀自体はというと、光にかざすと見事な波紋が浮き出てくる。持たせていただくと、その重みから、刀は武器として生きているように感じた。今日に至っても、刀が美しい品とされている理由は、現代のテクノロジーをもってしても、かつて作られた日本刀と全く同じ美しい刀を作ることができないという点にあると思った。
製作は1ヶ月に2本まで!?

刀職人は全国に数百人。そのうちトップは16人といわれていて、現在、存命の人間国宝の職人はいないのだとか。興味深いことに、国の決まりで、1ヶ月に2本しか刀を作ることが許されていないのだとか。どうやって生活をしてくのだろうか。まだ駆け出しで、仕事が少ない職人もいる。いつの時代もどの国でも、職人として生きていくことの辛さに大差はないなと感じた。
職人はまず材料である鉄を自分で仕入れて、刀を作る。日本古来の製鉄技術、たたらによって生産され、その品質は非常に優れたものといわれている。そして研ぎ師に研いでもらい、鍔や鞘の職人にそれぞれ作ってもらい、複数の職人によって、やっと一つの完成品となり、職人から発注元へと納品されるのだ。
刀のほかにも…

同店では、鍔のコレクションも膨大だ。鍔は刀を持つ手を守り、武器としての刀の重量バランスを保つものでもある。しかしさらに、よく見るとそこには装飾があり、小さな物語を紡いでいたのだ。江戸中期以降は、この鍔が、独立した芸術作品として金工師の腕の見せどころになったのだとか。例えば、梅の花や河童といったものが描かれているのだ。貝殻の内側の、虹色に放つ光沢をいかした螺鈿のものもあった。漆器など、伝統的な装飾技法としてよく日本の工芸品で見かけるが、こんなところにも、と驚いた。
ほかにも同店では、火縄銃や練習用の刀、鞘、メンテナンス用のキットなども置いている。
自国に持ち帰るには?

日本刀に興味を持たれて、買ってみたいと思った方は、ぜひ同店へ。東京都公安委員会が発行する古美術商免許を持っているうえ、全国美術商連合会の会員だから安心だ。しかしながら、国によって法律が異なるので、ぜひ同店の購入案内書をしっかり読んでいただきたい。購入してから認可が下りて、自国の自宅に到着するまでは数週間以上かかることも知っておこう。銀座の観光中に、ふらりと寄ってみては?
2011年から日本に在住し、東京の足立区に住みながらジャーナリストとして活動しているQuentin Weinsantoです。日本の見どころや、興味深い話題をお届けできたらと思います。
※価格やメニュー内容は変更になる場合があります。
※特記以外すべて税込み価格です。
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