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ライターのカツセマサヒコ(@katsuse_m)です。
高校時代、ファッション誌に載りたくて表参道を何往復もしていたら、あやしい宗教団体に勧誘されて危うく入りそうになったことがあります。
日本のカルチャーやフード、エンタテインメントなどを紹介する当メディア・LIVE JAPANですが、今回はそんな「原宿の文化」にスポットを当てることになりました。
しかしですね……。
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原宿、ネタがありすぎるでしょ。
例えばランドマーク的存在であるファッションビル「ラフォーレ」の歴史ひとつ取っても半端じゃない情報量だし、95年から2005年にかけてブームとなった裏原宿(通称「裏ハラ」)文化とか、アイドルの隠れた登竜門として知られる「アストロホール」の舞台裏ネタとか、どこを切り取っても超面白いのが原宿という街だと思うのです。さすが情報の発信地、ネタだけは死ぬほどあります。
最近だって、BEAMSが40周年を記念して作った動画が話題を呼びましたが、もちろんこの中にも、原宿発信の文化が盛り盛り詰まっているわけですね。
そんな原宿を舞台にどんな記事を書こうか? とぼんやり歩いていたところ、ある集団が目に入りました。
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代々木公園の入り口で踊ってる、リーゼント集団!!!
若者向けファッションやカルチャーの最先端を行く原宿エリアで、なんでリーゼント? なぜデニム・オン・デニム? 一見、時代錯誤な彼らを見て、思わずシャッターを切った方もたくさんいるのではないでしょうか。
彼らは通称「ローラー族」と呼ばれていて、50年代のファッションに身を包み、ロカビリーミュージックに合わせて踊ることで知られています。
約30年前に原宿で大ブームとなった彼らが、なぜ今も踊ってるのか、どんな想いがあるのか、今回、特別に取材させてもらうことになりました!
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取材に協力いただくのは、「ストレンジャーズ」の皆さんです!!!!!!
急に画質が荒いがそれでも迫力が半端ないーッ!!!!!
「ローラー族」が今も生きている理由
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明らかに一筋縄ではいかなそうなメンバーたちを束ねるのは、リーダーの和代(かずよ)さんです。さっそく話を聞いてみます。
――結成されたのは、いつ頃なんですか?
私が看板を引き継いで2年ですが、チームとしては昨年25周年を迎えました。
――思ったよりも長い! 25年間ずっと、原宿で踊っていたんですか?
そうです。毎週末、「ホコ天」ブームが終わってからも、ずっとですね。
――「ホコ天」ってアレですよね。1977年から1996年までの約20年間、代々木公園の交番前から青山通りまでの約2.2kmが歩行者天国になっていて、若者たちは土日になるとそこに集まって、カラフルでダボッとした衣装で踊る「竹の子族」や、和代さんたちのような50年代ファッションでロカビリーを踊る「ローラー族」などの文化を作っていったんですよね。で、80年代後半からはTBSの深夜番組の名コーナー「イカ天(三宅裕司のいかすバンド天国)」の影響もあり、ここで路上ライヴをしていたロックバンドが続々とブレイクするなど、とにかくたくさんの文化が生まれた場所な、アレですよね。
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すっごく詳しく説明したね?
――最近の若者はこういうことを知らずに原宿で遊んでますからね。記事の都合上、全力で説明しました。
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――失礼な話なのですが、「ホコ天」が終わったことで、ローラー族の文化は、一度は途絶えたんだと思っていました……。
辞めてしまった人も多いですが、文化としては、絶えることなく続いていました。
――全盛期は、30年前くらいですよね? ストレンジャーズの皆さんを見ていると、30歳より若い印象の方も見かけるんですけど……。
当時のことは知らないまま、踊っているメンバーもいますよ。自分から「やってみたい」と声をかけてくる人もいますし、仲間が連れてきたり、ライブ会場で出会ったりして、少しずつ広がっていったんです。こういうチームは全国にありますけど、「聖地」と呼ばれる原宿は歴史が長く、自然とそこにメンバーが集まってくるのもありますね。
――歴史は脈々と引き継がれてきたんですね。
そうですね。「時代遅れだ」と言う人もいるけれど、これだけの規模で無償でやってるって、なかなかないじゃないですか。利害関係がないのにこうやって何十年も続いているものって、今の時代だからこそ、大事にしなきゃいけないんじゃないかなって思っています。
――なるほど、確かにそうかもしれません。
あとはもう、ここにいるメンバーはロックンロールが大好きな子ばっかりだし、そのつながり、仲間意識を一番大事にしていきたいですね。
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――今日も客観的に見ていて思ったんですけど、この文化、今になって「新しい」と認知されてきている気がするんです。外国人の観客も、増えてきていますよね?
そうですね、反応が変わってきたように感じます。とてもたくさんの方に注目されてきているし、ネットの力もあるのかな。今年の3月は、パリに行きました。
――パリ!? フェス的な何かがあったんですか?
いや、パリコレです。
――パリコレ!???????
パリコレでパーティがあって、そこに出てくれないかって言われました。あと、東京のガイドブックの表紙に、勝手に使われていたこともあって。
――すごすぎる。東京の代表がコレだと言い切るガイドブックもすごいし、無許可で表紙もすごい。
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――そういえば皆さん、リーゼントや服装は、ご自宅で準備して来るんですか?
そうですね。若い子たちにも、「こうやって着るんだよ」「原宿のリーゼントはこうやるんだよ」って教えて、受け継いでいってます。あとは、「エイト」って知ってます?
――エイト?
「バーバーショップエイト」っていう床屋さんなんですけど、40年前からリーゼントを作り続けてて、ずっと原宿の文化を支えているんですよ。そこの床屋さん。
――初めて聞きました。そんなところがあるんですね。
うちのメンバーもお世話になっているので、ちょっと行ってみてください。原宿の昔の話、もっと聞けると思うので。
――ありがとうございます、行ってみます!
原宿文化を支えた床屋に行ってみる
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ということで、竹下通りを抜けて、原宿警察署近くにある床屋「バーバーショップエイト」までやってきました。
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▲お話を伺うのは、カット歴52年の大ベテラン、店主の鈴木さんです。
――この店のオープンはいつですか?
1971年です。最初は竹下通りに店を構えていました。
――じゃあもう、45年近くあるお店なんですね! 昔から原宿近辺にお住まいなのでしょうか?
23歳のころから住み始めて、今が71歳だから、50年弱は住んでるなあ。
――じゃあずっと原宿を見てこられたんですね。50年前年の竹下通りって、どんな感じだったのでしょう?
当たり前だけど、全然違ったよ。原宿駅を出て、竹下口の向かいが薬局と、ゴルフの練習場だったもん。
――ゴルフ練習場!!
そうだよ。あと、薬局の奥のところが、連れ込み旅館だったの。
――連れ込み旅館!!!!(笑)
若い人って「連れ込み旅館」って言ってもわかんないよね。今で言う、ラブホテルよ。竹下通りに面したところは全て塀で囲まれていて、薬局の横の道から入るんだよね。
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――今の雰囲気からは想像もつかないですね……。「ローラー族」や「竹の子族」の時代はどんな雰囲気でしたか?
「竹の子族」が踊るときの格好がリーゼントでね、その時代から、うちのお客さんは本当に増えた。竹下通りの前を歩いてるリーゼントは、みんなうちのお客さんみたくなってたから。
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▲鈴木さんがカットしたリーゼントの写真。
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▲お客さんもみんなこだわりが強いらしく、自分で絵を描いて持ってくる人が多かったのだとか。それを毎度実現させてきたというから、すごい。
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――竹下通りのお店から今の場所までは、どのくらいの時期に移転されたんですか?
竹下通り沿いのお店は4年くらいで場所を変えて、同じ原宿でも、今の場所とはまた別のところでお店を続けていたんだけど、そのときは店が狭いから外にも行列ができてて、ビールケースを置いて、そこに座って待ってもらっていたんだよ。
――それ全員、リーゼントになる人たちですもんね。すごい時代だ……。
それが毎日だよ。土日だけじゃなく平日もだからね。
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――原宿の街並は、どんどん変わっていくじゃないですか。竹下通りがアイコン化したら、今度は裏ハラにクリエイターが集まって、オシャレで小さなお店がたくさんできて、かと思ったら大型のファッションビルがそれを飲みこむように立ち並んでいく。こういう変化を見続けて、どう思われますか?
正直な感想でいいのかな。もう歳だからそう感じるんだろうけど、新しい原宿は、そんなに好きじゃないよ。
昔は、明治神宮と東郷神社があって、その門前町みたくなっているのが、原宿という場所だった。代々木公園も、当時は連合国の持ち物で、それから東京五輪の誘致が決まって、国立競技場ができて、選手村となったんだよ。
――え! じゃあ代々木公園って、昔は選手村だったんですか!
そうだよ。当時は高い建物なんてほとんどなくて、原宿の駅前、表参道のところにある「コープオリンピア」だけだったね。あれがオリンピックと同じくらいにできたんだよ。
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※コープオリンピア 原宿駅の表参道口を出て右前に見える、大きなマンション。1965年当時、分譲価格が1億円を突破したことから、いわゆる「億ション」の第一号だとか。高校時代に「住んでみたい」って400回くらい思ったことがある。
――景観はどんどん変わっていったんですね。
今度の五輪に向けても、また、どんどん変わっていくと思うよ。新しいものは新しいもので受け入れていかなきゃいけないんだろうし、ここは変化に柔軟な街だから、きっと「原宿らしさ」はずっと生き続けるんじゃないかな。
――鈴木さんご自身の柔軟さにも、驚きます。
古い床屋だったらね、昔のままの街のほうがいいんだろうけど、うちは原宿と一緒に変化してきたつもりだから。遊び心を持って切っているし、それがないと、やっていけないよね。
――そうか、鈴木さんご自身が、楽しんでカットされているんですね。
若いやつらをイジるの、面白いからなあ(笑)。あとは外国人のお客さんで、リーゼントにしてくれって言う人も増えてるからね。楽しいよ、すごく。
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▲当時の写真を見せてくれながら、楽しそうに喋る鈴木さん。最高の70代だと思う。
――2020年に向けて、こうなってほしいなあ、という想いはありますか?
んー、こっちが望もうが、望まないでいようが、原宿はどんどん変わっていくからね。リピート客だけじゃない、新しいお客さんも増えていくだろうし。
――その自信もすごいと思うんです。どうして新しいお客さんが来るのでしょう?
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・・・・・・腕?
――さすがです(笑)。
あとは口コミだよな。洋服屋の店員さんとか、影響力が大きいんだよ。お店にリーゼントでいたら、「それ、どこでやったの?」って、口コミが広がっていくでしょ。
――どれだけ街が変わっていっても、そういう文化は廃れないんでしょうね。
そうだね、だから70歳過ぎても、現役でやれているのよ。同じスタンスで遊んでいられるから。人のことが、好きだしな。これからも続けていきたいと思っているよ。
――素敵なお話、ありがとうございました!
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変わりゆく原宿の街並ですが、和代リーダーや鈴木さんの話を伺っていると、その文化を支えているのは「周りが変わっていく中でも、変わらないものを持っている人たち」なのではないかと思いました。
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普段、何気なく買い物をしたり、ご飯を食べたりしている街にも、古くから見守っている人や、この街で何かを成し遂げようと意気込んでいる人たちもいます。
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そうした人たちを受け入れて、飲みこんでいく原宿という街が、2020年の東京五輪や、それ以降もどのように変わっていくのか、原宿好きの人間のひとりとして、今後も見続けていきたいと思いました。
取材協力「バーバーショップエイト」
03-3405-6070
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-27-11
カツセマサヒコ
下北沢の編集プロダクション・プレスラボのライター/編集者。
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