「都心から一番近い蒸気機関車」として知られる「SLパレオエクスプレス」。秩父鉄道の熊谷駅から三峰口駅の区間を片道約2時間40分かけて1日1往復しています。秋が深まるこれからの季節は、紅葉に染まる秩父の山々を鉄道から見ようと全国から多くのファンが訪れます。
2019年10月には、指定券の取り扱いが終了。客車4両が全席自由席で乗れるようになりました。今回は「SLパレオエクスプレス」に乗車し、切符の購入から実際に乗ってみて分かったおすすめ情報などをリポートします!
なお、残念ながら2020年はSLパレオエクスプレスの運行予定がないそうです。気になっている方は、ぜひ2019年のうちに乗車してみてくださいね。
「パレオ」ってなに?
「SLパレオエクスプレス」の名の由来となったのは、およそ2000万年前に秩父に生息したという海獣「パレオパラドキシア」。その子どもをイメージしたオリジナルキャラクター「パレオくん・パレナちゃん」が秩父鉄道のイベントや駅などにときどき出没します。イノセントな瞳がめちゃくちゃ可愛いので、秩父鉄道に乗車する際はぜひ注目してみてください。
「SLパレオエクスプレス」切符の購入方法は?
さて、SLパレオエクスプレスに乗る際は、まず公式ホームページ等で運行日をチェックしましょう。SLパレオエクスプレスに乗れるのは、基本的には土日祝日。土日祝日以外の日は限られた日取りのみの運行となっています。ちなみに、2019年10~12月の平日は計9日、運行が予定されています。
また確実に乗車するためには、乗車時に必須となる「SL整理券」(520円)を事前予約しておきましょう。SL整理券は、運転日の1カ月前から、指定された窓口および電話、公式ホームページで予約が可能です。ホームページから予約をした場合は、予約フォームから希望日や乗車区間を指定して申し込みをすると「受付番号」が付与されます。当日はその番号を持って乗車駅の窓口に行けば、整理券を購入できます。
SLパレオエクスプレスに乗車するには、SL整理券のほかに、乗車区間の普通乗車券も購入する必要があります。もし片道740円以上の区間を往復で乗車するなら、秩父鉄道1日乗り放題の「1日フリーきっぷ」(大人1470円/小児740円)がおすすめです。
ちなみに、筆者はどの乗車券を買ったらいいか迷ったのですが、きっぷ売り場でとっても親切に教えてもらえました。
熊谷駅を出発!
今回は全区間を往復する計画なので、出発駅は「熊谷駅」。埼玉県北部の中心地とも言える大きな街です。秩父鉄道の改札はJRの改札のすぐそばで、情趣溢れる雰囲気が素敵です。
駅構内では「SLパレオエクスプレス」の乗車記念スタンプを押し、記念品やおやつを買うこともできました。
ホームでしばし待っていると、これから乗車するSLパレオエクスプレスがデキ(電気機関車)に牽引されて入線。
さらにデキが切り離されて帰っていくシーンも見られました。
客車に乗り込み出発を待っていると、SLパレオエクスプレスがいよいよ出発!
乗車した日はハイシーズンではなく、平日、さらに雨模様と、良い(?)条件が揃ったので、行列も短くあせらずに座れました。紅葉シーズンや休日は混雑することも多いとのこと。確実に希望の席に座りたい場合は、早めにホームで待っていたほうが安全です。
筆者個人的には出発前夜に熊谷駅周辺で宿泊するのもおすすめです。熊谷は中山道の要衝として昔から栄えた街で、美味しいお店が多く、夜を楽しめます。駅近くで宿泊することで朝余裕を持ってSLに並べるので一石二鳥です。
おすすめの席は?
さて。このSLパレオエクスプレスで人気のお席は、一番後ろの車両の窓際です。なぜなら、線路が曲がるタイミングで前方を走る蒸気機関車の姿が見えるから。
SLならではの揺れや音を感じながら、煙を吐いて走る機関車を眺められるので旅情たっぷり!
一番前の車両は、残念ながら走行中のSLの姿は見えませんが、蒸気機関の迫力は十分に感じられます。
【熊谷〜武川】座席の様子を堪能
無事に最後尾車両のお席に陣取ったら、いよいよSL旅の始まり。まずは車内の空間を堪能します。
パレオエクスプレスの客車は、昭和44年から53年にかけて国鉄(日本国有鉄道)が製造した急行形客車「12系」を昭和レトロ調に改装したもの。艶めく紅のボックスシートや、木目調の調度に囲まれると、なんだか古い映画の中にいるような気分です。
さらに楽しいのが秩父市出身の落語家、林家たい平さんによる車内放送。おなじみの軽妙な語り口で各駅の情報を案内してくれます。
熊谷~武川区間の車窓で注目したいスポットは、鉄道ファン必見の「広瀬川原車両基地」。
車両の整備や清掃、点検などが行われる基地です。
【武川〜寄居】いざ車内探検!
武川駅を過ぎ、SLはしばらく穏やかな田園地帯や住宅街の中を走ります。
驚いたのは、車窓から街並みを眺めていると多くの方がSLに手を振ってくれること!線路際で列車を見物する子どもたちや、犬の散歩途中のお父さんなど、たくさんの地域の方々と手を振り交わしました。
せっかくなので、別の車両の様子も探検に行きました。
先頭車両最前の小窓からは炭水車の様子がうかがえます。
トイレや洗面所も備えられているので、長旅も安心!
レトロな小部屋には乗車記念スタンプを押せるブースが設けられていました。
最高すぎたお弁当「SLパレオランチ」
列車旅の昼食はやっぱりお弁当! ということで、車内販売限定のメニューをいただきました。
パレオくん・パレナちゃんが描かれた可愛いパッケージを開けば、ご飯の上にSL型の海苔が鎮座しています。
しかし実は、このお弁当の真のスゴみは可愛らしさではありません。何が良いって、料理が良い!1箱で和洋中のおかずを網羅する実力派。和食エリアは鮭や煮物、真薯に卵焼きなど懐石のよう。中華エリアも春巻きにエビチリ、焼売にザーサイと豪華。洋食エリアは肉厚のカツにソーセージ、スパゲティとハイカラメニューが揃います。
しかも、どのおかずもごまかしのない真面目な味わいで最高でした!
ちなみに、バランまでSL。大人気のお弁当なので、車内販売の方が通ったらすかさず購入しましょう。
【寄居〜長瀞】玉淀湖が見える!
寄居駅を過ぎれば、いよいよ秩父の山並みが眼前に迫ってきます。通過駅である「波久礼駅」を越えると、荒川の流れをたたえる「玉淀湖」が。
あいにくの天気だったので写真では水がにごっていますが、晴れた日には美しい緑の水面を眺めることができます。
SLと自動車が間近に並走するのも、なんだか楽しい風景です。
長瀞駅は、山並みに似合うおしゃれな雰囲気の駅。
長瀞エリアは岩畳の絶景や、ライン下りで有名な人気観光地でもあり、多くの方が乗降していました。紅葉も素晴らしいので、これからの時期にぜひ訪れたいスポットでもあります。
【長瀞~皆野】山並みと清流を眺めながら
長瀞~皆野の区間には、秩父鉄道で一番長い鉄橋である「荒川橋梁」を通過します。長さ167m・水面からの高さ20mというスケールの大きな橋で、通過中の車窓からは眼下に流れる荒川の風景を堪能できます。
【皆野~秩父】かっこいい!貨物駅&ホッパ車
皆野から秩父駅に向かう途中には、貨物専用の「武州原谷駅」が見られます。この駅は、セメント工場が隣接しているという珍しいスポット。
秩父鉄道は、秩父市の武甲山で取れる石灰石を運び、セメント産業を支える鉄道でもあるのです。かっこいい貨車「鉱石運搬用ホッパ車」にも高確率で出会えますよ!
【秩父~お花畑】秩父路の中心地
この区間は秩父地方の中心エリアを通ります。秩父夜祭で有名な「秩父神社」を拝観したり、昔の面影を残す街並みを歩いたり、秩父名物の蕎麦やワラジかつ丼を楽しんだりと、秩父観光をするなら秩父駅もしくはお花畑駅で途中下車するのがおすすめです。
車窓から武甲山の威容が眺められるのもこの区間(あいにくの雨&霧で筆者は見られませんでした)。また、春にはお花畑駅近くの公園で一面の芝桜が咲き誇り、多くの見学者が訪れます。
【お花畑~三峰口】歴史深い橋を渡って
終点間際の最後の区間は、とにかく豊かな山々の自然美が印象的。
秩父鉄道で一番高い鉄橋である「安谷川橋梁」も通過します。深い渓谷にかかる鉄橋を渡るのは、スリリングで楽しい瞬間(しつこいようですが、晴れた日は美しい清流が見えます)。
安谷川橋梁は明治・大正期にかけて多用された「ボルチモア・トラス」という構造の橋。歴史が深く、とても姿が美しいので、車外から見るのも素敵です。秩父鉄道・武州日野駅から徒歩5分の「安谷橋旧橋」が人気の展望スポットになっています(武州日野駅は各駅停車駅なので、SLパレオエクスプレスは停まりません)。
終点・三峰口駅は楽しみがいっぱい!
いよいよ下り線の終点となる「三峰口駅」に到着!
ミントグリーンが爽やかなこの駅からは、秩父湖や、パワースポットとして有名な三峰神社などにアクセスが可能。トレッキングを楽しむ人も多く訪れます。
そしてSLエクスプレスに乗って三峰口に来たなら、必見は「整備作業」と「転車台」です。SLは炭水車(テンダー)に石炭と水を積んで走るわけですが、熊谷-三峰口間一往復には、なんと約1トンの石炭と、約9トンの水が必要なのだとか!
給水・排炭・給油・石炭ならし…と、機関士さんたちがどんどん作業を進めていく様子は圧巻です。補給や整備が終わると、SLは「転車台」へ向かいます。
転車台とは、蒸気機関車が方向を転換するためのターンテーブル(電車と違い、SLは折り返しの際に逆向きに走らず、転車台で方向を変えます)。
三峰口駅ではすぐ近くで回転する様子が見られるのですが、実は現役で転車台が稼動しているのは全国でも限られた駅だけ。大雨もものともせず、多くの人がカメラを構えて貴重な瞬間を見守っていました。
帰りもSL!三峰口駅から熊谷駅へ
SLの整備と転車台を堪能して、三峰口名物のお蕎麦を食べたら、あっという間に復路の発車時刻に。SLで往復するなら、往路とは逆側の景色が見られる席を狙うのもオツなものです。
駅等で配布されている「SLパレオエクスプレス SLスタンプシート&沿線インフォメーション」をゲットしておくと、絶景スポットが「何時頃」に「車両のどちら側」で見られるかが分かりやすく記載されています。
軽く1杯やりながら……大人のSL旅
帰り道では、取材中にもかかわらず車内販売の誘惑に負けて埼玉県の地ビールとおつまみを購入。
筆者のおすすめおつまみは「SL石炭あられ」(650円・税込)です。食用竹炭が練りこまれた大粒のあられは、石炭そっくり!
見た目はユニークですが、食べてみるとお米の香りが引き立ったなんとも上品な味わいです。
楽しいお土産もたくさん!
車内販売や、SL停車駅では楽しいSL土産も豊富に用意されています。パレオくん・パレナちゃんのグッズはもちろん、SL「C58」のプレートをデザインした硬派な雑貨、秩父名物の数々など、ギフトにも嬉しいアイテムが揃います。
筆者が購入したのは「連結するとダッシュで走行!C58くんでGO!」(1100円・税込)。
ヒモでつながれた機関車と客車を左右に引っ張るとゼンマイが巻かれ、手を離すと車両が自動で連結、さらに走り出すというおもちゃです。
可愛い見た目に反してなかなかのスピードで走り出すので、絶対平らな場所で遊ぶのをおすすめします。
熊谷駅でC58とお別れ
帰路もたくさん楽しんで、SLパレオエクスプレスの旅も終わりの時が近づきます。
終点の熊谷駅では、皆さん、別れを惜しむようにC58を見送っていました。
都心から一番近い蒸気機関車「SLパレオエクスプレス」は、やさしいおもてなしの心がいっぱいで、アットホームなぬくもりを感じる列車でした。
穏やかな田園風景や、雄大な山々。お弁当やおやつを食べたり、車内を探検したり。秩父鉄道ならでは風情のある駅舎や、頼もしい貨物列車を見られたのも嬉しい体験となりました。残念ながら2020年はSLパレオエクスプレスの運行予定がありませんが、ぜひ2019年のうちに乗車してみてくださいね!
東京都出身30代女性。フリーランスでライターをやっています。最も関心を持っているテーマは「人の仕事」と「おいしいもの&お酒」。好きなものは旅先のお寿司!
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