旅の醍醐味といえば、行った先の国や土地でしかできない滞在や体験をすることではないでしょうか。メジャーな観光地めぐり、ホテルや旅館での滞在もいいですが、そこに住んでいる人たちと同じような暮らし、生活の知恵などを知ることができれば、より密な思い出になるはずです。
世界各国はもとより日本各地もめぐっている現役添乗員の私・島田みゆが今回紹介するのは、日本の伝統技術である“かやぶき屋根”の家に泊まれる宿。人気観光地の京都から少し足を延ばして、昔から伝わるサステナブルな日本の暮らしを体験してみませんか?
かやぶき屋根の住宅とは?
日本の原風景を感じさせるのが、かやぶき屋根の住宅。日本人にとっては小さい頃の童話で描かれていた定番の風景で、実際に住んだことがない現代の日本人にとっても、どこか懐かしく、古き良き日本の風情を感じられます。
稲やワラなどの植物で囲った屋根を「かやぶき屋根」といい、昔からの知恵と職人の伝統的技術で作り出されたものです。耐火性の観点から都心部では新たに作ることができない、維持、メンテナンスが難しいということもあって、現代の日本ではとても貴重な建築となっています。
かやぶき家屋の技術&暮らしが体験できる!「美山FUTON&Breakfast」
そんな貴重なかやぶき屋根の建物の宿が、京都府の中ほどに位置する南丹市美山町(みやまちょう)にある「美山FUTON&Breakfast」です。
“美山に暮らすように泊まる”をコンセプトに、まるでこの地に住んでいるかのように自分のペースで気ままに、昔の日本の暮らしをそのまま体験できる宿。
囲炉裏付き一棟貸しのかやぶき古民家、モダンなヴィラタイプのかやぶき建築、ワンちゃんと泊まれるドッグラン付きの古民家など、滞在の目的やメンバーに合わせて選べる全5棟の宿泊棟があり、美山町内に点在しています。
中でも「美山FUTON&Breakfast本館」は、築150年を超え、国有形登録文化財に登録されています。海外からも注目されており、先日も英国放送協会 BBCが宿泊体験の取材に訪れたばかりなのだそう。
貴重なかやぶき屋根の宿での滞在は、チェックインセンターからスタート!
それぞれの宿泊棟は点在しているので、まずはこちらのチェクインセンターで手続きをします。
各棟はすべて一棟貸しの贅沢な貸切滞在で、食事やお風呂、寝具の準備などは、セルフサービスです。まさに「家を借りて、自分の好きなように暮らすように過ごす」という滞在スタイルが叶うわけです。
簡単に部屋の使い方、注意点、チェックアウトの方法などの案内を受けます。
説明は、日本語の他、英語、中国語繁体字、簡体字表が用意されています。実際に最近は海外からのゲストが増えているそうです。
さっそく宿泊棟に向かいます。各棟の住所はあえて公開していないそうで、それもまたプライベート感があってワクワクします。今回宿泊したのは、こちらの「美山FUTON&Breakfast本館」です。
外観、庭の造り、細部に至るまで、すべて時代がタイムスリップしてしまったかのような雰囲気。
こちらが正面の入り口です。
チェックイン、宿設備の使い方などの案内をしてくれたのは、スタッフの西尾さん。実は、この貴重なかやぶき屋根の古民家は、西尾さんが生まれ育ったご実家なのだそう!
「幼い頃はこの家の価値や良さがわからず、ただの古い家だなぁと(笑)。今ではどれだけ貴重なものかということを実感していて、この先もずっと残していきたい、多くの人に知っていただきたいと思っています」と話す西尾さん。かやぶき職人であるお父様がこの家を宿泊施設として運営し始め、自身も高校卒業後に数年間ホテルで経験を積み、現在は一緒に家業を担っています。
広々とした空間に映える純和風の囲炉裏。火を囲んで夕飯を食べたり話したりする時間が楽しみです。
こちらは立派な茶室、各部屋は広々としているうえ、部屋の仕切りである襖を開ければ大きな部屋としても使えます。
1階だけで、和室が全4部屋、小さな板の間、囲炉裏のある大きなリビングスペース、土間にはダイニングテーブル。さらに屋根裏部分も含めれば、定員は10名とのことですが、十分すぎる広さです。
使いやすい大きなカウンターキッチン。鍋やフライパンなどの基本的な調理器具や食器は揃っているので、好きな材料を買ってくればBBQのように大人数で調理できます。
自由に使えるウォーターサーバーが設置されていて便利です。
冷蔵庫には、ワインや瓶ビール、日本酒の用意まで。さらに自分で注げるビールサーバーもあります(アルコールは別途料金)。
シャンプーやボディソープ、歯ブラシといったバスアメニティ、タオルは完備。化粧品類やパジャマはありませんので、用意していきました。夜はハーブバスでゆっくりくつろげます。
自分たちで布団を敷いて眠るというのも、昔ながらの日本の生活スタイル。今ではベッドで寝る人が多くなっているので、布団でみんなで雑魚寝するのもたまにはいいものです。
こちらは昔ながらの和服の防寒着=半纏(はんてん)。とても温かく、寒い冬の古民家滞在には欠かせないアイテムです。
昔は屋根を葺き替えるための茅や荷物などを置くために使われていたという屋根裏スペースは、かやぶきの構造がそのままむき出しになっていて迫力満点。
ロフト付きでテーブルやソファ、本、鏡台など、くつろぎスペースとして利用できるようになっています。また、布団を敷いて寝ることもできます。
裏には立派な蔵があります。
蔵の中は静かで涼しいので、夏の夜に談笑するにはぴったり。中央には、水を垂らすときれいな音がなる水琴窟(すいきんくつ)という日本庭園の装飾も楽しむことができます。
庭には鶏小屋があり、元気なニワトリが駆け回っている姿も目にできます。
夕食は囲炉裏を囲んで、日本人定番のお鍋パーティー
囲炉裏を使って美山の食材で夕飯を食べるのも、ここでの滞在の一大イベント。今回は自分たちでメニューを決め、写真の食材を購入しましたが、宿が用意してくれる「囲炉裏鍋セット」を別途注文すれば、日本の家庭的な鍋が味わえるので、海外の方には特におすすめです。
バーナーで炭をあぶって、囲炉裏の火をおこします。
地鶏の肉団子に、キノコ、豆腐、ネギ、白菜など、美山の食材をふんだんに使った鍋を囲炉裏の火でグツグツ煮込みます。
炭火で鉄鍋を煮込む、これだけで間違いなく美味しいだろうと食べる前から自画自賛です。
木のお玉でよそうのも雰囲気が出ます。
野菜は新鮮なので味が濃く、地鶏からもいい出汁が出ています。食材の旨味がたっぷり詰まった鍋は、身も心も温まります。
水がきれいな美山町はお米も名産。訪問時はちょうど新米の季節だったので、炊いて食べたら絶品でした。
食後は、間接照明が灯る屋根裏スペースで食休み。
さらに夜が深くなり、外に出てみると満点の星空。事前にリクエストすれば天体望遠鏡を貸してくれるそうなので、星空鑑賞もおすすめです。
ニワトリの鳴き声を目覚ましに迎える、自然の豊かさを感じる朝
ふかふかの布団でぐっすり眠って、翌朝は鶏小屋のニワトリの鳴き声とともに目覚める。自然と共に過ごす豊かさを感じます。
朝食は、宿が用意してくれた美山の牛乳、平飼い卵、食パン、ブルーベリージャムと美山の名物食材ばかりです。
淹れ立てのコーヒー、昨晩の残りのジビエソーセージやハムも加えてアレンジした朝食。今回は自分たちで作りましたが、通常、基本プランで本館宿泊の場合は、スタッフの方が来て調理してくれます。
古くから受け継がれた技術“茅葺き体験”に初挑戦
美山FUTON&Breakfastでは、オリジナルアクティビティが多数用意されています。その一つが、茅葺き体験。茅葺き屋根づくりを実際に体験できるめずらしい内容です。こちらは宿泊せず、日帰りで参加することもできます。
茅葺き屋根の宿だからこそできる体験、ということで初挑戦。オリジナルの法被&手ぬぐいという職人さんスタイルで、身支度を整えてスタートです。
座学、実演など約2時間の内容です。お父様が茅葺き職人でご自身も昔現場を経験していたという西尾さんが丁寧に説明してくれます。
まずは、かやぶきとは何か。そもそもかやぶき屋根の「かや(茅)」とは、ススキ、藁といった稲科の植物の総称のことで、屋根を覆うことを日本語で葺くといい、屋根をかやで葺いたものをかやぶき(茅葺)屋根といいます。
日本の原風景として象徴的な印象ですが、実はかやぶき屋根の家は“最も原始的な屋根”として世界各国にあるのだそう!ただし、デザインや作り方が異なり、それぞれに特徴があることから、日本らしいデザインのものが誕生しているというわけなのです。
「茅葺き屋根の家は、通気性が良く、夏を涼しく過ごせるのが特徴で、湿気の多い日本では重宝していたスタイルだったんですよ」と西尾さん。
座学の後は、さっそく実践パートへ。体験では「かや」のなかで一番扱いやすい藁を使います。
屋根に見立てた柱に、藁を重ねて縄で縛っていきます。
見ると簡単そうなのに、いざやってみると思った以上難しい!何より実際にはこの作業を屋根の上でやっていると考えると、職人さんのすごさ、苦労をひしひしと感じます。
体験中は手取り足取り、丁寧にサポートしてくれます。英語でのレクチャーもOKなので、海外からの方にはぜひ体験してほしいところです。
屋根のなだらかさを作りながら、表面を整えて仕上げていきます。
最後は記念撮影。写真はその場で印刷してくれます。
写真付きの認定書をもらって、体験は終了。
茅葺きの基本や作り方、美山の茅葺きの特徴など、さまざまな知識がまとめられたオリジナルの茅葺き体験ガイドブックももらえます(英語版あり)。
実際に体験した感想とおすすめの過ごし方
茅葺き屋根での滞在は、日本人にとっても特別でめずらしいこと。ぜひ「宿泊すること」を目的に訪れて欲しいと思います。
おすすめは、チェックインの15:00に宿に入って、蔵や屋根裏のロフトでゆっくり休憩。早めに夕食の準備に取りかかって、囲炉裏を囲みながらお鍋でゆっくり夕食。夜は星空観賞をして、布団でぐっすり眠ります。翌日は、美山のおいしい食材で朝食を味わって、茅葺き職人体験を満喫。こんなモデルプランでどうでしょうか?
今回は食事もセルフスタイルでしたが、他にも1泊2食付き、BBQランチ付きなど様々なプランがあるので、目的に合わせて選んでください。また最寄りの駅からの送迎や、近隣観光についても気軽に相談にのってくれるので、公共交通機関だけで行きたかったり土地勘がなかったりしても問題ありません。
- 天井も空間も広いので、夏は涼しいが冬は芯から冷えることも。ストーブや半纏など暖房は完備されていますが、防寒具はマスト。
- 普通のホテルや旅館と異なり「暮らすように泊まる」がコンセプト。食事やベットメイキングなどはセルフサービスでの滞在です。
- 設備の使い方や滞在時のルールなどは、宿の書類に記載があるので必ずチェックしましょう。
- 調味料は、塩、砂糖、こしょう、しょうゆのみ。その他に必要なものは用意していくのがベストです。
- 自然豊かな環境なだけに、都会と違って虫が顔を出すことも。悪さはしないので、身近な自然も楽しんで過ごしてみてください。
美山FUTON&Breakfastで、日本の文化と伝統を体感
昔ながらの家には、現代建築では絶対に出せない味わいがあります。特に、美山FUTON&Breakfastには、かつて生活していた人たちの想いや温かみ、守ってきた伝統や文化が詰まっています。ここに来れば、昔ながらの日本の生活スタイル、文化や自然を感じられる特別な体験ができること間違いなしです。
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美山FUTON&Breakfast
- 住所 〒601-0751 京都府南丹市美山町島狐岩52
●対応言語
日本語、英語
(一部、繁体字の案内もあり)
●施設情報
・部屋数:全5棟
・チェックインセンター/売店 営業時間:9:00~17:00
・チェックイン 15:00/チェックアウト 10:00
・料金:¥21,000~/1名(人数、シーズンによって変動あり) ※平日利用/本館
美山に泊まるならこちらもいかが?
旅ライター×海外ツアーコンダクター。社会人向け教育コンテンツの企画開発・編集担当として11年従事。プライベートでは学生時代から旅に魅了され、これまで世界約50カ国150都市以上をめぐってきた大の旅好き。世界中、日本中のグルメを味わい、自然を感じ、世界遺産や歴史的建築を見て、温泉めぐりをするのが生きがい。そんな旅好きが高じて、会社員から旅ライター×海外添乗員へと転身。現在は、年間100日以上海外を飛び回りながら、旅ライターとしても活動。旅の楽しさ、日本の魅力、世界の多様な価値観をより多くの人に広めるべく、インバウンドの添乗や旅ライターの取材等で、日本各地を訪れて情報発信をしている。
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