日本独特の文化のひとつといえば、温泉・銭湯。日本人ではごくごく当たり前だと思っていることでも、外国の人にとっては疑問に思うことだらけ!そこで今回は、外国人が日本の温泉・銭湯に感じている素朴な疑問について、お風呂のスペシャリスト、日本健康開発財団主席研究員でありフロフェッサーの肩書を持つ後藤康彰先生に回答してもらいました。びっくりするような疑問から、日本人でも意外と知らなかった事実まで、興味深い内容は注目です!
質問①どんな順番で入るのが正しいの? 体を洗ってから入浴?それともさっと体を流してからお風呂に入って、それから体を洗ってもOK?
――基本的にお風呂は自由な順番で入ってOKです。ただ、お風呂のお湯を清潔に保つために、局部を洗ってから入るというのがエチケットです。身体を熱に慣らすためにも、まずはかけ湯かシャワーをするといいでしょう。入浴してから身体を洗うほうが汚れを落としやすいので、「さっと体を流す→入浴→体を洗う」は理にかなっています。
質問②日本人は本当に日本酒を飲みながら温泉に入るの?
――温泉とお酒のイメージはあるかもしれませんが、健康面で考えると入浴しながら、または入浴前の飲酒は危険なのでおすすめできません。ただ、お風呂で日本酒やビールなどアルコール飲料を販売する温泉施設もあります。登別温泉の「第一滝本館」などでは日本酒やビールなどを販売しています。また、塩原温泉の「光雲荘」では、 足湯をしながらお酒を楽しめたり、別府八湯の「大分温泉座」物産館の足湯がバースペースになっていたりするところもあります。足湯であれば、少し安心ですね。
質問③なぜお風呂を上がった後、牛乳を飲む人が多いの?
――これは諸説あり、正確な理由は分かっていません。ですが、戦後、一般家庭に冷蔵庫が普及していない時代に、銭湯が冷蔵庫を導入して冷たい飲料を提供していたことから牛乳業界と連携したという説があります。入浴後は、汗で水分を失っているので、水分を補給することは重要です。最近では、水分とイオンを補給するスポーツ飲料も多く置かれるようになっています。
質問④なぜ日本には銭湯文化、温泉文化があるの?
――これも諸説あります。日本は 100以上の 活火山がある火山国で、自然湧出の温泉が世界で最も多く、そのため、温泉に親しみやすい環境であることが、温泉文化が育った大きな要因だと考えられます また、地形・気候条件から水資源が豊かであるということも銭湯文化の発展に影響していると思います。銭湯について言うと、一般家庭に浴室が導入されるようになって(今では95%以上)、全盛期から数は大幅に減っていますが、開放感のある大きなお風呂を楽しむ文化はいまも根付いていますね。
質問⑤温泉と銭湯の違いってなに?
――日本の定義では、温泉は「25℃以上の温度または、特定の成分を一定量以上含むこと。または、成分総量が、1,000mg/kg以上含まれること」です。一方で銭湯は公衆浴場という入浴施設のことで、温泉である必要はありませんが、温泉を所有していて利用する銭湯もあります。東京では、「大田区」に多くの温泉銭湯があります。銭湯は、都道府県で定額(東京だと大人470円)利用が基本です。サービスは、入浴に加えて、ちょっとした休憩スペース、飲み物販売を行う施設がメインで、地域の住民が日常的に使うことが多いところです。スーパー銭湯というのは、料金は銭湯より高めで、多機能浴槽や飲食・レストランスペース、施設によってはマッサージ・スパサービスをもあったりします。家族や友人とレジャー感覚で利用されるところです。
質問⑥温泉の水は本当に効果がある?普通の水とは違う? 肌に良いの?
――日本では10種類の療養泉があります。療養泉とは、何かの症状の治療に適した温泉のことで、それぞれお風呂に入ったり飲んだりすることで療養効果がある適応症、逆に身体に悪い影響を及ぼす可能性がある禁忌症が定められています。肌への作用だと、肌をコーティングする(塩化物泉、硫酸塩泉など)、クレンジング効果&汚れを落とす(アルカリ性の温泉)、血流を良くして肌に酸素と栄養を届ける(二酸化炭素泉)などがあります。この図は、二酸化炭素泉での身体のあたたまり具合を水道水の沸かし湯と比較したものです。
酸性泉、硫黄泉は殺菌作用が強いという特徴があります。これは刺激が強いので、肌が弱い人はお湯に入った後にシャワーで洗い流しましょう。また、飲める温泉であってもむやみに飲んだりするのはNGです。定められた許容量を守って飲むようにしましょう。
質問⑦なぜ温泉の隣に冷たい水の風呂がある?どう使うの?
――あたたまりすぎた身体を冷やすために利用する人が多いのではないかと思います。サウナとセットになっていることが多いです。熱い湯、水を交代に入る温冷交代浴については、明確な効果や根拠が得られていませんが、自律神経を整えたり、運動後の疲労回復に役立つという説があります。ただ、冷たすぎる水へ急に飛び込むのは心臓に大きな負担をかけるので避けてくださいね。
質問⑧本当にタオルは頭の上にのせてよい?(もしタオルがお湯の中に入ったらどうすればよい?)
――タオルは頭の上にのせてお風呂に入っても構いません。お湯に入ってしまった場合は、できるだけ早く取り出してください。冷水で絞ったタオルを頭にのせると、のぼせ防止に役立つこともあります。その際は、浴槽外でタオルを絞ってくださいね。
質問⑨おならをしたくなった場合はどうすればよい?途中でトイレにいってもいいの?
――おならは無理に我慢しなくていいでしょう。ただし、うんちは出さないように注意してください。赤ちゃんは身体があたたまるとうんちをしやすいので、様子を見て対処してください。途中でトイレに行くのも構いませんが、トイレから戻ってお風呂に入る際は、局部をさっと洗い流してから入りましょう。
質問⑩放射線(ラドン)を使った温泉もあるみたいだけど、大丈夫なの?
――温泉として利用されてしているものの放射線は微弱であり、身体に悪い影響は及ぼさないことが知られています。鳥取県の三朝温泉、新潟県の村杉温泉、三重県の湯の山温泉などが代表的です。放射線は呼吸で肺から吸収されるので、お風呂に入りながら深呼吸するといいですよ。
質問⑪温泉は硫黄ベースだけなの?
――いいえ、療養泉の泉質は10種類あります。最も多いのは、塩化物泉・単純温泉です。
質問⑫裸で温泉に入るのはちょっと恥ずかしい…普段誰もいない時間ってある?
――比較的空いているのは、朝早くや夜遅い時間帯ですが、温泉の泉質によっては床が滑りやすくなっているので気を付けましょう。混浴のある旅館・ホテルでは、湯あみ着(入浴の時に着用するもの)を貸し出している施設もあります。家族や友人だけで入る家族風呂や貸し切り風呂がある施設もあるので、どうしても恥ずかしい時には、こうしたプライベート風呂を楽しんでみてはどうでしょうか。
質問⑬日本で最も値段が高い温泉は何でしょうか?
――正確には分かりませんが、鹿児島県にある妙見温泉「天空の森」は、山全体にいくつかのヴィラがあり2人1泊で30万円~50万円。山貸し切りで500万円となっています。他にも洞爺湖ウィンザーのウィンザースイート 2名1室(朝食付き)80万円といったところもあります。国内の高級ホテルや海外のリゾートで、もっと高いところはいっぱいあると思いますが(笑)。
質問⑭温泉で垢すりをしてはいけないの?
――浴槽内では、垢すりはエチケットとしてNGです。また、源泉かけ流しの小さな温泉などでは、シャンプー、石鹸の使用を禁止しているところもあります。そうしたところでも垢すりはNGでしょう。どうしてもやりたいというときは、念のため、施設に確認してみてください。施設によっては、個室で垢すりサービスを提供している温泉もあります。
質問⑮体毛がたくさんあるし、タトゥーが入っているんだけど大丈夫?
――体毛は問題ありません。一方で、タトゥーについては、小さいものでも入浴を拒む施設が少なくありません。ですが、タトゥーをカバーするシールや絆創膏、ラッシュガードなどの着用で入浴許可する温泉施設もあります。せっかく訪れたのに温泉に入れないのはとても残念ですので、事前にタトゥーの可否を施設に尋ねましょう。旅館の部屋風呂、家族風呂は問題なく利用できます。
その他、外国の方からの問い合わせが多いトピック
動物にまつわる伝説がある温泉はどこですか?
――鹿(鹿教湯温泉@長野県)、白鷺(道後温泉@愛媛、山中温泉@石川県、下呂温泉@岐阜県)、白狐(湯田温泉@山口県)、猿( 俵山温泉 @山口県) などがあります。
お風呂で役立つフレーズは?
――「Gokuraku, Gokuraku」日本人は極楽、極楽といい、「天国のようだ」との意味ですが、温泉の中で唱えると、周りの日本人を笑顔にできると思います。
なぜ日本人は40℃程度の湯につかるのか?
――日本の入浴で最も重視されるのは温熱効果です。お湯につかって体温が上がって血流が良くなると、末梢に酸素と栄養を送り込み、さらに二酸化炭素を洗い流すことで身体をフレッシュな状態にできます。毎日これを繰り返すことが、日本人の長寿につながっている一つの理由ではないかと個人的には考えています(後藤先生談)。
温泉、銭湯についての疑問、いかがでしたか? 最後に、後藤先生にどんな風にお風呂に入ったらいいのかわからないという方へのアドバイスをお聞きしたところ、「目的から逆引きした入浴 depends on the purposeで入ってみるのはいかがでしょうか? ぬるめのお湯にのんびり入ればリラックスできますし、厚めのお湯にサッと入ればシャキっとしますよ」とのこと。
基本的なエチケットはあるものの、お風呂の楽しみ方は人それぞれ、自分なりの楽しみ方でOKです。日本にはたくさんの温泉、銭湯がありますので、ぜひこのお風呂文化を目的に合わせて楽しんでみてくださいね。
【今回、お話を伺った方】
後藤康彰先生(フロフェッサー、日本健康開発財団主席研究員)
旅ライター×海外ツアーコンダクター。社会人向け教育コンテンツの企画開発・編集担当として11年従事。プライベートでは学生時代から旅に魅了され、これまで世界約50カ国150都市以上をめぐってきた大の旅好き。世界中、日本中のグルメを味わい、自然を感じ、世界遺産や歴史的建築を見て、温泉めぐりをするのが生きがい。そんな旅好きが高じて、会社員から旅ライター×海外添乗員へと転身。現在は、年間100日以上海外を飛び回りながら、旅ライターとしても活動。旅の楽しさ、日本の魅力、世界の多様な価値観をより多くの人に広めるべく、インバウンドの添乗や旅ライターの取材等で、日本各地を訪れて情報発信をしている。
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