日本人にとって、夏の訪れはお祭りシーズンの到来を意味する。ご先祖さまが帰ってくる時期とも言われるお盆があり、この時期はご先祖さまを祀る意味合いで花火が夜空に打ち上げられることが多くなる。「お祭り」というだけあって基本的に何かを祝う目的で開催される日本のお祭りだが、中でも一番神秘的で美しいお祭りがある。七夕だ。
星に願いを唱える七夕は、西暦755年から続く、歴史ある伝統行事である。七夕節と呼ばれる中国の歴史に倣って第47代天皇である孝謙天皇によって持ち込まれたと言われている。当時の人々が七夕の持つストーリーや背景を気に入って、この行事はすんなり受け入れられていったのだとか。
七夕に秘められたストーリー
歴史を紐解くと、七夕が現在のように日本のひとつの文化として受け入れられるまでにはいくつかのストーリーが存在したという。その最も有力なものが「織姫と彦星」だと言われている。では実際にどんなストーリーであったのだろうか。
織姫は、天の川の岸で衣服を編むことに熟練し、彼女の織る衣服は他のどんなものとも比べられないほどに美しかった。来る日も来る日も織姫は衣服の製作に勤しみ、素晴らしいものを作ろうと必死に努力を続けた。
織姫の父・天帝は、織姫の編んだ衣服がとても好きであった。しかしながら織姫は天帝が幸せにしているのを見ても、悲しくて孤独な気持ちが強かったといい、編むことに集中しているうちは、恋心を抱くことすら難しかったのだという。
次第に天帝は織姫が悲しみに暮れていることに気づき、織姫の反対側の川岸で牛飼いとして農耕に従事していた彦星と会わせることにした。すると互いが一目合わせただけで恋に落ち、躊躇もなく直後に結婚をした。彼らは幸せな生活を送るため、織姫は織物をやめ、彦星は牛たちを野に放ち自由にさせてあげたのだという。
天帝は織姫と彦星が職務を放棄したことをキッカケに、二度と会うことができないよう彼らを引き離した。織姫は最愛の人に会えなくなった状況にひどく失望し天の川の奥の川を見つめた。織姫は天帝に弁解し、最愛の彦星に会わせてくれないかと懇願した。
悲しみにくれる織女を見かねた天帝は、年に一度、7月7日にだけ会うことを許した。しかし、織姫と彦星が再会するその日がやってきたとき、天の川に架かっていた橋はなくなっており、彼らが実際に会うことは不可能な状況であった。
夢朽ちた織姫は膝から崩れ落ち涙した。苦悩に苦悩した彼女の涙は空を羽ばたくカササギの群れにまで届き、カササギたちは翼を広げ彼らを再会させるため織姫に向け橋を架けた。カササギは愛する二人を再会させるため、彼らに毎年7月7日にはここに戻ってきて橋を架けることを約束したのだとか。
これらのストーリーを基に、織姫は現在の織女星の象徴となり、彦星は牽牛星の象徴となった。二つの星が初めて交わるポイントが天の川の上であることやカササギの作り出した運命的なストーリーなどが伝説化され、七夕というお祭りの発端となったと言われている。
七夕を祝う習慣
年に一度、織姫と彦星が再会する七夕は次第に日本の文化・慣習のひとつとなった。七夕は、織姫と彦星の再会を祝う行事としてだけではなく、人々が各々の願い事を短冊に書いて笹に吊るすのが行事ともなった。織姫と彦星が出会ったのが天の川であることにあやかって、七夕の日を終えると笹ごと川に流したり燃やしたりするのが慣わしだ。
川に短冊を流す儀礼は、お盆で行われる行事・灯篭流しにもリンクしている。火で灯した灯籠を、お盆のお供え物などと一緒に、海や川に流す行事だ。かつては、日程としても七夕とお盆は非常に近い時期に行われていたとされ、旧暦から現在の暦に変更されてから今の七夕やお盆の日程が定着したと言われている。
七夕の短冊を吊るす笹は、家庭やお店などの街中に設置され、色とりどりの紙に願いごとを記してカラフルなデコレーションとともに、笹から吹き出しのように吊るし、七夕を祝う。これらのデコレーションは、七つ飾りと言われ、単なる短冊に留まらず、折鶴や吹き流しなど七つの異なる種類を持ち、飾る人それぞれが願いを込めて飾り付ける。
<七つ飾り>
・紙衣-紙で作った着物で、織姫をモチーフにしていると言われている。裁縫上達の願いが込められる。
・吹き流し-かつて織姫が織った糸を垂らした様を表すと言われ、 機織や技芸の上達を願う。この五色の織り糸の模様がメインの装飾となる。
・短冊-願いごとを記す紙として知られる短冊は、書の上達を願う。
・屑篭-和紙や絹を用いた飾りの裁ち屑を中に入れて下げる屑篭。 清潔と節約の大切さを養う。
・投網-魚介類の網を表す飾りで、魚介の豊漁を祈るとともに、食べ物の豊作を祈る。
・千羽鶴-延命長寿の願いが込められている。折鶴を作る過程が集中力を高めていく働きがあると言われている。
・巾着-富を願い、金銭的にも心にも豊かで賢い人になることを願い飾る。
七夕ー現在はいつどこでどのように祝われているのか
日本のほぼ全域に渡って7月1日から七夕当日となる7日まで七夕を祝う行事が行われる。ただ、都道府県や地域によっては独自の七夕行事を持っていることも多く、それぞれ慣習によって時期や祝い方が異なることがある。例えば、関東圏では、神奈川県の湘南ひらつか七夕まつりが七夕行事として有名である。
東京に関して言えば、七夕は東京全域で七月中または八月に掛けてまで盛大に祝われる。阿佐ヶ谷七夕まつりや、浅草をはじめとする下町七夕まつりや東京タワーのふもとで開催される増上寺七夕まつりなどが例年人気を集めている。
日本全国で最も有名な七夕祭りのひとつと言えば、仙台七夕まつり。新暦に1ヵ月を足した暦である中暦を用い、毎年8月6日から8日に開催されている。七夕の日に七夕を祝った後に仙台に足を運べば七夕と言う神秘的な行事を一年に二度体験することだって可能なのだ。
*七夕の伝説には諸説あると言われています。本記事に登場したストーリーは、その有力な説のうちのひとつであることをご了承ください。
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