HOME 東京・東京周辺 東京 東京駅 将軍が暮らした江戸城と皇居の関係、そして丸の内・八重洲の歴史をたどる1日さんぽ|元ミシュラン社長室長のカルチャーウォーク
将軍が暮らした江戸城と皇居の関係、そして丸の内・八重洲の歴史をたどる1日さんぽ|元ミシュラン社長室長のカルチャーウォーク

将軍が暮らした江戸城と皇居の関係、そして丸の内・八重洲の歴史をたどる1日さんぽ|元ミシュラン社長室長のカルチャーウォーク

更新日: 2020/11/30

世界的なタイヤメーカー・ミシュラン社のフランス本社に長年勤務し、『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』制作の際は、日本各地をアテンドして回った森田哲史さん。この企画では、フランスに長く暮らし欧米人の嗜好をよく知る森田さんが、欧米目線から見た日本人の知らない日本の魅力を伝えてくれます。今回のぶらり旅の舞台は、東京の中心地である“丸の内”。ビルが立ち並び、日本経済を支える企業が集中する丸の内で、どんな新しい日本に出会うことができるのでしょうか…。

今回の旅の仲間はニューヨーク出身のティモシー。東京駅丸の内駅前広場を越えた行幸通りで待ち合わせです。

森田:「ティモシー、おはよう! この丸の内は、江戸城のすぐ近くで、江戸幕府の重要な家臣たちや大名屋敷が並んでいたところなんだよ。江戸城は、今は皇居になっていて天皇が暮らしているんだ」

ティモシー:「確かに、このすぐ先は皇居ですね。日本のビジネスの中心地というイメージもあります」

森田:「明治維新後に三菱グループの創始者一族である二代目社長、岩崎彌之助が明治政府からこの辺り一体を購入して、この地でビジネスを展開するとともに、不動産開発をしていったんだよ。今日はその辺りも含めて、丸の内・八重洲一帯の歴史を辿っていこう」

ヤン・ヨーステンと三浦按針、二人の外国人を日本に運んだリーフデ号

ヤン・ヨーステンと三浦按針、二人の外国人を日本に運んだリーフデ号

森田:「八重洲という土地の名前の由来を知ってる?実は江戸時代に、ヤン・ヨーステンというオランダ人の侍がこの辺りに大名屋敷を構えて暮らしていたんだ。日本名は耶楊子(やようす)と言ったんだけど、それが変化して現在の「八重洲(やえす)」になったとか」

ティモシー:「なぜ江戸時代にオランダ人が侍に?しかも大名だったんですか?」

森田:「1600年4月にオランダ人のヤン・ヨーステンとイギリス人のウィリアム・アダムスが乗っていた船が大分県の臼杵に漂着したんだよ。それで、ヤン・ヨーステンは徳川家康の外交顧問となったんだ。やがて徳川幕府の将軍となった家康は、彼に大名屋敷を与えて住まわせていたんだね」

ティモシー:「アメリカで昔とても話題になったドラマで『SHOGUN』というのがありました。そのモデルになった白人侍かな?」

森田:「それはもう一人のウィリアム・アダムスだね。彼は家康から三浦半島に領地を与えられて、三浦按針と呼ばれていたんだよ。その彼らが乗ってきた帆船、リーフデ号の模型彫刻が丸ビルの一角にあるんだよ」

ティモシー:「これですか。駐輪場の奥にひっそりと置いてあるだけなんですね」

森田:「この像はオランダから寄贈されたものなんだよ。江戸幕府ができた1600年代早々にヨーロッパ人のサムライがいて、将軍・徳川家康の下で働いていたって、すごいことだよね。八重洲地下街には、ヤン・ヨーステンのブロンズ像もあるんだよ」

丸の内ビルディング
東京都千代田区丸の内2-4-1
営業時間:
ショップ 平日・土曜 11:00~21:00
     日曜・祝日 11:00~20:00 ※一部店舗は平日7:00より営業
レストラン 平日・土曜 11:00~23:00
      日曜・祝日 11:00~22:00 一部飲食店は平日7:30より営業
定休日:年中無休(但し、1月1日及び法定点検日は除く)

八重洲地下街ではヤン・ヨーステン像を見ることができる
八重洲地下街ではヤン・ヨーステン像を見ることができる

八重洲地下街
東京都中央区八重洲2-1 地下1階・地下2階

ジョサイア・コンドルが造った 丸の内初のオフィスビルを現代に復元した三菱一号館美術館

ジョサイア・コンドルが造った 丸の内初のオフィスビルを現代に復元した三菱一号館美術館

オランダからやって来た、江戸時代の青い目の侍たちに思いをはせた森田さんとティモシー。丸ビルからすぐにある、三菱一号館美術館にやって来ました。

森田:「ティモシー、この三菱一号館美術館には来たことがあるかい?2010年にできた美術館なんだけど、僕は大好きな場所。実はこの建物、1894年にイギリス人建築家のジョサイア・コンドルによって設計された丸の内初のオフィスビルである三菱一号館を、材料から工法にまでこだわって復元したものなんだ。230万個の煉瓦が使用されているんだけど、この煉瓦もできるだけその当時の原料を吟味して、製法まで同じになるように中国の工場で作ったそうだよ」

森田:「三菱一号館美術館にはとても良い年間パスシステムがあって、二人分7500円、一人なら4000円で一年間何回でも美術館に来られるんだ。また会員特別鑑賞会などの特典も色々あって、散歩がてらいつでも美術館に足を運べるのは魅力だよね」

ティモシー:「東京在住の外国人にも教えてあげたいですね」

森田:「展示はもちろんだけど、美術館の休憩スペースからのブリックスクエアの眺めも良いんだ。コンドルさんがバラ好きだったということから約40種類のバラが植えられていて、常にどこかでバラの花が咲いているそうだよ」

森田:「この建物は煉瓦建築なんだけど、屋根は当時のままを再現して、木造になっているんだよ。コンドルさんは、西洋建築に日本の建築のいいところを取り入れて、このビルを作ったんだね。ここの部屋からは、耐火ガラス越しに当時と同じ屋根の構造を見ることができるんだ」

ティモシー:「和洋折衷ですね」

森田:「コンドルさんは日本の気候や地震が多いといった特徴を熱心に学んでいたようだよ。ちょうどこの建物を設計する前に濃尾地震という大きな地震があって、彼はその被害状況を現地に視察にいったんだ。その調査から、この建物を作るときに、なんと9,000本ほどの松の木の杭を打ち込んで、地盤を強化して基礎を作ったそうなんだ」

ティモシー:「地震の多い日本では、それだけの基礎作りが必要だと判断したんですね」

森田:「実は、その時の松杭が、復元する建物を建てる前に地中から出てきたんだ。同じように旧丸ビルにも松杭が打ち込まれていてその内の一本が丸ビルに展示保管されているそうだよ」

三菱一号館美術館を出た森田さんとティモシーは、丸ビルへやって来ました。お目当ての松杭は1階のオフィスエントランスホールに、ひっそりと横たわっています。その奥には、その松杭を実物大で再現したオブジェもあり、松杭の大きさを実感できます。

ティモシー:「思っていたより大きい! 15メートルもあるんですね」

森田:「15メートルの松杭を地面に埋めるだけでも大変な労力だよね。でも、日本の脆弱な地盤で安全なビルを建てるには、この9000本以上もの松杭が必要だとコンドルさんは判断し、大規模な工事を行ったんだね。彼のプロフェッショナルとしての矜持を感じるエピソードだよね」

ティモシー:「彼が造った三菱一号館が成功したからこそ、日本にも多くの西洋建築が建てられるようになったんでしょうね」

森田:「そうだね。コンドルさんは東京駅を造った辰野金吾氏の先生なんだよ。コンドルさんがいなければこの辺りの風景はまったく違ったものになったかもしれないね」


三菱一号館美術館
東京都千代田区丸の内2-6-2
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10:00~18:00
※祝日・振替休日除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は21:00まで
     ※入館は閉館時間の30分前まで
     ※臨時の時間変更の場合あり(詳細はWEBサイト等でご確認下さい)
休館日:毎週月曜(祝日・振替休日・会期最終週の場合は開館)、
年末、元旦、展示替え期間
    ※臨時の開館・休館の場合あり(詳細はWEBサイト等でご確認下さい)

新丸の内ビルディング
東京都千代田区丸の内1-5-1
営業時間:
ショップ 平日・土曜 11:00~21:00
     日曜・祝日 11:00~20:00 ※一部店舗は平日6:45より営業
レストラン 平日・土曜 11:00~23:00
      日曜・祝日 11:00~22:00 ※一部飲食店は最大28:00まで営業
定休日:年中無休(但し、1月1日及び法定点検日は除く)

松の木の林が広がる皇居外苑で、優雅なピクニックランチ

さて、美術館を堪能し、丸ビルでジョサイア・コンドル氏のプロ意識に触れた二人。そろそろお腹がすいてきたようです。

森田:「今日のランチは皇居外苑でピクニックでもどうだい?このあたりにはテイクアウトできる美味しいお店が多いから、いろいろ買っていこう」

森田さんとティモシーは、丸の内仲通りを歩きながら、サンドイッチやクロワッサンや飲み物など、いろいろ仕入れていきます。

そして、お目当ての皇居外苑に到着。森田さんが用意してきたシートを敷いて、ピクニックとしゃれ込むことに。

ティモシー:「ここは芝生に入れるんですね」

森田:「夜は駄目だけど昼間はOKなんだよ。欧米の人にとってはこういう風に生えている松の木は珍しいんじゃない?」

ティモシー:「松って盆栽のイメージがあるので、こんなに大きくなった松の木があるというのがとっても面白いです。盆栽の鉢の中にいるような感覚で、日本に来てるなって実感しますね」

ティモシー:「ぼくはここの皇居にずっと天皇がいたのだと思っていたのですが、その前は徳川将軍家の城だったんですね」

森田:「その通り。天皇陛下の宮廷はずっと京都にあったんだよ。天皇は1868年、明治元年に東京に来られて、1869年に江戸城が皇城になったんだ。つまり明治天皇が江戸に移られた年を持って明治としたんだね。皇居と呼ばれるようになったのは、1948(昭和23)年からなんだよ。徳川家康が江戸城に入場したのは1600年だから、268年の間ここは徳川家のお城だったんだ。ちなみに、天皇は794年から京都にいらっしゃったんだよ」

ティモシー:「約1000年の間、代々の天皇は京都で暮らしていた。日本ってやっぱり古い国なんですねー。1000年って!この石垣やお堀、松なんかを徳川将軍や天皇陛下も見たことがあるかもと思うと、なんだか感慨深いな…」

皇居を上から一望できる出光美術館で東洋古美術を堪能

皇居外苑でピクニックを楽しんだ二人は、皇居外苑からほど近く、帝劇ビル9階にある「出光美術館」へやって来ました。

東洋の古美術品を中心に展示しているこちらの美術館で展覧会を楽しんだ後、ロビーでお茶を飲みながら、眼下に広がる皇居外苑を眺めています。

森田:「東洋の古美術を観るのも良いでしょう?それに、僕はこのロビーもとても気に入っているんだ」

ティモシー:「このロビーからの眺めも素晴らしいですね。石垣と堀が見渡せて、ここはサムライのお城だったってことが良く分りました」

森田:「ここは東京の真ん中だけど、天皇陛下のご住居の下を掘るわけにはいかないから皇居の地下には地下鉄は走ってないんだよ」

ティモシー:「なるほど。だから有楽町線は赤坂、市ヶ谷と江戸城のお堀に沿うようにぐるっと回って丸の内からお城を挟んで反対の神楽坂に行ってるんですね」

森田:「そう。こんなに地下鉄の路線に詳しいなんて、ティモシーはもうニューヨーカーじゃなくてトーキョーイットだね(フランス語で東京に住んでいる人のこと)」。笑

出光美術館
東京都千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
営業時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)、毎週金曜日は19:00まで(入館は18:30まで)
定休日:月曜日(ただし月曜日が祝日および振替休日の場合は開館)

明治初期の銀行営業室を復元、匠の技術が現在に蘇ったクラシックなカフェ「Café 1894」

最後に、森田さんとティモシーは、三菱一号館美術館に戻ってきて建物の角にあるカフェ「Café 1894」で今日のさまざまな出合いを振り返ります。

ここは、1894年(明治27年)に創建され、当時は銀行として営業していた空間を利用して作られたミュージアムカフェ・バー。朝11時から夜11時まで営業しているので、ランチ、お茶、ディナーと、さまざまに利用できます。

ティモシー:「ここは銀行の中を復元しているんですね」

森田:「窓口や照明なんかも忠実に復元されているんだ。銀行窓口の枠っぽいアーチがあるだろう。柱の上部に施された彫刻も、以前の建物の柱がひとつだけ残っていて、それを参考にして三人の彫刻家が半年かけて再現したそうだよ」

ティモシー:「テーブルや窓ガラスなんかも、雰囲気がありますね」

森田:「テーブルや椅子なども、当時の雰囲気を持つものを厳選しているからね。窓ガラスも、昔の新丸ビルに使われていた窓ガラスを再利用しているそうだよ。今のまったくゆがみのないガラスとちょっと違って、えも言われぬ雰囲気があるよね。美術館でアートを楽しんだ後に、こんな雰囲気の中でお茶を飲んだり食事をしたりできるのって、最高でしょう」

森田さんとティモシーは「Café 1894自家製クラシックアップルパイ」(税抜840円)をオーダー。アップルフィリングの上に小麦をそぼろ状にしたクランブルがのったこのアップルパイ、クランブルのサクサク感とフィリングのしっとり感、パイ生地のサクサク感を楽しむことができます。

森田:「フランスのタルトタタンっていうりんごのお菓子があるけれど、そのアメリカバージョンって感じだね」

ティモシー:「1日歩いて疲れた体に、このりんごの酸味とやさしいバニラアイスの甘みがぴったりです」

8メートルという天井の高さで、開放感たっぷりのこのカフェ。
ついつい長居したくなってしまうような、ゆったりとした時間が流れています。

森田:「昔、丸の内で働いていたっていう老紳士や老婦人が昔を懐かしんでこのカフェに来られることもあるそうだけど、その気持ちもよくわかるね」

ティモシー:「この辺りは本当に雰囲気がいいですね。林立する高層ビルの中に箱庭のような公園とレトロな建物。この混ぜ合わせ感が東京!って感じがしますね」

森田:「今と昔、西洋と東洋。時間も文化もごちゃ混ぜになっているのが東京の魅力なのかもね」

ティモシー:「そう思います。その中でも、混ざり合った中にもある種日本的な統一感があって、その統一感に我々欧米人が心地良さを感じるのかも知れません」

森田:「その統一感の背景にある理由のひとつが、この土地に纏わる歴史で、岩崎家、つまり三菱の創始者一族だけど、その三菱が明治政府からこの辺り一体を購入して開発していったことにあるのかも知れないね。皇居のお膝元、丸の内一帯のグランドデザインを三菱地所が行っているんだよね」

ティモシー:「今日一日丸の内を案内してもらって、全然この辺りにぼくが持っていた印象が変わりました。今度ニューヨークから友達が来たら是非ガイドしてみたいです」

Café 1894
東京都千代田区丸の内2-6-2 三菱一号館美術館1F
TEL:03-3212-7156
営業時間:11:00〜23:00(L.O.22:00)
定休日:不定休

戦国時代末期に日本に漂着し江戸幕府の閣僚として“八重洲”という地名のもととなったヤン・ヨーステン、明治時代初期に英国式建築を日本に紹介したジョサイア・コンドルと、日本の発展に大きな影響を与えた外国人たちの足跡を辿ってきた今回のぶらり旅。日本の為政者たちの歴史と発展の過程を知ることのできる旅となりました。

Photo by:

石川ヨシカズ

石川ヨシカズ

1981年神奈川県横須賀市生まれ。フリーカメラマンとして、広告雑誌等で人物写真を中心に活動中。

Written by:

松村知恵美

松村知恵美

家と映画館(試写室)と取材先と酒場を往復する毎日を送る映画ライター、WEBディレクター。2001年から約8年、映画情報サイトの編集者をやってました。2009年に独立し、フリーランスに。ライターとしての仕事の他、Webディレクションなど、もろもろお仕事させていただいています。

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