日本では今、「教育格差の固定化」が話題になっている。大卒の親の子が大卒に、高卒の親の子は親の子は高卒になり、チャンスが公平ではないのではないか…という問題だ。日本の大学進学率は51%。韓国が71%、アメリカが74%(OECD Education at Glance2012)。中国は23%(2007年。中国教育統計年鑑)だが、台湾は93%(リソース)といわれており、日本の進学率は先進国の中で決して高いわけではない。日本では少子化で多くの大学が定員割れしているにも関わらず、進学率は横ばいだ。
日本のバブル経済が崩壊する90年代前半までは、公立中学校から公立高校に進み、優秀な子は自然と大学に進学して、安定した職を得る…という道が開けていた。今は、選択肢の多様化や受験方法の複雑化で、親は戦略的に子どもに学歴を身につけさせねばならなくなっている。
では、子どもによい教育を望む親は、どんな選択をするのだろう。地方か首都圏か、英語教育をどの程度重視するかによって、選ぶルートや受験のタイミングは変わる。
なにをエリートととらえるかも、日本社会の中で明確ではないが、就職に有利とされる国立の上位大学(東京大学、京都大学、大阪大学などの旧帝大に、一橋大学、東京工業大学)、国立大学医学部、上位私立大学(慶應義塾大学、早稲田大学など)を目指す前提で考えてみよう。
試験されるのは、「親」そのもの? 幼稚園~小学校受験
日本では、3歳くらいから多くの子どもが習い事を始める。ピアノやスイミングなどは、「東大生がやっていた習い事」として人気。英語教育に熱心な家庭では、英語で保育する幼稚園に預けたり、高額な英会話教材を使い1日中英語を聞かせている家庭もある。3つ、4つの習い事のかけもちも珍しくない。
一方、都市部の富裕な家庭、教育熱心な家庭では、6歳で小学校受験に挑む。いろいろな家庭環境の子どもが集まり低学力の子に合わせた進度で学習が進む公立小学校よりも、私立小学校でより質の高い教育を受けさせたいというのが狙いだ。
小学校受験は、漢字や算数の試験ではなく、季節の知識などを問うペーパーテストや、集団遊びの様子を見る「行動観察」、手先の器用さや理解力を測る「工作」などが行われる。子どもはもちろん、親も面接が行われ、「その学校の教育方針にあった家庭かどうか」を厳しく審査される。小学校受験専用の塾に通い、言葉遣いやふるまい、身だしなみなど、親子ともども細かい指導を受けながら受験に挑む。
いちばん学校数の多い東京でも、国立・私立小学校に学ぶ児童は4.9%(2015年東京都学校基本調査)と決して多くはない。学費も高額(初年度納付金平均186万3085円。文部科学省「子どもの学習費調査2014年度」より。そのほか寄付金など)だが、「慶應義塾幼稚舎」や「早稲田実業初等部」(いずれも小学校名)のように、難関大学にそのまま進める付属校もある。
ただ、小学校受験をする多くの家庭では、「難関大学への近道」として小学校受験を選ぶわけではない。「同じ家庭環境の子と一緒に過ごさせたい」「質の高い教育を受けさせたい」、あるいは「(親の)ステータスを高めたい」という希望があるようだ。なので、私立小学校から付属中学には進まず、難関私立中高一貫校を中学受験→難関大学受験を選択する家庭も少なくない。
エリート街道を歩むかは、12歳で決まる?
小学校に入ると、習い事に加えて小学校の学習内容を補う通信講座や、小・中学校の学習内容を先取りする「公文(くもん)」というプリント学習塾に通う子が増えてくる。こういった講座は、特に、公立小学校に通わせているが、それだけでは勉強が足りないと考える家庭に人気で、中学受験への下準備として始めることが多い。英語教育に熱心な家庭は、英検などの資格にチャレンジを始める。
<私立中高一貫高への進学>
さらに、偏差値エリート(高学歴)を目指す子たちの王道と言えるのが、中学受験だ。東京都心部では、学区によっては、「中学受験をするのは当たり前」のエリアも多く、ほとんどの子が塾通いをしている学校も。出題内容はかなり高度で、学校では扱わない算数の特殊算などがあるので、塾通いが欠かせない。小学3年生の2月から3年間、塾に通うのが標準的。小学6年生になると、週4~5日、9時過ぎまで塾で過ごし、毎週のようにテストがあるなど、早くも勉強漬け。習い事との両立は難しく、6年生からは塾一本の生活になる。小学校受験と違い面接のある学校は少なく、学力勝負だ。
中高一貫校では早いスピードでカリキュラムが進み、高校3年生からは受験対策に専念できる。小テストが頻繁におこなわれ、成績不振なら無料で補習が受けられるなど、大学受験を有利に進めることができる。また、少数ながら海外大学への進学に向けた指導をするところもある。
学費も小学校ほどではないが、高額(初年度納付金が平均92万円/東京都調べ)だが、現在は、都市部では私立中学や公立中高一貫校を受験する子が全体の2~3割(地域により異なる)と、かなり一般的になっている。
高校受験がないので、5年間通して部活に打ち込める。海外語学研修の制度があったり、整った施設で理科の実験ができる…など、いろいろな家庭のニーズにこたえてくれるところも魅力だ。
<公立中学・高校への進学>
中学校になると、本格的な英語の授業が始まり学習内容が高度化。生徒の間の学力格差が広がっていく。公立中学からエリートを目指すには、ここで上位をキープすることが大切になる。中学1年、あるいは小学校のうちから高校受験対策の塾通いを始める家庭も増えている。
高校受験の制度は都道府県によっても違いがあるが、学力試験が課される一般入試と、主に調査書(学校での成績や学習態度が評価された成績表)と面接や小論文などが実施される推薦入試がある。一般入試でも、調査書の割合が高いので、上位の高校を目指す生徒は、筆記試験の成績がよいだけではなく、授業態度、課題の提出、学校行事への積極的な参加などの面でも高い評価を得なければならない。また、部活で特に優秀な成績を収めた生徒は「スポーツ推薦」で、高校へ進学できる。
東京大学への進学者数上位高校ランキングが、毎年週刊誌で発表されるが、上位に並ぶのは、中高一貫校が多い。公立中学→難関公立高校→難関大学に進む道は、かなり狭き門になっている。
制度改革で先行き不透明! 大学への進学
高校3年生になると、進路を選択することになる。大学の学部は、文系であれば、法学部・商学部・経済学部などが就職に有利といわれてきたが、今は一部の上位大学以外は、文系学部でそれほどの差はない。大学で学んだ分野が職業に直結しやすい工学部など、理系の志望者が増えている。
なお、有名私立大学のほとんどは、東京や関西などの一部のエリアに集中している。以前は進学のために上京して一人暮らしする若者が多かったが、学費にくわえて生活費の負担が重い一方、日本では奨学金も基本的に返済型のため返済負担が大きい。これらの理由で、若者が進学をあきらめることも、「教育格差の固定化」の一因になっている。
日本の大学受験の方式は、2021年度から大きく変わる。受験生の多くが受けている「大学入試センター試験」(国公立大学の一次試験であり、私立大学の受験にも取り入れられている。マークシート選択式)が廃止に。あらたに「学力を測るテスト」と「思考力・判断力・表現力」を問われるテストが始まる。英語は、読解・記述だけでなく、「聞く、読む、話す、書く」の四技能を評価する方針だ。
これは、「生きる力」につながる「アクティブラーニング」や、英語でのコミュニケーションなど「グローバル教育」が高校までの教育で不足していることを受けたものだが、試験の詳細は明らかになっていない。大勢の生徒を公平に評価することができるのか課題がある。
今後、新しい入試制度に合わせて中学や高校のカリキュラムも変わってくるはずで、日本のエリート教育も過渡期を迎えそうだ。
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