中国は広東省の大学で日本語を学ぶ大学生4人が、日本に初来日。かねてから興味のあった日本文化を、本場で体験することになりました。今日は本格的な茶道にチャレンジ!その様子をレポートします。
お茶を深く味わうために懐石料理をいただく
今回「初心者の茶事教室」を提供してくださったのは、東京、新大久保駅から徒歩3分のところにある『益田屋』。オリンピックイヤーに90周年を迎える歴史のあるこちらのお店には、にぎやかな通りを1本入った静かな住宅街のなかに本格的な茶室と、日本中から集めた最高級の茶器を販売するショップがあり、外国人や初心者でも参加できる茶道教室を開催しています。
4人は、和室を素足で汚さぬよう白い靴下をはき、待合室から移動して正座で着席しました。「茶事」というのは、主人が招くゲストのことを考えてテーマを一つ設定し、お茶会を開くという究極のおもてなしのこと。1週間ぶりに夏の暑さが戻ってきた8月末のこの日のテーマは「夏休みの思い出」です。
和室の床の間には「瀧」と書かれた掛け軸がかかっています。30度を超える暑さのなか、少しでも涼を感じてもらえればという主人のはからいです。早速お料理が運ばれてきました。
今回の茶事の方式は京都流。お料理は懐石料理で、魚を酢で〆たものを使う事が多いそうです。お魚はお酒が出てきてから頂きます。
ごはんとみそ汁の碗の蓋は合わせるようにして横に置く、食べている途中のお箸は、食事を載せたお盆の枠にのせるなど細かなマナーを教わりながら、お食事をいただきます。ほどなくして主菜の旬の魚のハモ、冬瓜、シイタケに柚の香り付けをした煮物碗が運ばれてきました。一度に出さずに順々に料理が出てくるのは、それぞれの料理が温かい状態でいただけるようにとの計らいです。
「この煮物、すごくおいしい。季節の味がします」
「私はお酢で〆たお魚が好き」
そのあとは、副菜として西京焼きの魚の切り身、里芋と車エビ、オクラの炊き合わせなどが運ばれてきました。
「お茶は中国でも日本人の先生に習っているのですが、お茶の前に懐石料理を食べるのは初めてです」
中国で日本の茶道を学んでいて、週に3回お茶を点てているという学生もびっくり。このあとお酒を少しいただくために、そのあてとなる焼魚の小さな切り身と、果物が出てきました。お酒をここで飲むのは、お茶をいただくまえに清める意味があるそうです。
お腹いっぱい……と思いきや、なんとここまでが「お茶を飲む準備」だといいます。
それまでの食事やお酒は、次に来る「御濃茶」をおいしくいただくため。「御濃茶」は抹茶をかなり濃くしたもので、これが最高のごちそう。今日の真のメインです。
ここからが本番!御濃茶をいただく
茶室にお重が運ばれてきました。中に入っていたのは、はっとする美しい黄緑色に細かい薄紅色の粒がのせられたお菓子『初萩(はつはぎ)』。『源太』という茶席用の上生菓子で有名な店のもので、日本でお茶を習っていてもなかなか食べる機会がないものだとか。お重から手元の懐紙に移し、少しずつ切り分けながらいただきます。
「おいしい。ちょうどいい甘さだね」
いただいている横では、見たこともないような深い緑色の「御濃茶」が点てられています。
それを3口ほどいただき、自分の飲んだ場所を懐紙でぬぐって、次の人に渡します。さてメイン「御濃茶」のお味は?
「すごく濃いですね」
これまで飲んだ、どんな抹茶よりも濃く、違う味だったそうです。この「御濃茶」を入れるときに、主人がしきりと布をたたむ動作が気になっていそうで、質問があがります。
「お茶を点てる前に、どうして布を見たり、たたんだりしていたんですか?」
「いい質問ですね。主人は今日のテーマの『夏休みの思い出』に沿って道具や器、花を選び、茶事を行います。この布(袱紗)がきれいかどうか確かめ、茶さじなどを拭く作業は、道具を清めるという意味でとても大切なんです。そしてみなさんの前で準備して、飲んでいただき、片付けるところまでをすべて見ていただきます。そのなかでこのテーマを少しでも感じてもらえればお茶会は成功です。みなさんへのラブレターを披露している感じですね」
続いて干菓子とおうす(ふつうの茶道でいただく抹茶)をいただき、茶道体験は終了になりました。
「すべてが珍しく、料理はどれもおいしくて、器も美しかった。茶道の先生はとても優しくて感動しました」
「ラブレターの気持ちが少し伝わってきたような気がします」
長時間の正座は大変だったけれども(正座が苦手であれば小さな椅子を貸してもらえます)、それに勝るすべてが初めての体験に、4人は胸がいっぱいのようです。
日本料理教室で、本格的な「だし」作り
厨房へ移動してエプロンをした4人。さきほどいただいたおいしい懐石料理を作ってくれた料理人に、日本料理の肝である「だし」の取り方と、そのだしを利用したみそ汁、出汁巻卵、焼きナスのお浸しを習います。みんな、家で料理しますか?
「いいえ~(笑)」
中国では、男性が料理をすることが多いそうで、「作っても食べてくれる人もいないし……」と、苦し紛れの理由を言う人も。
ナスは火がまんべんなくまわって熱が出るように、箸をさして穴を開け、網にのせて焼きます。皮が黒く焼けて、トングで触ってやわらかくなったら、氷水に入れて冷やします。
次は「だし」。料理人が前もって準備しておいてくれた、水に浸した昆布を入れた鍋を火にかけ、沸騰する直前で昆布を取り出します。これに削りたてのかつおぶしを加えて、あくを取ってだしを作ります。かつおぶしを漉して取ったら、さっそく味見です。
「わー、おいしい!」
一番だしは吸い物やみそ汁、おひたしなど、だしの味が活きるものに使います。まずは焼きなすの味付けのために、酒とみりんと薄口しょうゆを混ぜます。みそ汁はだし10にみそ1の割合が基本。合わせて火にかけ、沸騰する前に火を止めます。
「前より味が濃くなった」
「これもすごくおいしいね」
一番だしの使い道その3は出汁巻卵です。卵にだしを混ぜて焼くだけですが、焼きながらくるくると巻いていくのにコツがいります。さあやってみましょう。
「難しい!」
「でも楽しい」
焼きたての卵焼きは簾に巻いて形を整えます。あら熱が取れたナスは皮を手でむき、先ほど作っただしに浸けて、冷蔵庫でさらに冷やします。
みそ汁は冬瓜を入れて山椒をふり、出汁巻卵を切り、ごはんをよそいます。冷蔵庫からナスを出して食べやすい大きさに切ってからかつおぶしをのせ、いよいよ試食タイムです。
「甘くない出汁巻卵は初めてだけど、おいしいね」
「冬瓜って、お味噌汁に入れるとおいしいんだ」
スタッフもご相伴にあずかりましたが、どれも上品な京風のやさしい味付け。みそ汁は赤みそにだしがきいています。
普段なかなかできない体験をした4人。今日は一日どうでしたか?
「日本ならではの旬の素材が素晴らしかった。正座や礼儀を正して食事をするのは大変でしたが、儀式のような体験でした。細かい規則のなかに、日本人の精神が見えるようだと感じました」
「食べ方まで親切に詳しく教えていただいてとても感動です。茶道のさまざまな知識を知ることができました。料理教室では板前さんがとても親切で、卵焼きを作ることができたのがとてもいい思い出になりました」
「茶懐石料理のことを初めて知りました。実際に見て、体験してとても面白いと思いましたし、日本料理の工夫がこらされていることがわかりました。勉強になりました!」
今回の体験は料理教室を含め4時間にわたるものでしたが、お茶のみを1時間で体験できるコースや、浴衣で茶道体験をして、浴衣を持って帰れるコース(1時間半)、お弁当やお酒付きのコース(1時間半)もあるそうです。東京でひと時、静かなお茶の体験をしてみたいという方、本格的な茶道体験をしてみたいという方は、ぜひお試しになってはいかがでしょうか。
ショップの2Fは、ガラス作家だった先代の益田芳徳氏の作品が展示されたギャラリーも。近代美術館に展示されていたり、ローマ法王のヨハネ・パウロ二世に献上した作品もあるそうで、海外から見学に訪れる人もいるとか(希望を伝えれば見学可)。
※価格やメニュー内容は変更になる場合があります。
※特記以外すべて税込み価格です。
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