アートスポットとして注目を集める天王洲アイルにある「画材ラボ PIGMENT」は、一歩足を踏み入れるだけでその魅力に圧倒される。非常に広く壮大な空間ながら、雰囲気や居心地の良い場所である。50種の膠に4500色に及ぶ顔料、およそ200種のアンティークの墨を揃えているため、必ずや自分好みの色に出合うことができるはずだ。また、定期的に芸術大学の教授や画材メーカーなどを招いてワークショップが開催され、日本画や油絵の技法や篆刻まで学ぶことができる。私は今回ここで書道のワークショップに参加した。
「書道」に触れる
日本で最も有名な芸術のひとつでありながら、これが私にとって初めての書道体験であった。今回のワークショップの講師である華雪先生は京都に生まれ20年以上前に書道を始めたという。ワークショップ参加者は、私を含めて10人ほど。書道に関する基本的な事から書道が持つ深い意味まで、ワークショップは4時間に渡って開催された。
書道は、漢字が中国から日本に輸入された5世紀頃始まったとされる。当時の日本の書道は中国の書道形態に大きな影響を受けていた。10世紀頃から、最初の日本式書道形態のひとつとして和様書道が登場。書道を通じて日本の「美」を表現する方法が必要であるとする世相を反映した。12世紀に仏教の思想が浸透して以降も、中国式の書道スタイルを継承しながら「日本の書道」は徐々に広がりを見せていった。
書を書く前に知識を蓄える
こうした書道に関する歴史の話を聞いた後、24種の異なる筆が私たちの前に差し出された。これらは全て形や見た目に違いがあるだけでなく、猪や山羊の毛を使用するなどそれぞれに使われる素材も異なっていた。私は馬の尻尾を使用した筆を使うことにした。
次に墨の選定だ。少し赤みがかった黒の墨を使用することにした。純粋な「墨」を使用したい場合には、硯に水を注ぎ固形墨を垂直に持ち円を書くように擦り続け、水が濃い黒に近づいてきたら「墨」の完成だ。ただ、この墨を作るのが難しかった。固形墨の磨りが甘すぎても墨が硬く仕上がり文字を書くときに流れてしまうし、強く擦りすぎても墨が弱くできてしまい筆に墨が染みず上手く書くことが出来ないのだ。
書道-美しい字を書けるようになるまでの挑戦
書道をものにする次のステップは、様々な道具を用いて何度も異なる字を書き徐々にスキルを身につけること。何度も字を書き続ける間、知らず知らずに私は「自分が一番好な文字は何か」、「どういう形が良いのか」、「そしてそれは何故か」など自問自答を繰り返していた。
書道に使う筆は硬くて長く、少し慣れるまで時間がかかり最初は動かすのにも一苦労。それでも、私は自分が書く字に満足ができた。文字は硬くなりすぎず、書き終えた後の私の字は小さな問題を多く孕んでいた。なぜ決して美しい仕上がりとはいえない文字に私が満足できたのか?-それは不完全な文字のつくりこそが書道の美しさではないかと感じていたからである。私以外のワークショップの参加者たちも、それぞれがそれぞれの独自のスタイルを見出していた。参加者の一人は、非常に小さな筆を使い彼自身の動きを固定して小さく真っ直ぐな線を書こうと四苦八苦しながら、彼なりの工夫で真っ直ぐ文字を書き上げていた。
そうこうしていたら、講師の先生が別の新しい書き方を教えてくれた。通常、垂直に立てて使うべき筆の向きを、寝かせるようにして使うと、厚みが出て柔らかいタッチの、また違った形の字が書けるのだという。書くスピードも重要なポイントで、その書くタイミングに書く人それぞれの感情表現が現れるのである。
何度も繰り返し文字を書き続け、握りやすそうな小さな筆に変えてみることにした。最初に使っていた馬の毛の筆もとても好みだったが、小さな筆も細かなラインを書くには適した筆のように感じた。
正しい形で字を書くこと
書道に慣れ始め、少しずつ自信もついてきた私たちは、いよいよ今回の本題、「花」の書にとりかかることに。先生は、数種類の花を模した漢字を私たちに差し出し、その中から好きな文字を選ぶよう促した。
私はらせん状に円を書いた花を選ぶことにした。書き慣れるまで何度も書いた。この字の難しいところは、ある一定量の墨を使わないと書けないのと、形をうまく表現するためになめらかな字体にせねばならないということだ。これをうまく仕上げるには、肘と机との間をできるだけ余裕を持たせておくこと。そうすれば、自在に手を動かすことができる。そして先生は、少し別のアプローチを教えてくれた。書くときのスピードを鑑みて、筆を持つ力加減を考え、紙に向かう姿勢を考えることが重要だという。自分自身が、今書こうとしている字がどういう意味を持つのか考えながら書道に取り組めるからだ。
自身で書き上げた字を見てみたら、小さな花の下に紙の右側から風が渦巻いてやってくるようなイメージが湧いた。そして、花が渦を巻いている様は、その短い生涯を意味しているように感じた。
最後の一筆を書くときには、、先生から高価な和紙と、数種の膠が混ぜられた、より黒みの強い墨が配布された。
今回のワークショップで他の参加者の方と自分の書いた書とを見比べていて気がついた最も興味深い点は、「書道」が書く人それぞれの個性を描き出しているということ。そして、書道はユニークな唯一無二の体験で、必ずや誰もが意義深い体験ができるものであることだ。←こちらの部分、書道に触れる機会を推進していますが、冒頭でも触れていただいているように、PIGMENT LAB WORKSHOPでは、膠や判子など他の講座もありますので、そちらも紹介しつつ締めくくっていただけると良いかと思います。
墨絵ワークショップ参加費:1名8,000円 (税込)
営業時間:午前11:30 – 午後7:00
定休日:月曜日、木曜日
2011年から日本に在住し、東京の足立区に住みながらジャーナリストとして活動しているQuentin Weinsantoです。日本の見どころや、興味深い話題をお届けできたらと思います。
※価格やメニュー内容は変更になる場合があります。
※特記以外すべて税込み価格です。
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