外国人にも絶大な人気を誇る「寿司」。今や、海外でも「SUSHI」の看板を見かけることは特に珍しいことではなくなってきています。でも、その実態はさまざま。日本で修行を積んだ職人が、新鮮なネタを提供する本格的なお寿司を食べられるお店がある一方で、ちょっと違うぞ……と思わざるをえないお店が実在しているようです。
今回は、そんな海外のお寿司屋さんを調査すべく、海外在住の日本人や海外旅行でお寿司を食べたことのある日本人に、海外の寿司事情を聞いてみました。日本人が誇るソウルフードだからこそ、「海外のお寿司を認めたくない」。そんな、日本人ならではのこだわりが見えてきましたよ。
お寿司=ロールだなんて、思われたくない(カナダ在住/30代/女性)
「ロールのことをお寿司だと思っている外国人は多いです。お寿司に関して言うと、そこが一番納得いかないですね」。カナダのバンクーバーでエンジニアとして働く彼女の主張は、「ロール」という言葉から始まりました。
ロールは日本語でいうところの巻き寿司。カナダの一般的なお寿司屋さんのメニューは、「ロールセット」が主流なのだそうです。カナダだけに、サーモンに、アボカドとコールスローを組み合わせたロールが人気なのだとか。その他、唐揚げや、天ぷら、ビーフが巻いてあるものもあるそうです。では、握りは?と聞くと、「ロールセットに、申し訳程度にサーモンとマグロが付いてくるのが、よくあるパターンですね(苦笑)」とのことでした。
「食べやすさ、派手な色使いが現地の人に受け入れられている理由なんじゃないかなぁ・・・」と彼女は言います。「でも、お寿司って本来は、生鮮魚を握りで食べるものですよね」それを知らずに、ロールがお寿司と思われてしまうのは、日本人としては納得がいかない、という彼女。一人でお寿司を食べに行く時は、築地直送の本格的なお寿司が食べられるお店に行くそうです。
実は、約20年前にバンクーバーに住んでいた筆者。今や、お寿司が「ロールとして普及している」ことに、かなり驚きを覚えました。当時は、お寿司屋さん自体の数も少なく、本格的な握りが食べられる店のサイドメニューに「カルフォルニアロール」があるような位置付けだったからです。今は、そこら中に「SUSHI 」の看板を掲げた店があるといいます。お寿司がより多くの人に親しまれるようになったのは嬉しいことですが、職人の人肌を感じる、本格的な握り寿司の存在も知って欲しいものですね。
握り寿司に、天汁を付けて食べる友人に…笑(カナダ在住/20代/男性)
同じく、カナダのバンクーバーでデザイナーとして働く男性にも話を聞きました。彼も、前述の彼女と同じようなことを感じているようです。
「友人は、『Let's go eat sushi!』と言いながら生魚の入ってない巻物ばかりを食べるんですよね。僕は一人ひたすらサーモンとマグロの握りを食べています」。やはり、現地の人にとってお寿司は「ロール」というのが一般認識のようですね。
また、看板には「◯◯ SUSHI 」と書いてあるのに、実際は寿司専門店ではない所が多いとのこと。そういうお店は、揚げ物、照り焼き、炉端焼きや麺など、人気の日本食が食べ放題で、握りは基本的にサーモンとマグロなのだそう。友人が、握り寿司に天汁を付けて美味しそうに食べている姿を見た時は、思わず笑ってしまったといいます。
そんなちょっと可笑しな食事情を彼は楽しんでいる様子ですが…、「寿司」と「SUSHI 」の区別はしっかりしたいと主張します。彼が、友人と普段食べているのはあくまでも「SUSHI 」。職人が丹精込めて握る「寿司」とはまったくの別物ということですね。彼の友人が、「寿司」を食べた時に、果たしてどんな反応をするのか見てみたいものですね。
日本の寿司は、新鮮な素材と、洗練された職人の技術の賜物(ジャカルタ在住/30代/女性)
「現地でお寿司を食べに行くことはあまりないかな…。高いお金を払って口に合わないリスクを追うなら、日本で食べた方が確実」。そう語るのは、夫の転勤に伴ってシンガポール、ジャカルタに約3年ほど駐在している女性。
彼女は、以前にも海外で暮らしていましたが、「日本人の味覚は繊細で、世界トップレベル」だと称賛します。日本の味が判断の基準になっているだけに、海外のお寿司はなかなか受け入れられないようです。
ネタの鮮度、バリエーション、酢飯などの素材はもちろんのこと、それらを味付けする洗練された職人の技術の差を感じるといいます。盛りつけに対する美的センスにもそれは表れているようで、手頃なお店程、「酢飯の上に刺し身を乗せたら寿司なんでしょ?」というような印象を受けるお寿司が出てくるといいます。
因みに、日本ではほとんど見かけることのない、海外在住者のみぞ知るネタも提供してくれましたよ。「とびっこわさび(わさび味のとびっこ)」と、「とろしめさばを使った子持ち〆鯖」のお寿司は、とってもおいしいのだそうです。
旅先で、お寿司を食べたからこそのエピソードも聞いてきました。
改めて実感!おいしさの決めては、しゃりとネタの鮮度にあり(ハワイ・パラオでの体験/30代/男性)
旅行で海外に何日も滞在していると、無性に日本食が恋しくなることってありますよね。ハワイとパラオへ行った時のエピソードを話してくれたのは、南国への旅行が大好きなIT企業勤務の男性。
彼にとっては、日本でも海外でもお寿司への期待値は高いといいます。しかし、ハワイのお寿司屋さんに入ったときに感じたのは、お米のうまみや食感が日本とは違うということだったそうです。握りならば半分以上を占める「しゃり」。確かに、大きな影響力を持つのは言うまでもありませんよね。お米の種類はもちろんのこと、炊き方、握り方の技術によっても、おいしさが大きく変わってくるということでしょう。
また、パラオでは「温暖な気候の影響もあるのかもしれませんが・・・」という前置きをしつつ、「身の引き締まった弾力性のあるネタが少ないように感じました」といいます。ネタの鮮度、これも言うまでもなくおいしさを決定づける絶対必要不可欠な要素ですよね。
普段何気なく食べているお寿司ですが、しゃりとネタの鮮度がしっかりと保たれているからこそ、「おいしい!」と納得のいくお寿司を食べられることに気づかされますね。
因みに、パラオには小田急線の梅ヶ丘に本店のあるあの有名なお寿司屋さんが店を構えているそうです。納得のいくお寿司を食べたければ、そのお店へ行けば間違いないかもしれません。
南国だけに、カラフルなお寿司がお好き?(グアムでの体験/20代/女性)
最後にご紹介するのは、国民性が顕著に反映されたグアムのお寿司事情。海の色が濃いように、水着の色がカラフルなように、グアムのレストラン出てきたのは「色彩豊かな」巻き寿司だったそうです。
確かに写真を見てみると、すべてのお寿司に使われていると言っても過言ではないほど、オレンジ色のとびこが盛りっとのっているではありませんか!
差し色として、美的に使われる日本のスタイルとは異なりますが、南国流のSUSHI ということなのでしょう。
さて、海外の寿司事情はいかがだったでしょうか?今回調査したのは、限られた国や地域ですが、それぞれの国や地域のアレンジ方法で、「SUSHI」が世界中で愛されていることは喜ばしいことですよね。
しかし、インタビューに答えてくれた日本人を始め、多くの人が思っているのは、「寿司」の存在もしっかりと知ってもらいたいということ。それなしくして、「SUSHI」が一人歩きしてしまうことこそが、日本人が海外の寿司を認められない大きな理由なのではないでしょうか。そういう意味では、海外で「寿司」の存在を知ってもらうのは、私たち日本人に課せられた課題といえるでしょう。
京都生まれ。幼少期をオーストリア、高校時代をカナダで過ごした帰国子女。海外生活から日本の良さを再発見。最近特に注目しているのは、農業、焼き物、染物など「日本の伝統文化」。Webデザイナー兼ライターとして、日本の魅力を発信することを目指しています!
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