本州北部に位置する東北地方にあり、青森県八戸市から福島県相馬市までの太平洋沿岸をつなぐ「みちのく潮風トレイル」。2019年に全線開通した、全長1,000キロメートルを超える国内最長クラスのロングトレイルです。整備されたきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災。甚大な被害を受けた東北沿岸部の復興プロジェクトとして計画されました。今回は、「みちのく潮風トレイル」の魅力やモデルコースをご紹介します。
画像提供:NPO法人みちのくトレイルクラブ
東北の太平洋沿岸を歩く「みちのく潮風トレイル」とは?
全長1,025キロメートル、東北の4県28市町村にまたがり、太平洋沿岸をつなぐ「みちのく潮風トレイル」。北は青森県八戸市(はちのへし)の蕪島(かぶしま)から、南は福島県相馬市(そうまし)の松川浦(まつかわうら)までがルートとなっています。
このロングトレイルの最大の特徴は、雄大な太平洋の海景色。遠くから眺めるだけでなく、潮風を受けながら砂浜を歩くこともできます。また、人々が暮らすのどかな里や緑豊かな森もルートに設定されており、変化に富んだ景色と地形を楽しめます。歩きながらゆっくりと楽しめば、たくさんの新しい発見に出会えるでしょう。
東日本大震災の被災地を巡り、自然の美景と脅威に触れる
「みちのく潮風トレイル」は、2011年3月11日に発生した東日本大震災の復興支援のひとつ。震災では、東北の太平洋沿岸部が津波による被害を受け、人々の生命や財産だけでなく、自然環境にも大きな影響を及ぼしました。そこで、自然とともに復興を進める「グリーン復興プロジェクト」が始動。自然のなかを歩くことで、自然と人との関わり方を考えられると提唱していた加藤則芳(かとうのりよし)氏のアイデアにより、「みちのく潮風トレイル」の計画がスタートしました。そして、各地の復興状況に合わせて地域住民が参加するワークショップを開催し、地元の情報を取り入れたルートを設定しました。
そのような背景から、「みちのく潮風トレイル」のルートは、美しい景観を楽しめる場所だけでなく、津波や地震による被害の痕跡が残る場所も通ります。震災遺構やメモリアルパークに立ち寄ることで、震災の記憶を胸に刻み、防災意識が高まるきっかけになります。
万全な事前準備がトレイル旅を楽しむポイント!
「トレイル旅にチャレンジしたいけれど、何から始めればいいか分からない」、「初心者なので心配だ」という人に、プランニングのコツや必携アイテムなどの基本情報をお伝えします。
●ルートの選び方
まずは「みちのく潮風トレイル」のホームページ(http://tohoku.env.go.jp/mct/)をチェック(英語対応)。総距離数や所要時間、見どころなどが分かる「ルート情報」を調べると、歩いてみたい場所が見つかりやすくなります。トレイル初心者であれば、高低差が少なく、日帰り可能なルートが良いでしょう。
●地図の入手
歩く際には、「NPO法人みちのくトレイルクラブ」が発行している「みちのく潮風トレイル Hiking Map Book」(1冊1650円、全線10冊セット14,850円。英語表記あり。海外発送の場合は別途航空便送料)が必須。みちのくトレイルクラブのHP (https://m-tc.org/)より購入できます。地図には、地点間の距離、ランドマーク、標高など歩くときに必要な情報を詳細に記載。ほかにも、計画を立てる際に便利な「Data Book」を取り扱っています。
●プランニング
自分の体力や時間に合わせて、無理なくプランニングするのが重要です。ルートが決まったら、出発地と到着地へのアクセス、宿泊の場合はホテルの予約、休憩・食事・トイレの場所などを決定。それらをもとに、詳細を記載した計画書を作成しておけば、スケジュール管理がしやすくなります。
歩きやすいおすすめの季節は、春と秋。東北地方の中でもみちのく潮風トレイルが通る太平洋沿岸は、比較的温暖で例年は雪が少ないと言われています。しかし、その時々によって積雪、凍結などもあるので、事前に歩くエリアの天気予報などをチェックしましょう。夏に歩く場合は、熱中症などに注意が必要です。
●服装や持ち物
服装は通年、アウターウェア、インナーウェア、帽子、靴を用意。靴は、舗装路を歩くコースでは靴底が柔らかい比較的軽い靴、自然歩道を歩くコースでは靴底が比較的しっかりした靴がおすすめです。両方を兼ね備えたトレイルランニングシューズがおすすめ。アウターウェアは、寒暖の変化に対応できるように重ね着するのがポイントです。
夏の暑い日は汗を吸収するインナーウェアの上に速乾性のあるTシャツでも良いでしょう。持ち物は、両手が空くバックパックに詰めます。雨具や紙のマップ、コンパス、水筒、ヘッドライト、救急セットなども必要。自然歩道を歩く入るコースでは、クマ鈴も忘れずに携帯を。そして、ゴミ袋を持参し、自分で出したゴミは必ず持ち帰るようにしてください。
歩き終わったときの着替えに、ウエアを1セット用意すると、宿泊先や帰り道で快適に過ごせます。ほかに、洗面用具、常備薬など必要な物を忘れず持っていってください。
●名取トレイルセンターで情報ゲット
宮城県名取市にある「みちのく潮風トレイル 名取トレイルセンター」は、ロングトレイルの魅力や歩く文化、「みちのく潮風トレイル」を楽しむうえで必要な情報を知ることができる施設。施設内には、全線のルート、注意情報、見どころが一目で分かる大きなマップもあります。シャワー室と洗濯室も設置されているので、トレイル途中に立ち寄り、身支度を整えられます。施設では、英語対応可能。英語のパンフレットも用意しています。
◆実施中の新型コロナ感染症対策
施設内や設備等の消毒・除菌・洗浄/除菌・消毒液の設置/施設内換気の実施/コイントレイの利用/仕切り板の設置/スタッフのマスク着用・手洗い・消毒・うがい・検温の実施/席間隔の調整/体調不良のお客様の入店お断り/お客様へのマスク着用のお願い・検温の実施
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みちのく潮風トレイル 名取トレイルセンター
- 住所 〒981-1204 宮城県名取市閖上東3-12-1
- 電話 022-398-6181
営業時間:4~11月は9:00~17:00、12~3月は9:00~16:00
定休日:火曜、年末年始
※開館時間・休館日は臨時に変更の場合あり
迷ったときはココ!おすすめモデルコース5選
「みちのく潮風トレイル」はルートが広範囲に及ぶため、どこに行くか迷ってしまう人も多いのでは?ここでは、それぞれに魅力あふれる5つのモデルコースを紹介。トレイル旅の参考にしてみてください。
●青森県八戸市ルート(日帰り)
青森県八戸市の蕪島から高岩展望台(たかいわてんぼうだい)までの、総距離数約11キロメートルのコース。所要時間は約4時間なので日帰りコースとしておすすめです。途中、葦毛崎展望台(あしげざきてんぼうだい)で太平洋を大パノラマで眺め、大須賀海岸(おおすかかいがん)では白い砂浜を歩きます。ハイライトは種差天然芝生地(たねさしてんねんしばふち)。波打ち際まで広がる美しい天然の芝生地が見事です。
●岩手県宮古市浄土ヶ浜・田老ルート(1泊2日)
岩手県宮古市に建つ「浄土ヶ浜(じょうどがはま)ビジターセンター」から、奇岩・三王岩(さんのういわ)が立つ三王園地(さんのうえんち)までの、総距離数約24キロメートルのコース。所要時間は約10時間です。静かな波が打ち寄せる浄土ヶ浜や津波の脅威を体感できる「震災メモリアルパーク中の浜」に立ち寄ります。海の美しさと自然の凄まじさの両方を感じられる興味深いルートです。
●岩手県大船渡市 綾里街道・綾里崎ルート(1泊2日)
岩手県大船渡市の陸前赤崎(りくぜんあかさき)駅待合室から、高さ30メートルの灯台・綾里崎灯台(りょうりざきとうだい)までの、総距離数約28キロメートルのコース。所要時間は約9時間です。綾里(りょうり)街道・綾里峠では、緑豊かな古道を歩き、最後は綾里崎灯台でリアス海岸の断崖美を望みます。
●宮城県石巻市田代島・網地島ルート(1泊2日)
宮城県・石巻港(いしのまきこう)からフェリーに乗船し、田代島(たしろじま)を巡る、総距離数約16キロメートルのコース。所要時間は約5時間です。田代島は住人より猫の数が多いといわれ、島内のところどころでゆっくりくつろぐ猫たちに出会えます。森の中にたたずむ猫神社(ねこじんじゃ)で参拝し、船に乗ってもうひとつの島・網地島(あじしま)へ。森を抜けた先にある長渡集落(ふたわたししゅうらく)では、島の人々との交流があるかもしれません。
●福島新地町鹿狼山ルート(日帰り)
牧歌的な風景を望む高台に建つ龍昌寺(りゅうしょうじ)から、農産物が並ぶ直売所「しんち地場市場あぐりや」までの、総距離数約20キロメートルのコース。所要時間は約5時間30分です。のんびりとした時間が流れる里山・新地町(しんちまち)には、鹿狼山(かろうさん)の登山コースが5つあります。山頂では、田舎町の小さな民家や田園風景、遠くに海が見える素晴らしい眺望が待っています。
東北地方の太平洋沿岸地域を巡る「みちのく潮風トレイル」。歩くことで見えてくる美しい景色や人との交流は、かけがえのない旅の思い出になることでしょう。出かける前には「みちのく潮風トレイル」と「NPO法人みちのくトレイルクラブ」のホームページでしっかり下調べをして、無理なく安全に楽しんでくださいね。
※本記事の情報は2022年2月時点のものです。最新の情報は公式サイト等でご確認ください。
Text by:株式会社シュープレス
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