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スタジオ・イヴで「ストリングラフィ」-未知の芸術体験を-

スタジオ・イヴで「ストリングラフィ」-未知の芸術体験を-

Update: 2017/06/23

東京・代田橋のスタジオ・イヴでは“楽器の内部で音に囲まれる”異空間体験を味わうことができる。一音一音丁寧に紡がれる繊細で美しい音色に、動きやアートの要素も交えた音楽パフォーマンス「ストリングラフィ」、その歴史は既に25年を数えるという。
私は今回この「ストリングラフィ」の「体験型コンサート&ワークショップ」に参加。世界的に有名なパフォーマンス集団「ストラングラフィ・アンサンブル」のパフォーマンスを堪能し、プロからストリングラフィの演奏方法を学び、演奏を体験させてもらった。

「ストリングラフィ」とは

「ストリングラフィ」とは

「ストリングラフィ」という言葉は、英語の”String (糸)”と”Graphics (製図法)”を組み合わせた造語。一言で言えば、ユニークでモダンな日本生まれの楽器だ。絹糸と紙コップでできた「糸電話」がスタジオ中に100本ほど張り巡らされており、長い物は13mもある。空間全体が巨大なバイオリンやチェロに変貌し、観客は楽器と楽器の間に座り、音の波動に囲まれるような形で音のシャワーを堪能できる。演奏者の動きはダンスを踊るかのようで、現代美術のインスタレーションのような楽器と相まって様々なイメージをかき立てる構成となっている。

弦の部分には絹糸が使用されている。ストリングラフィと絹との縁は深く、ユネスコ世界文化遺産の富岡製糸場(群馬県)で2回のコンサートを実施している。今後、日本産シルク・日本蚕業絹業界の人々と共同し、日本の絹で専用の弦を開発する計画もあるとのこと。もう一つの素材・紙コップにも驚きのエピソードがある。ストリングラフィの紙コップは10年以上、古い物では15年も同じ物を使用し続けているそうだ。振動を与え続けることで紙コップに化学変化が生じ、熟成した味わい深い音色に育っていくという。

水嶋一江氏と 「ストリングラフィ」

水嶋一江氏と 「ストリングラフィ」

「ストリングラフィ・アンサンブル」とスタジオ・イヴは、作曲家の水嶋一江氏とダンスの演劇&プロデューサー・八重樫みどり氏により、1992年に創設された。水嶋氏は4歳からピアノを始め、桐朋学園大学作曲科を卒業後、米・カリフォルニア大学作曲科修士課程を修了、帰国後本格的に活動を開始した。
彼女はオリジナリティを模索するうちに、現代の日本で新しい楽器を生み出し深化させながら創る音楽こそオリジナルなのではないかと思うに至ったという。そんな中、1992年山形県月山の麓で行われたパフォーマンス・フェスティバルに参加。これは自然とのコラボレーションをテーマにしたものだった。一人森の中に佇むとそこには複雑で繊細な音の世界が広がっていたそう。そんな自然の音とコラボレーションをしてみたいと思い閃いたのが、「木と木の間に絹糸を張って森全体を大きな弦楽器にしてみよう」というアイデアだった。
このアイデアを25年間に渡って洗練させたものが、現在のストリングラフィである。時代&場所といった環境をフレキシブルに反映させながら成長し変化していく楽器=ストリングラフィの進化は、現在も続いている。各国から訪れた観客の意見や反応も、この楽器の進化に影響を与えているのだそう。

「ストリングラフィ・アンサンブル」

「ストリングラフィ・アンサンブル」

「ストリングラフィ」の誕生から4年後、1996年に「ストリングラフィ・アンサンブル」が発足した。3人から5人のプロ奏者が、バイオリン・日本の伝統楽器の笙(しょう)や篳篥(ひちりき)・鼓・自然音の鳥の声や風の音など多彩な音色を奏で、オーケストラのような重層的アンサンブルを紡ぎだす。巨大な楽器を操る演奏者の、優雅で繊細、時にダイナミックな動きは、まるでダンス・パフォーマンスを見ているかのような迫力だ。「ストリングラフィ」はアート・音楽・ダンスの要素を併せ持つ、日本で誕生した新しい総合芸術なのだということが分かる。
「ストリングラフィ・アンサンブル」は、これまでに日本各地・欧米諸国・アジア各国・オーストラリアなど、16の国と地域で1,000を超えるパフォーマンスを行っている。実験的でありながら洗練された唯一無二の音楽表現の美しさは世界中の観客から支持を集めている。プログラム構成によっては0歳から120歳まで、幅広い層の観客が楽しめるのも魅力だ。ホールや劇場はもとより、美術館、科学館、教会、学校の体育館、病院、福祉施設などでも公演を行っている。
そんな世界中で注目を集めている「ストリングラフィ」を実際に体験できるのが、スタジオ・イヴで開催されているワークショップだ。ここでは、ミニコンサートを鑑賞した後、実際にストリングラフィに触れて演奏したり、マイ・ストリングラフィを作ったりと、体験を通じより深く「ストリングラフィ」の魅力に触れられる。カジュアルな雰囲気の中、質疑応答を含め双方向で進められる「ストリングラフィ 体験&ショウ」は、体験者とのコミュニケーションで完成する“オーダーメイドのワークショップ”ともいえるだろう。
なお、アンサンブル演奏者の中には英語を話せるメンバーもいるため、英語話者も気軽に参加が可能である。

スタジオEVEを訪れる

スタジオEVEを訪れる

モダンな創りに明るく趣のある雰囲気のスタジオ・イヴに、私も訪れてみた。スタジオ内には壁の幅いっぱいに弦が張られている。「リラックスして自に聴いてください。途中で場所を移動しながら聴いてもいいですよ。」と言われ、スタジオ真ん中のクッションに腰掛けた。弦は3セット張られており、2セットが自分の左側に、1セットは右側にある。大きな楽器の中にすっぽりと入ってしまった印象だ。それぞれの楽器はバス、アルト、ソプラノ、と音域に特徴がある。五感をフル稼働させ体験する異空間「楽器の中に入って音に包まれる」パフォーマンスが、とても楽しみになってきた。
実際に体験するストリングラフィは、想像を絶する未知の表現であった。訪れた日のプログラムはクラシックの名曲、モーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』と水嶋氏のオリジナル楽曲『森の記憶』の2曲。艶やかな音色がスタジオいっぱいに響き渡り、次第に、紙コップと絹糸のみで奏でられる音とは思えないくらい力強い音色とその大きな音に圧倒されている自分に気が付いた。
身体全体で表現するパフォーマーたちの優美な姿はダンサーのようで、魔法にかけられたように見入ってしまった。

ストリングラフィを学び、演奏体験へ

ストリングラフィを学び、演奏体験へ

ストリングラフィ・アンサンブルによる演奏の後は、いよいよ演奏体験へ。まずは、各参加者が糸電話のような見た目のミニ・ストリングラフィを製作。驚いたことにこんなに小さくシンプルなものでも十分に大きな音が出るのだ。次に、スタジオの壁の方へ行き、作製したミニ・ストリングラフィを取り付け、「小鳥のさえずり声」などに挑戦。その後しばらくは、自由にスタジオ内のストリングラフィに触れ、音を奏でて楽しんだ。ワークショップの最後には、水嶋氏作曲『森の記憶』を、「ストリングラフィ・アンサンブル」のメンバーの方たちとともに、即興で演奏した。世界中この場所でしか体験できない芸術に触れ、かけがえのない経験となった。ちなみに、作成したミニ・ストリングラフィは、お土産として持ち帰ることができるそう。

あなたも未知の芸術体験をスタジオ・イヴで

あなたも未知の芸術体験をスタジオ・イヴで

誕生から25年経過した今も進化を続ける「ストリングラフィ・アンサンブル」。そのパフォーマンスやワークショップを通じて、今日も「ストリングラフィ」は、その魅力を世界に広めている。一度目にしたら必ずや大きな印象を残すとびきりの芸術体験に、あなたもぜひ触れてみて。

Written by:

Holly Neslusan

Holly Neslusan

アメリカのマサチューセッツで育ち、新たな冒険と、おいしい緑茶を探しに日本へやってきました。様々なことを追求し、そして書くことを通じて、大都市・東京で私だけの生き方をみつけることができました。

※記事掲載時の情報です。

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