日本人はなぜマンホールの美しさにこだわるのか?

日本人はなぜマンホールの美しさにこだわるのか?

Update: 2017/12/08

前回お伝えしたように、関係者ですら予測していなかった大ブレイクで、イメージアップに成功しつつある下水道。もともとは「暗い、汚い、臭い」と、いいところなしだった下水道のイメージが、デザインマンホールや100万枚を突破したマンホールカードなどのおかげで楽しいものに変わりつつある。
近年のブレイクを経て、さらにマンホールのデザイン化に着手する自治体が増えているという。さらにこだわり、さらに美しいものを設置しようとする、その理由は何なのか?

理由その1 観光の起動スイッチになっているから

理由その1 観光の起動スイッチになっているから
高松城と市の木クロマツ、この地にゆかりのある武将那須与一が名物のうどんを食べる姿が描かれたマンホール。QRコードを読み込むと、周辺の観光や飲食店情報を見ることができる

これだけデザインマンホールが広がり続けていることについて、下水道広報プラットフォーム(GKP)の山田秀人さんはこう分析する。

「自治体の下水道の予算に関連することなので、全国そうだとはいえませんが、デザインマンホールの意外な活用法や可能性に気づいたのではないかと思います。我々もある程度は予想していたのですが、予想以上に自治体がその効果を知って、どんどん活用するようになっています」

ご当地の名産や名所を描いてアピールするだけではなく、たとえば、数か所のマンホールをスタンプラリー的に巡れるような仕組みにしたり、マンホールカードを見せれば、地元の店でビールがただになったり、土産物を割引で買えたりというメリットを持たせたものもある。QRコードが掲載されているマンホールは、コードを読み込むと、地元のお祭りなどのイベント情報のページに飛んだり、または観光地の動画が見られたりする。その結果、マンホールが観光や地元活性化の一役を担うスイッチになっているのだ。

「観光地や足を運んでもらいたい場所にマンホールを作って、PRしようという動きも増えていますね」

現物を見ると、マンホールカードを手に入れたくなるし、その逆もある。マンホールカードと現物を写真に撮ると、人に見せたくなるからSNSにアップする。すると自治体がPRしたくてもできなかった人々にその街の情報が拡散されるというわけだ。実際、マンホールカードを入手しに地方の下水道局や市役所などを訪れる人の6割は県外から訪れるという驚きのデータがある。

宮城県仙台市に期間限定で登場した『ジョジョの奇妙な冒険』のデザインマンホール。各地からファンが詰めかけた

「コレクターやマニアの人たちでないと、マンホールカードをわざわざ撮りに行かないだろうと最初は思っていましたが、100万枚という数になると、さすがにそうではないと思います。細々と続けて定番化していければいいと思っていたのに、ここまでの人気は本当に予想外ですね」

現在、日本が「地方創生」に注力している背景と、訪日外国人が増えている状況も追い風になっている。観光にも役立つことがわかって、下水道単独ではなく、観光の予算などと折半でデザインマンホールを設置している自治体が増えているという状況も納得だ。

「かつては各自治体がそれぞれ下水道に関する広報を進めていましたが、全国統一でマンホールカードという広報ツールを作って、コレクター心をくすぐるアイテムとして展開した。それが話題になることは、各自治体にとっても非常にモチベーションが上がるのではと思います。うちもがんばろう、もっと訪れた人を楽しませよう喜ばせようという、いいサイクルを生んでいるのではないでしょうか」

理由その2 技術と美観を両立させたい日本人ならではのこだわり

理由その2 技術と美観を両立させたい日本人ならではのこだわり

そもそも日本人は細部にこだわると言われているが、デザインマンホールにもそれは発揮されている。下水道のマンホールなどはもともと規格のデザインもあり、なるべく地味に、道路になじむようにと作られていた。それが今や観光地や商店街の道を飾るアクセントにもなっている。初めてのデザインマンホールが登場したのは1978年、カラー化が始まったのは1981年で、すでに全国で1万2000種類あるデザインマンホールだが、市町村ごと、デザインが異なるごとに、一からデザインを作って型を作り、彩色にいたっては一枚一枚手作業というから驚かされる。製造を手掛ける長島鋳物の長島俊輔さんと梶山達雄さんにその苦労を聞いた。

「デザインが決まるまでに何か月もかかることもあります。この線に強さを出してとか、波のこの感じがちょっと違う、ゆるキャラの○○ちゃんのほっぺの色はこの色じゃない、など、思いもよらなかったフィードバックをもらうこともあります。大変ですが、いいものを作りたいという熱意のある自治体さんとのお仕事は楽しいですね」

長島鋳物には、現在8000種類ほどのデザイン型があるという

デザインの美しさを活かしながら、本来の目的である周囲の道路と同じくらいの強度があり、滑り具合を保つのが、作る上での苦労だとのこと。現在、デザインマンホールで盛りあがっているものの、長島さんも山田さんも声を大にして言うのは「一番大事なのはマンホールの安全性」。とくにカラーのマンホールは塗料が入るため溝が浅くなり、滑りやすくなる。

マンホールが雨でぬれたときのバイクの車輪のスリップ具合をテストしている

周囲の道路と滑り具合が異なった場合、歩く人が足を取られて転倒したり、自転車のブレーキがきかないなど、事故につながる可能性がある。そのため、元のデザインにはなかった要素を加えて、安全性を確保することも。

大人気の『名探偵コナン』のマンホール。作者の出身地、島根県北栄町にあり名産の山芋、スイカも描かれている

「このコナン君の背景の細かい丸のデザインなどは、絵的には必要ありませんでしたが、安全性のために加えたものです」

見て楽しく、実用性に優れたマンホールは、本来の役割を果たしながらも、なおかつ現代のニーズも満たす、技術の結晶だともいえる。ほかにも火災の消火栓用鉄蓋で、現代の技術を生かしたものも。

曇りの日でも、日没から夜明けまで光るという

「性能がよく安全な蓄光塗料ができため、このようなデザインマンホールもできるようになりました。夜間の火災でも消火栓がすぐ見つけられるようにするためです」

この数年でも技術が進んでいるという製造現場の話を聞くと、今後のデザインマンホールも必然的に進化することになるだろう。どんなことが可能になり、どんなマンホールが登場するのか。新しいものが大好きな日本人のこと、きっと驚くようなものが出てくるだろう。

理由その3 日本の街角アート、文化財だから

理由その3 日本の街角アート、文化財だから

GKPの山田さんは言う。

「さまざまな工夫、技術、デザインを凝らしたマンホールは、日本の文化財といってもいいほどのものだと思うんです。日本は小さい国ですが、1700も都市があって、都市別にマンホールのデザインがあって、直径60㎝の中に、富士市なら富士山、大阪なら大阪城と、土地にゆかりのあるデザインが入っている。いくら経済がいい国でも、そんなに面倒くさいことをやろうとは思わないですよね。それをあえてやっているのがとても日本人らしいなと思います。日本人の繊細さや丁寧さといった、日本人ならではの感性や国民性の表れかなと思っているんです。

デザインマンホールが登場してもう40年近くになります。だから歴史もあって奥深く面白い。日本国内でもマンホールカードの盛りあがりで、デザインマンホールの存在を初めて知った人も多いようですが、一過性のブームではなく定番化できるように地道に続けていきたいと思っています。次は10月、また新たに50都市のマンホールカードが登場します」

現在はマンホールカードを希望する自治体の数が多く、年3回の発行では間に合っていないという。しかし一過性のブームで終わることがないよう、一時的に大量のカードを発行することは考えていなく、限定カードなどの要望もあるが、マンホールに優劣をつけてはいけないというGKPのポリシーを伝えて断っているという。

マンホールカードは本来、下水道のイメージ向上のために始まった広報ツール。それが予想を超える盛りあがりと、ポジティブな副産物を生み、全国に拡がっていく。そして全国各地のマンホールが少しずつデザイン化されていく。考えるだけでも楽しいではないか? あなたが次に訪れる場所で、ぜひ足元にも注目して歩いてみてほしい。


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※記事掲載の実地撮影のマンホール写真ほか、投稿写真を多数掲載


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(ライタープロフィール)
浅香来 先日はタイの国営放送も取材に訪れたという工場での制作過程で驚いたのは、すべて手作業で手塗りをしているということ。鋳物工場の古典的な行程ながら、コンピューターで行程を管理しているのも印象的でした。

※記事掲載時の情報です。

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