外国人観光客に人気の東京・下町の谷中。100年以上前からこの地に根付き、地域の人々に愛されてきたのが「カヤバ珈琲」です。
一度は閉店するも、存続を望む多くの人の熱い想いによって再オープン、息を吹き返しました。昔ながらの面影を残した居心地の良さとともに、決して古いだけではない新しさも感じられる唯一無二の魅力で、幅広い層に人気のお店です。そんな日本ならではの喫茶体験が味わえる「カヤバ珈琲」と、地方ごとの違いもある日本の喫茶文化について紹介します。
■そもそも日本の喫茶文化って?
最近の日本では、喫茶店=昔ながらのレトロな雰囲気の店内でコーヒーを飲める店、カフェ=今時のおしゃれな雰囲気でコーヒーや最新スイーツなどが味わえる店といったイメージがあります。ですが実は、日本で歴史が古いのは、喫茶店よりもカフェのほうなのです。
日本初のカフェと言われているのが、1888年に東京・上野の「可否茶館」で、コーヒーを飲みながら交流できる場としてオープンしました。その後、少しずつ世の中に広まっていき、大正時代から昭和時代の初期にかけては多くのカフェ(カフェー)ができました。
当時は、コーヒーを嗜みながら交流するお店だけではなく、お酒を提供したり女性店員が接客サービスをしたりするバーやキャバレー(キャバクラ)のようなお店もカフェと呼ばれていました。そこで、そうしたカフェと区別するために、純粋にコーヒーや軽食を楽しむお店が「純喫茶」「喫茶店」と名乗るようになったのです。
■朝食「モーニング」の定番メニュー
日本の喫茶店ならでは文化のひとつが「モーニング(モーニングサービス)」。朝食時間帯にコーヒーを注文すると、無料または格安の追加料金でパンや卵、サラダなどが付いてくるサービスのことです。朝食メニュー自体を指すこともあります。
モーニングの起源ははっきりしておらず、発祥の地については愛知県、広島県など諸説あります。商談などで朝から喫茶店を使う人たちのために、コーヒーにピーナッツとゆで卵をサービスで出したことが始まりというのが有力な説のひとつです。
お店ごとにオリジナリティや変化を加え、タマゴサンドや目玉焼きトーストなどさまざまなメニューのモーニングに派生していきました。そのため、今でもモーニングの定番メニューというと「卵+パン」の組み合わせとなっているのです。
■地方ごとに特色があるモーニング
地域ごとに特色があるというのも、モーニングのおもしろいところ。たまごサンドといっても、地方ごとに定番は異なります。関東では、ゆでたまごをつぶしてマヨネーズと和えた「たまごサラダ」ですが、関西ではオムレツのように火を通した厚焼きたまごが一般的です。
また、モーニング発祥のひとつとして知られる愛知県では、各地でモーニングが盛ん。町をあげてキャンペーンを打ち出すなど、バリエーション豊かなメニューが楽しめます。特に愛知県名古屋市では、あんことバターをのせた「小倉トースト」が有名で、名古屋の喫茶メニューの定番です。朝だけでなく一日中モーニングを食べられるところもあり、ご当地グルメとしても人気となっています。
■カヤバ珈琲はどう誕生した?
そんな日本独自の喫茶店文化を体感できるカヤバ珈琲。その歴史について、店長の成瀬さんにお聞きしました。
―カヤバ珈琲の歴史について教えて下さい。
「カヤバ珈琲の創業は1938年。先代のオーナーである榧場(カヤバ)さんが家族で力をあわせながら長きにわたって営業し、谷中のシンボル的存在として地元の人に愛されていました。2006年に一度閉店することになってしまったのですが、「この貴重な谷中のアイコンでもある建物を壊してほしくない」「思い出の詰まった憩いの場を残してほしい」という声が多かったんです。
そのため、地域の有志の方やNPO法人「たいとう歴史都市研究会」の手によって、2008年に再オープンすることになりました。その後、ご縁があって、当社(株式会社ファイブカップス)が運営を引き継ぐことになりました。
―昔からあるものを残しながら、現代の人にも支持されるお店作りというのは、とても難しいことですよね?
「昔ながらの良さを残すことと新しいものを取り入れる、そのバランスは一番こだわっているところですね。単に建物だけを残すのであれば、ギャラリーなど他の活用の仕方もあったと思います。ただ、昔のカヤバ珈琲を知っている様々な方のお話を聞いて、ここを『カヤバ珈琲』として残すことにこそ、意味があると感じたんです。地元の方がカヤバ珈琲で育んできたこと、経験したことを引き継いでいくということが大事なのではないかと」
「一方で、単に古いものを残すだけでなく、その時代や状況にあわせてブラッシュアップして新しいものを取り入れていくことも大事だと考えているので、運営していくうえでは常に挑戦することも常に大切にしています。まさに、テーマは『温故知新※』ですね。」
※ 過去の古い教えから、新しいものを学ぶという意。
―建物や店内の雰囲気は、新しいものにはない唯一無二の魅力がありますよね。
「木造二階建ての建物の造りや店内の雰囲気は、昔ながらの趣を残しつつも、清潔感であったり利便性だったりといった現代的な過ごしやすさも大切に、定期的にメンテナンスしています。」
「外観は、伝統的な和風住宅で見られる寄棟造の屋根が特徴的です。日本の古い街並みではよく見られる梁が表に出ている出桁造り(だしげたづくり:屋根の下の白い部分)というのも、今ではめずらしいものですね。」
―カヤバ珈琲が今も愛されている理由はどんなところなのでしょうか?
「お店づくりにいろんなジャンルの人が関わっているからこそ、昔からの常連さんも初めて来る方も、どの方にとっても、魅力を感じてもらえているのではないかなと思います。」
「お客様の層も、SNSなどを見て来て下さる若い方から、お墓参りのついでに年に1度必ず来るという方、建築に興味がある海外の方、偶然通りがかったサラリーマンの方など、本当にさまざまです。昔懐かしい喫茶店と、現代のおしゃれなカフェ、ちょうどその2つを組み合わせたような雰囲気のお店であるところが、さまざまな方に来ていただけている理由なのかなと思います」
「お店のレシピやこの昔懐かしい雰囲気などもともとあるものをベースにしつつも、何かしら新たな発見や体験も感じてもらいたいと思っているんです。やはり『カヤバ珈琲』という場で食べることに意味があると思ってるので、この空間ならではの味わいを大切にいかにこの空間にフィットするか、かつ新しさも感じられるかという微調整はとても慎重に行っていますね。」
■絶対に食べておきたい!カヤバ珈琲の定番メニュー「たまごサンド」(1,000円)
昔ながらのレシピを参考にしながら、ほんのり酸味のあるパン「サワードウ」を使ってアレンジした新しさが感じられるたまごサンド。外国の方にはより馴染みのある味ではないでしょうか。耳はカリっと、中はモッチモチです。
喫茶店のサンドイッチは、ふわっと柔らかくすぐに食べ切ってしまえるものが多いイメージですが、カヤバ珈琲のたまごサンドは時間をかけてゆっくり食べられるほどボリュームたっぷり。
「コーヒーと食事をじっくり味わいながら、この空間でゆっくり滞在もらえるようにと、食材や食事のボリューム感を考えているんですよ」と成瀬さん。細かいところまで計算されているお店作りは、さすがです!
モーニングメニューは8:00~11:00の3時間。すべてのメニューに、絞りたてジュースまたは今日のスープ、数種の季節野菜のサラダが付きます。
■日本らしい喫茶メニュー「あんバターサンド」(1,200円)
日本らしい食材を使った喫茶店メニューといえば、あんバタートースト。
たっぷりのあんこは甘さが控えめで濃厚なバターとの組み合わせは、絶品です。
お好みで添え付けのマスカルポーネチーズを合わせると、よりさっぱりといただけます。
■スパイス薫るオリジナルシロップの「谷中ジンジャー」(600円)
スパイスを加えたオリジナルのジンジャーシロップで作った「谷中ジンジャー」。さわやかなスパイスがふわっと香り、夏にはアイスで、冬はホットで、どちらも楽しめます。あんバタートーストとの相性もばっちりです。
■カヤバ珈琲に来たら味わいたい「ルシアン」(600円)
ルシアンとは、ウクライナで親しまれている伝統的なアレンジコーヒーのこと。カヤバ珈琲のレシピは、ドリップコーヒー、チョコレートシロップ、ミルクがミックスされています。
やさしい甘さのなかにしっかりとコーヒーが香り、さらっと飲めてしまいます。普段コーヒーを飲まないという人でも、きっとこれは気に入ってしまうはず。ぜひ試してみてください。
■ここで過ごす時間は特別な体験になる「カヤバ珈琲」
多くの人の想いが詰まって、歴史を紡いでいるカヤバ珈琲。新しいものを作ること以上に、昔からあるものを残すというのは簡単なことではありません。昔の良さと現代にも合わせていくそのバランスが絶妙で、その想いに共感している人たちが働いているからこそ、今も多くの人に愛されているのでしょう。
時間がゆったりと流れ、ここに滞在すること自体がかけがえのない特別な体験になる。そんな日本のカヤバ珈琲にぜひ足を運んでみてください。
- <実施中のコロナ対策>
- ・店内や設備等の消毒、除菌、洗浄
・除菌消毒液の設置
・お客様の入れ替わり都度の消毒
・店内換気の実施
・コイントレイの利用
・仕切り板の設置
・スタッフのマスク着用、手洗い、消毒、うがい、検温の実施
・入店人数や席間隔の調整
・体調不良のお客様の入店お断り
・お客様へのマスク着用のお願い・検温の実施
※ 2022年5月取材時の情報です
※ 新型コロナウィルス感染拡大の状況により、営業時間等は変更の可能性があります
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カヤバ珈琲
- 住所 〒110−0001 東京都台東区谷中6-1-29
- 電話 03-5832-9896
<営業時間>
月〜金 8:00~17:00(L.O16:30)
土日祝 8:00~18:00(L.O17:30)
<定休日>
なし
旅ライター×海外ツアーコンダクター。社会人向け教育コンテンツの企画開発・編集担当として11年従事。プライベートでは学生時代から旅に魅了され、これまで世界約50カ国150都市以上をめぐってきた大の旅好き。世界中、日本中のグルメを味わい、自然を感じ、世界遺産や歴史的建築を見て、温泉めぐりをするのが生きがい。そんな旅好きが高じて、会社員から旅ライター×海外添乗員へと転身。現在は、年間100日以上海外を飛び回りながら、旅ライターとしても活動。旅の楽しさ、日本の魅力、世界の多様な価値観をより多くの人に広めるべく、インバウンドの添乗や旅ライターの取材等で、日本各地を訪れて情報発信をしている。
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