海外を訪れる際に欠かせない宿泊施設。新型コロナウイルス感染拡大以前、外国人観光客が増加していた日本には、ホテルやホステル、B&B(Bed&Breakfast)のほか、日本ならではの「旅館」があります。中でも旅館は「和」を好む外国人観光客に特に人気のようです。
果たして、実際に宿泊した外国人は、旅館の和をどんな風にとらえたのでしょうか。日本で旅館に宿泊したことがある外国人数名にアンケートを実施し、その感想に迫ります。(以下はアンケートに答えてくださった方の個人的な意見です)
外国人観光客の多くが「旅行中に困っていること」って何?
観光庁が2018年に実施した「訪日外国人旅行者の受入環境整備に関するアンケート」によると、訪日外国人旅行者が「旅行中に困ったこと」で最も多かった結果が「施設等のスタッフとのコミュニケーションが取りにくい」でした(回答者の20.6%)。
ちなみに「施設等」とは「税関、出入国管理、検疫」「空港内」「公共交通機関内」「観光地」「宿泊施設」を指しますが、その中で「宿泊施設のコミュニケーションに困った」と応えた人は、約26%でした(先述の回答者20.6%を分母として計算)。
彼らは主にどのような場面でのコミュニケーションに不便を感じているのでしょうか。観光庁が2017年に行った「訪日外国人旅行者の受入環境整備における国内の多言語対応に関するアンケート」によると、「チェックインの時」「大浴場や和室など日本独特の設備や風習にならう時」「周辺の観光情報について質問する時」など、スタッフと意思疎通が取りづらいと感じているようです。
実際に外国人旅行客に聞いてみた
それでは実際に泊まってみた外国人観光客は、どのように感じたのか、以下のアンケートをとり、感想を聞いてみました。今回はより日本らしさを感じられる「旅館での宿泊」に限定して紹介します。
1. ホテルではなく、あえて旅館に泊まったことはありますか?また、その理由は?
「何度も泊まったことがあるよ」(オーストラリア人/30代/男性)
「一度だけ休暇で泊まった。より伝統的な日本の家屋での生活を経験してみたかったので、文化について学ぶことができた。でも泊まってみて、また旅館に泊まりたいとは思わなかったな。それ以来、アクセスしやすいし見つけやすいから、ホテルを使っているよ」(アメリカ人/30代/男性)
「日本の旅館に泊まって、日本料理に挑戦したことがあります」(フィリピン人/30代/女性)
2014年に国土交通省が行った「旅館ブランドに関する調査研究」によると、宿泊先に旅館を選んだ理由は、「温泉に入りたかった」「日本料理が食べたかった」などが挙げられます。特に、初めて宿泊する観光客は「和室や日本式の建築に興味があった」とする回答が多数を占めました。
ただし、いざ泊まってみると、気に入ってリピートする人もいれば、慣れない習慣や風習に戸惑う観光客もいるよう。例えばコミュニケーションの不自由さがネックになったり、宗教的な理由で食が口に合わなかったりする場合も考えられます。
宿泊先スタッフとの意思疎通も旅行の重要な要素のひとつかと思います。なぜ大浴場では全員裸になるのか、箸の使い方はどうすればいいのか、客室の和室はどのように過ごすと良いのか、布団は自分で敷くのか、または誰がいつ敷いてくれるのか。
カルチャーショックを受け、頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになっている外国人観光客を、宿泊スタッフが優しくサポートできれば、外国人観光客は日本文化を前向きに理解し、楽しく過ごすことができるのではないでしょうか。
2. 旅館に泊まった際に、困ったことは何ですか。また、その解決策があれば教えてください
1)予約について
現在は大手のブッキングサイトのほか、多言語対応のオフィシャルサイトを展開する旅館もあるため、比較的予約は取りやすくなっているようです。
「トラブルのほとんどは言葉の壁。予約・温泉・食事、全てにおいて大変だった。でも、スマホとパソコンがあったので助けになったし、ほとんどの問題を解決できたよ。予約と食事はパソコンからリサーチすることで簡単に解決できた」(アメリカ人/30代/男性)
2)露天風呂について
「露天風呂はリラックスできるし、とっても落ち着く」(フィリピン人/30代/女性)
「温泉については、ロッカールームの中の説明写真を頼るしかなかった。観光スポットならいつも英語表記があるけど、田舎の方では、他の人達がどうやって使っているかみて、彼らにならってやってみるしかなかったな」(アメリカ人/30代/男性)
温泉旅館の魅力の一つは当然温泉に入れること。温泉に思う存分入れてそのまま寝泊まりのできる旅館は、海外の観光客にはより魅力的に映ることでしょう。とはいえ、日本には水着を着用して入浴する習慣がないため、裸で湯につかることに抵抗を感じる場合も。
また「浴槽につかる前にはかけ湯をする」「体を洗ってから浴槽に入る」「タオルや髪の毛は浴槽につけない」といった日本独自のルールの説明がしっかりなされていない場合、知らないうちに周りの日本人から白い目で見られる可能性もあります。そうなっては、せっかくの楽しみが台無しになってしまいますよね。
3)食事について
「ベジタリアンということを事前に伝えておくと対応してくれるので困ったことはなかったよ」(オーストラリア人/30代/男性)
「日本のスタイルでいただく食事は美味しいし、とても特別感があって良かったわ」(フィリピン人/30代/女性)
旅館が宿泊者の食の要望を聞いてくれると、外国人観光客にも喜ばれます。特に海外では、ベジタリアンやヴィーガンの人、宗教的な理由で特定の食材がNGな人、ハラル認証がついたものしか食べない人など、食の好みがはっきりしていることがあります。
旅館側や日本人からすれば「日本の旅館なのだから、和食を食べてほしい」と思うかもしれませんが、客の好みにもしっかり対応することがリピーターを生む秘訣かもしれませんね。
実は「困ったことはない」外国人も多い
ここまで、外国人観光客が宿泊施設に滞在した際のエピソードや感想を紹介しましたが、実は2018年に観光庁が行った先述のアンケートで最も多かった回答が、ほかにあります。
その回答は何だと思いますか? 意外なことに「困ったことはなかった」と応えた旅行者が、全回答のうちの約3割も占めていました。
というのも、今回同様のアンケートは過去2016年、2017年にも観光庁が実施していて、「スタッフとのコミュニケーションのとりにくさ」をはじめ、「無料公衆無線LAN環境の不足」「両替のしづらさ」「多言語表示の少なさ、わかりにくさ」「公共交通の利用の不便さ」などのネガティブ要素は、年を重ねるごとに減少傾向にありました。
その一方、増加したのが「困ったことはなかった」という回答。このアンケートだけで結論づけるのは早計ですが、少なくとも、外国人観光客向けの環境が整いつつあることが想像できます。
また以前のように自由に旅行を楽しめるときが来たら、都市部のみならず国内のどこを訪れても海外人観光客が気持ちよく過ごせるよう、整備が進んでいってほしいと思います。
※ 本記事は2019年初掲出のものを再編集して公開しています
ライター
株式会社ダリコーポレーション
京都出身滋賀育ち。大学在学中に京都でライター業を開始。以後、関西・東京の出版社や制作会社で、グルメ・街情報を中心に18年以上携わる。
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