東京の行ってみたい観光スポットにはライクインすることはないが青山墓地。しかし、かつての東京を知るには欠かせない場所ではある。静かで平和的な雰囲気を放ち、東京の歴史と文化を色濃く携えている。日本人には青山霊園の名で親しまれ、外国人墓地があることで知られている。私は日本の過去について、またここに眠る外国人居住者の生涯や関係性について知るために、ここを訪れることとした。
静かな都会のオアシス
実際に現地を訪れる前に、私は少し青山霊園の歴史について調べてみた。1872年、美濃国郡上藩(現在の岐阜県)の藩主青山家の下屋敷跡地に、明治政府によって作られた。当初は、神道のみの神葬祭の墓地だったが、仏教徒やキリスト教徒の要望もあり、1874年に公共の墓地となった。霊園の総面積は、263,564平方メートルでそのうち墓所面積が128,019平方メートル。23区内最大の墓地なのだとか。
しかし現地を訪れて私が驚かされたのは広さだけではなかった。人が全くいないことだ。東京は人ごみを避けることが難しい場所。でもここは、広くて人がいない。まさに都会のオアシスを見つけた!と思った。ここがまさか、六本木と渋谷の中間にある場所とは信じがたかった。
桜の木と墓石
歩いていると、私はたくさんの木々や草、茂みが多いことが分かった。特に木々は桜だということが分かると、春にはどんなに素晴らしい光景が広がるのだろうかと想像した。お花見の季節になると、多くの人々が青山霊園を訪れるのだとか。私は公園でのお花見を経験したことはあるけれど、墓石の下に眠る人々に囲まれて、生気いっぱいの桜の花を愛でたことはまだない。
同霊園には外国人墓地があることから、墓石の形は単一的ではなく、また墓石に刻まれたメッセージや文字が多彩であることに気がついた。「この墓石は日本人の友人らによって立てられたものである。1890年」。そんな不思議な言葉が英語で彫られているお墓を見つけた。故郷に家族を残したまま日本で亡くなり、代わりに日本で出会った友人らが墓石を立ててくれたのだと分かった。当時、国際的な人間関係を築くのは、今ほど容易ではなかったはずだ。それを思うと、なんと感動的なエピソードだろうと感じた。
東京に住んでいたアメリカ人 ハリス家
墓地を歩いていると、有名な人の名前が彫られているお墓を見つけた。ハリス家だ。メリマン・コルバート・ハリスは、アメリカ・メソジスト監督教会宣教師で、1873年に宣教師として来日し、妻のフローラと二人の娘とともに20年間、北海道に住んでいた。一時、アメリカに帰国したが、1900年代初頭に、再度、日本へと戻ってきた。後に、当時の天皇から直々に勲章が授与されることとなる。また「アメリカ生まれの日本人ですから」と言うほどに日本を愛し、明治時代の日本人クリスチャンに影響を大いに与えた人物として知られる。
妻のフローラも興味深い人生を送っている。1850年生まれ。彼女も宣教師ではあったが、女子だけのデイスクールを始めたという点では、他の宣教師たちとは異なっていた。デイスクールでは聖書の教えのみならず、英語や裁縫、マナーなども教えた。後に、正式に女学校を設立することとなるが、同時に作家としても活躍した。
武士であり政治家であった大久保利通
青山霊園に眠る人々のなかで、日本人にとって最も有名な人のひとりが、大久保利通だ。1830年に薩摩(現在の鹿児島県)で生まれ、武士となり、日本の政治を大きく改革した。1868年1月、京都御所で薩摩藩と長州藩が、鳥羽・伏見の戦いをもって争いを沈静化。大久保氏はそこで、維新三傑の一人とよばれるようになった。そして版籍奉還、廃藩置県といった制度を次々に実施。また欧米視察にも参加し、近代的な政治、軍、工業、教育などを学ぶこととなったようだ。しかし残念ながら、当時は氏の近代的な発想を喜ぶ者ばかりではなかった。1878年、不平士族に暗殺されてしまったのだ。墓所内に暗殺時の馬車の馭者中村太郎と馬も一緒に埋葬されている。
ドイツの外科医、ユリウス・カール・スクリバ
最初に私は、アメリカ人ファミリーの話をしたが、実は外国人墓地のお墓は、ヨーロッパ人のものが多いようだ。そのひとつが、ユリウス・カール・スクリバのもの。彼はドイツ人で、1848年に生まれ、薬剤師および医師としての生涯を送った。1871年、普仏戦争で軍務についたが、戦争が終わるとすぐ学業に戻った。
しかしながら1881年、人生の大きな転換期を迎えた。日本政府からアドバイザーとして、また東京帝国大学医学部で手術、皮膚科、婦人科、眼科の指導者として、招かれたのだ。氏は日本で頭蓋骨骨折における最初の開頭手術を行っただけでなく、当時の日本のトップクラスの外科医を指導したとして有名になた。後に日本のドイツ大使館の医師、また聖路加国際病院の外科医チーフにもなった。氏の業績は、外科学会の最初の名誉会員、東京大学の名誉教授の肩書きにも表れている。しかし最も名誉あることは、明治天皇から授与された勲章だったかもしれない。
ハチ公と上野教授
実は私が一番、心動かされたお墓は、人間のものではなく、犬のものだった。ご主人様の帰りを9年間も待ち続けた秋田犬、ハチ公の物語は、日本中の誰もが感動したはずだ。日本の文化において、ハチ公は忠誠心の象徴。ちなみに渋谷駅の待ち合わせ場所にもなっている広場には、ハチ公の銅像が立っている。どうやらその週にハチ公の碑に訪れたのは、私だけではないようだった。まだ新しいわんちゃん用のおやつやおもちゃ、お花やお香が供えられていたのだ。
意外な歴史散歩ができる青山墓地
今回紹介したのは、青山霊園にある多くのお墓のうちのほんの一部だ。歴史に残る人々が眠る一方で、もちろん多くの一般の人々も眠っているこの墓地。ところで、140年以上も前
の時代に、アメリカ人として日本に住むことはどんな感じだったのだろうか。現代の日本は近代的なものにあふれ、非常に快適に住むことができる土地だ。日本人以外の人々にとってもだ。しかしこれが19世紀や20世紀初頭だったとしたならば、日本に住む勇気が私にあっただろうか。それを思うと、その時代に見知らぬ土地を訪れて、その生涯を捧げた人々への尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
アメリカのマサチューセッツで育ち、新たな冒険と、おいしい緑茶を探しに日本へやってきました。様々なことを追求し、そして書くことを通じて、大都市・東京で私だけの生き方をみつけることができました。
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