1.多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
2. 健康的な食生活を支える栄養バランス
3.自然の美しさや季節の移ろいの表現
4.正月などの年中行事との密接な関わり
旬の食材を使い、持ち味を活かす。決して派手ではないものの素朴で心に沁み入るような味わいの和食は、日本人の国民性を表しているとも言えるだろう。
いま、そんな和食をテーマにしたマンガが話題を集めている。『サチのお寺ごはん』(かねもりあやみ 著者、久住昌之(写真左) 原案協力、青江覚峰(写真右) 監修/秋田書店)
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本作は、グルメマンガの中でも珍しい「精進料理」を軸に据えた作品。その名前から「幸が薄い」とバカにされてきた主人公・臼井幸が、ひょんなことからお坊さんとそれを取り巻く人々と出会い、精進料理=和食の素晴らしさを学んでいくというストーリーだ。
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本作において、非常に重要とされているのが「ダシ」の存在。コンビニ弁当漬けだった幸が和食の美味しさに目覚めるきっかけが描かれた第1話にも、大豆でダシをとった「利休汁」が登場している。
一般的にダシというと、昆布や鰹節からとるものを思い浮かべるだろう。しかし、その世界は奥が深い。前述のように大豆はもちろん、本作の第4話ではトウモロコシの芯からダシをとる様子が描かれ、幸に精進料理の手ほどきをする住職・源導は「切った後に出る野菜の皮ならほとんどダシになります」と述べている。そう、ダシにもさまざまな種類があり、料理に合わせて使い分けられているのだ。そしてそれが、「和食は繊細」と評される所以なのだろう。
このようにダシの奥深さを描く本作は、つい先日第3巻が発売に。そして、11月18日(金)には、新刊発売を記念し、「ダシの飲みくらべ会」が開催。作画を担当するかねもりあやみ、世界的な大ヒットマンガ『孤独のグルメ』で知られ、数々の人気作を生み出す原案協力の久住昌之、そして湯島山緑泉寺住職であり、料理僧として料理、食育に取り組む青江覚峰も参加した。今回はそのイベントの様子をお届けする!
ダシの飲み比べ会、スタート!
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会場となったのは、2年前にオープンしたばかりの日本料理屋「浅草 おと」。浅草の観光スポットとしても名高い雷門から徒歩10分ほどに位置し、落ち着いた雰囲気の店だ。
テーブルに並んでいたのは、6つのお猪口。それぞれに薄っすら色づいた液体が入っている。それを前に少し戸惑う参加者たちに、マンガの監修を務める青江覚峰さんは「本日はだしを使った6品の料理を召し上がっていただきますが、その前に6種のダシだけを味わって、なんの食材を使っているかぜひあててください」と発言。
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早速飲んでみると、一様に滋味深い味わいが広がる。昆布や大豆、鰹節などは馴染みがあるため、すぐに正解が飛び出した。しかし、残りの3種類はどうにも難しい……。なんとなく口にしたことはあるはずだけど、答えが出せない。
すると正解は、鶏、アサリ、海苔とのこと。どれも身近な食材だが、答えを教えてもらうまで気づけないのは、いかに普段の食事で素材そのものの味わいを意識していないかが表れているのだろう。
精進料理は「淡い」味こそが真髄
一通りダシを飲みくらべたところで、青江さんがダシと精進料理との関係性について話してくれた。
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「精進料理は無駄を出さない料理です。ダシをとった後の食材も、みじん切りにして料理に使います。そして、料理の基本である『五味』に『淡味』を加えた『六味』が精進料理。この『淡い』とは、現代風に言うと、素材の味を活かす、必要以上に味付けしないということ。そしてその精進料理の考え方が、和食の基礎となっているのです」
無駄を出さず、素材の味を活かす。精進料理のその考え方は、『サチのお寺ごはん』でもしっかり描かれている。第9話では、生ゴミになる野菜の皮で「飛龍頭」というご馳走が作られた。普段は捨ててしまいがちなものにも感謝をし、できるだけ無駄にしない。現代的な生活で忘れがちになることも、精進料理が思い出させてくれる。
6つのダシを使った料理が登場!
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・大豆ダシを使った「煮豆」
大豆でダシをとり、それを使い炊き上げた逸品。第13話に登場し、その素朴な味わいで幸を魅了した。大豆の味がしっかり感じられ、食べごたえも十分。
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・昆布ダシを使った「茄子の揚げ浸し」
第17話に登場。肉厚な茄子に昆布の風味が凝縮され、噛むごとにうま味があふれ出す。とてもジューシーで、とろとろの食感。
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・海苔ダシを使った「木の子の海苔和え」
第8話に登場した、わずか10分ほどでできてしまう簡単料理。木の子と海苔が絶妙にマッチし、アクセントとして加えている柑橘の果汁が爽やかさを演出。
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・カツオダシを使った「飛龍頭」
第9話に登場。みじん切りにした野菜と豆腐、大和芋を合わせ一口大に揚げたもの。外はさっくり、中がふわふわ。野菜のやさしい甘みが感じられる。漫画作中では精進ダシを使用して作られているが、今回は浅草おとのカツオダシを使用。
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・アサリダシを使った「アサリと青菜のお浸し」
江戸前野菜である〈のらぼう菜〉と〈しんとり菜〉を使用。味付けはダシのほか、醤油とみりんでシンプルに。シャキシャキした歯ごたえが絶品。
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・鶏ダシを使った「鶏のお吸い物」と「彼岸寿司」
昼と夜の長さが同じになる「彼岸」に由来し、野菜と魚を同じ量だけ使ったちらし寿司。第12話にも登場。食べ進むにつれ、精進具材と、錦糸卵、マグロ、エビなどが載っていて、彩りも美しい。具材が混ざり合う様が、人の生き方を表している、と青江氏。鶏ダシを使ったお吸い物はみりんと醤油のみで薄く味付けをした臓腑に沁みる味わい。
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料理を味わっていると、「浅草 おと」の料理長が自ら鰹節削りを実践してくれるひとコマも。勢いよく削られた鰹節は香り豊かで、ひとつまみ口に含めば鮮烈な風味が鼻を抜ける。これはレトルトや粉末では感じられない、まさに「本物のうま味」だろう。
近年、そんなダシ文化に魅了される外国人が増えていることも納得。「浅草 おと」オーナーの畑谷芳樹さんはこう教えてくれた。
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「海外の方からすると、鰹節そのものが不思議なもののようです。『この茶色い塊はなんだ?』と不思議がるのです。なかには、削りたての鰹節をまじまじと眺める方もいます」
ダシの話題で盛り上がっていると、著者のかねもりさんのこんなエピソードが飛び出した。
実はかねもりさん、母親が料理上手だったこともあり、自身も相当な料理好き。中学生の頃からいりこダシで味噌汁を作っていたという。その後、グルメマンガを手がけることになり、原案協力の久住さんからアドバイスされたのが「必ず自分でも作ってみること」。
彼曰く、「グルメマンガは食べ物がおいしそうじゃないとダメ。でも、日本のマンガはモノクロだから表現が難しいんです」とのこと。しかし、本作に登場する料理がどれもおいしそうなのは、実際にかねもりさんが作っているからなのだろう。食材を切り、丁寧に下ごしらえをし、調理する。その一連の流れを体験することが、ひとコマひとコマに説得力を生み出すことにつながっているのだ。
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そして最後に久住さんは、日本が誇る食文化について熱く語ってくれた。
「日本人は、箸やフォーク、ナイフとあらゆるカトラリーを駆使してごはんを食べるほど、グルメな国民です。初めてひとり暮らしをする大学生でも、一通りの食器は揃えますよね。それだけみんな食べることに興味があるのですね。
さらに、昨日はラーメン、今日はパスタ、明日は蕎麦と、毎日違うものを食べようとする。『食のバリエーション』というものを重要視しているのです。
和食、洋食、ラーメンとさまざまな料理がどの街でも食べられるから、日本人は食べることが好きだと感じます」
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和食に欠かせないダシの重要性、そして日本人の食文化についても学ぶことができた今回のイベント。参加者はみなサチのように、料理のおいしさにハッとしたり、興味深そうに頷いたりと、新たな発見があったようだ。
ちなみに『サチのお寺ごはん』には、毎回登場する料理のレシピも掲載されている。興味を持った人は、ぜひ自宅で再現してみてほしい。丁寧にダシをとった料理は、きっと体も心も元気にしてくれるはずだ!
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