スープカレーとは、さらさらとしたスープ状のカレー料理で、北海道札幌発祥の名物グルメ。さまざまなスパイスや出汁がきいたカレーのスープに大きめにカットされた野菜や鶏肉などが入っていて、ライスとともに味わう料理です。札幌市内には数多くのスープカレー店があり、店ごとにスープのテイストや具材などがかなり異なり、食べ比べて好みの味を探してみるのもおすすめ!
この記事では、スープカレーとはどんな料理なのか、札幌で人気を得た歴史背景とともに特徴や食べ方などを案内し、札幌のおすすめスープカレー店を紹介します。
札幌のご当地グルメ「スープカレー」とはどんな料理?
札幌のご当地グルメとして有名なスープカレーは、一言で言い表すと、ライス付きのスパイシースープ。日本各地どこでも目にするとろみのあるルーカレーとは作り方が全く異なり、カレー料理というよりスープ料理というほうが正しいかもしれません。
スープカレーのスープには、ぶつ切り野菜や大き目な肉などが入っていることが多いのもスープカレーの特徴です。ひと口で食べられないくらい大きい具材だとしても、多くの場合はフォークやスプーンでスッと切れるくらい軟らかくほぐれるので食べやすいです。
ここからは、さらに詳しくスープカレーについて紹介します。今回、札幌で人気のスープカレー店「らっきょ」の店主であり「カレーのマチさっぽろ推進委員会」の会長も務め、「スープカレー業界の中間管理職」と自称する、井出剛さんにお話を伺いました。
スープカレーにはどんな具材が入っているの?
スープカレーにはさまざまな食材が使用されています。まずは具材から紹介します。
ほぼ間違いなくどのお店のスープカレーにも入っている具材は、野菜。素揚げもしくは煮込んだ野菜がゴロゴロと入っています。スープがメインで野菜が2種類程度のものから、野菜10種以上入ってスープが見えないくらいのものまでお店によってさまざま。お店によっては追加料金で野菜の種類や量を増やすこともできます。
使用されることが多い野菜は、ニンジン、ピーマン、ジャガイモ、ゴボウ、カボチャ、ブロッコリー、ナス、オクラ、レンコン、マイタケ、カブ、トマト、キャベツ、水菜など多々。葉物野菜より根菜類のほうがよく使われています。
野菜だけではなく、チキンレッグや豚角煮、ラムチョップ、有頭エビ、ゆでたまごなど、肉や海鮮類などさまざまな具材も使われます。肉や海鮮類もメニューによって選択できたり追加できたりすることが多いです。
スープカレーのスープにはどんな出汁やスパイスを使うの?
次に、スープの美味しさと味わいを決める、うま味成分を凝縮した出汁やスパイスについて紹介します。
スープの出汁はチキンベースをはじめ、コンソメやトマトベース、エビベースをはじめ、古来の日本料理に使われる和風出汁など、店により使用する出汁はさまざま。複数種類をかけ合わす店もあります。使用するスパイスは一般的に、ターメリック、クミン、コリアンダー、カルダモン、クローブ、ローレル、カイエンペッパーなど。20~30種類ものスパイスを独自にブレンドして使う店も数多くあります。
スープの味わいは提供する店により大きく異なり、「出汁×スパイス」がスープカレーの味の要! うま味をしっかり凝縮したスープにスパイスをほどよくブレンドした出汁メインの店もあれば、控え目なうま味スープに多種多様なスパイスを織り交ぜたスパイスメインの店もあります。うま味の元となる出汁のとり方やスパイスの種類や合わせ方は店ごとに異なります。
スープカレーの料理人はアーティスト!? 調理方法は?
一般的なルーカレーは小麦粉を使ってとろみを出しますし、インドやタイのカレーでは野菜やスパイスを煮込んで水やココナッツミルクなどを足して仕上げることが多いのですが、スープカレーはそのようなカレーとは作り方が全く異なります。
スープカレーの基本的な調理方法は、大鍋に水を入れて鶏ガラや野菜などを煮込んで出汁を作り、出汁に多種多様なスパイスを加えて仕上げていきます。ただ、出汁とスパイスの組み合わせは無限大!出汁とスパイスのアレンジのしかたが料理人の腕の見せどころであり、オリジナリティーが出る部分です。
井出さんは、「スープカレーの料理人は、音楽のアーティストみたいなもの」と言います。スープカレーの料理人の多くは、老舗店や人気店の味にインスパイアされて自分の味を追求して独り立ちします。この姿はまるで、若手のアーティストが好きなバンドの曲を聴きインスパイアされて自分の音楽性を究めてメジャーデビューするかのようです。
好きなアーティストや好みの曲を探すように、スープカレーにハマると店を何軒も訪れて、店ごと、料理人ごとに異なる味わいを食べ比べ・味比べをしたくなるはずです。これぞスープカレーの醍醐味!
スープカレーのおすすめの食べ方は?
日本のカレーライスはごはんの上にカレーをかけて食べますが、スープカレーはごはんの上にスープをかけて食べることはまずありません。基本的にはスープとごはんが別々のお皿で出てくるので、スプーンでごはんをすくい、スープに浸して食べます。具材はスプーンですくって食べたりフォークで刺したりして食べます。大きな具材でも軟らかいためスプーンやフォークで切れたりほぐれたりすることが多いです。
多くのスープカレー店では、オーダーをする時にスープの辛さとごはんの量を選べます。店によってはスープの出汁の種類も選ぶことができます。好みに応じて辛さを調整して調理してくれるので、辛い食べ物が大好物の人も苦手の人も食べやすいはずです。
なお、スープカレーの辛さはルーカレーと比較すると、基本ベースはやや辛口かもしれません。オーダー時に店のメニュー表に辛さの度合いやごはんのグラム数が記されていることが多いので、しっかり確認してからオーダーしましょう。
スープカレーはいつ誕生したの?スープカレーの歴史を探る
札幌でスープカレーの原型が誕生したのは1971年。札幌市内で当時喫茶店だった「アジャンタ」にて、30種以上のスパイスをスープにして提供し始めた「薬膳カリィ」が、札幌のスープカレーの発祥と言われています。登場当時は具がなく、滋養強壮や消化促進などを目的にした漢方料理に近いものでした。
次第に常連客から具を求める声が出始めたため、誕生から数年後にスープの出汁に使用していた鶏肉や野菜などを具に使って提供し始め、今のスープカレーに近いものが完成しました。
1980年代に入ると薬膳カリィと同様のメニューを出す店が増えていき、そのうちの一軒「マジックスパイス」がスープカレーと命名して提供を始めると、札幌市民の間に少しずつ認知されていくようになりました。ただ、この当時はアンダーグラウンドな食べ物というイメージが強く、今ほど誰もが気軽に食べに行くというほどではなかったようです。
井出さんのお話によると、スープカレーの人気が大ブレイクして札幌のソウルフードとして定着したのは2005年頃です。2000年前後からスープカレー店がさらに増え始め、2005年頃にスープカレー店を掲載したクーポン雑誌が街に溢れるようになると、大繁盛店がいくつも誕生したそうです。Google trendのデータによると、2021年以前にインターネットでスープカレーという言葉の検索数が一番多かったのも2005年。この頃、世の中の人たちがスープカレーとはどのようなものなのかと注目していた証でもあります。
なぜ札幌でスープカレーが人気になったの?
昨今は札幌以外の街でもスープカレー店を見かけることが増えましたが、2000年代前半は日本の中でも北海道のみ、中でも札幌で人気を博して店舗が多数増えていました。なぜでしょう?
日本の中でも局地的に札幌でスープカレーが大人気になった理由について、北海道にはさまざまな「汁物文化」があるからではないか、と井出さんは言います。汁物文化とは、鍋料理やスープ料理などを日常的に食す食文化のこと。
札幌や旭川、函館など北海道内各地にご当地ラーメンがあるほか、海沿いの街には「石狩鍋(鮭や野菜などを使った味噌味の鍋)」や「三平汁(さんぺいじる、鮭やタラなどと野菜を煮た塩味の汁もの)」が郷土料理として古くから伝わり、北海道各地では「豚汁(豚肉と野菜を炒めて煮た味噌汁)」が親しまれています。
鍋料理やスープ料理が多々ある土地柄なので、カレー味のスープが登場しても違和感がなくすんなり受け入れられたのかもしれません。
2000年代はじめにブームが起きた後、ブームが去ることはなく安定的に人気が続き、今は札幌のソウルフードの一つとして確立しました。札幌旅行をする際、地元の人たちが好むグルメを楽しみたいと思うのなら、スープカレーは外せません。札幌市内には数えきれないほどのスープカレー店がありどこへ行けばいいか迷うほど。この後は数あるスープカレー店の中でも多くの人たちが集う人気店の一部、4軒紹介します。
1:スープカレーの故郷のような味を楽しめる「札幌 らっきょ」
はじめに紹介する店は「札幌 らっきょ」。先ほど登場頂いた井出さんが経営するお店で、札幌駅からJR函館線で2駅、琴似(ことに)駅の南口から徒歩2分で行くことができます。ここが本店で、支店が札幌市内外に数店あります。
オープンしたのは1999年で、2000年代初頭のスープカレーブームをけん引した人気店のうちの一つです。スープカレー業界のレジェンドと言われている老舗店の作り方やテイストを踏襲しつつ、誰もが食べやすい味わいで日本人好みの味を追求して生まれた、ネオ・クラシックなスープカレーを提供しています。
スープのベースは、玉ネギやトマトなどの野菜をはじめ、鶏ガラや豚骨のほか牛肉も使用。化学調味料を使っていないので素材の美味しさがダイレクトに伝わり、鶏や豚、牛などさまざまなエキスが重なり合って厚みのある味わいを感じます。スープに溶け込んだ玉ネギの甘さでスパイスの美味しさがより引き立ちます。
一番人気があるメニューは、知床どり野菜スープカレー北海道産(1,780円)。ニンジンなど主に北海道産の野菜と、同じく北海道産の知床鶏、ゆで卵がスープの中に入っています。北海道産のお米を使ったライスには小さな海苔が2枚添えられています。食事中のちょっとしたアクセントになります。
スープや具材に極端に際立った特徴を出していないものの、これぞ札幌スープカレーと言えるベーシックで安定感のある美味しさ。ほかの店を何軒も食べ歩いて巡っても、またいつか戻ってきたくなるような、スープカレーの故郷のような店です。
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札幌 らっきょ
- 住所 〒063-0811札幌市西区琴似1条1丁目7-7 カピテーヌ琴似1階
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最寄駅
JR函館線琴似駅徒歩2分
- 電話 011-642-6903
営業時間:
月~日、祝日、祝前日: 11:00~20:00 (料理L.O. 19:30 ドリンクL.O. 19:30)
11:00~19:30(L.O)
休み:第3水曜
2:スープとともに野菜も美味しい「Suage+」
2軒目に紹介する店は、札幌市内の繁華街にある「Suage+(スアゲプラス)」本店。地下鉄南北線・すすきの駅から歩いて約3分で行くことができます。
おすすめのポイントは、スープが美味しいのはもちろん、店名のごとく素揚げした野菜やお肉、さらにライスが絶品なのです。野菜は極力北海道産にこだわり、自社農園で栽培した素材も使用しています。特に注目したいものはジャガイモの希少品種「インカのめざめ」を使った素揚げ。まるでクリのように甘くしっかりとした味わいがあるジャガイモで、濃厚なスープにも負けない味わいです。
ライスも北海道産をメインに、美味しさと栄養バランスを考え、お店で精米した白米と、古代米の一種で赤褐色をした赤米をブレンドしたものを炊いて提供しています。
「Suage+」のスープは、ベーシックな「すあげスープ」とイカ墨ベースの「イカ黒」、エビスープ「エビ赤」の3種類から選べます。
スープは、タマネギを中心としたトマトやニンジンなど野菜を鶏ガラスープで煮込み、オリジナルのスパイスを入れて一晩寝かしています。すあげスープは一晩寝かしたスープをそのまま使用しているので、タマネギなど野菜の食感や風味を感じ、野菜の甘さを楽しめる味わい。イカ黒は、すあげスープにイカ墨を加えてさらっとした口あたりながらコクとうま味を追求したスープ。エビ赤は濃厚なエビエキスを加え、エビの強いうま味とコクを感じられる味わいです。
3種類あるスープはどれも絶品! 初回はすあげスープを、2回目以降は別のスープをオーダーして食べ比べしてみましょう。なお、札幌市内や東京都内には支店が複数ありますが、すあげスープ以外は支店によりスープの種類が異なるので、さらに食べ比べしたい方は各支店を訪れてみてはいかがでしょうか?
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Suage+
- 住所 〒064-0804 札幌市中央区南4条西5丁目 都志松ビル2階
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最寄駅
地下鉄南北線すすきの駅から徒歩3分
- 電話 011-233-2911
時間:平日11:30~21:30(L.O.21:00)、土11:00~22:00(L.O.21:30)、日祝11:00~21:30(L.O.21:00)
休み:なし
3:行列の絶えない人気店「GARAKU」で和風ダシを体感
札幌にはスープカレーの人気店は多々ありますが、なかでも次に紹介する「GARAKU」はオープン前から長蛇の列ができる話題の店で、並ぶ覚悟をしても訪れたいです。本店は札幌の街中にあり、地下鉄各線の大通駅や南北線のすすきの駅から歩いて3~5分で行くことができます。支店は北海道内や東京都内のほか、タイのバンコクにもあります。
GARAKUの人気の秘訣は、独創的なスープの美味しさ。豚肉や鶏肉、香味野菜などをじっくり煮出したブイヨンに、カツオやサバなどの節(干物)から抽出した和風ダシを合わせ、21種類のスパイスを配合しています。カレーの味わいがありながらも日本料理らしさを感じる、オリジナリティー溢れる味わいです。
GARAKUで人気No.1のカレーは「とろとろ炙り焙煎角煮」。柔らかく煮込んだ自家製の豚角煮を使用し、備長炭の炭火で炙って香ばしく仕上げています。毎日提供されているものの売切れ次第販売終了なので、食べられるか否かは運次第。並ぶ覚悟でオープン早々の時間へ行ってみる価値はありますよ。
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GARAKU
- 住所 〒060-0062 札幌市中央区南2条西2丁目6-1 おくむらビル地下1階(北側入口)
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最寄駅
地下鉄各線大通駅から徒歩3分
- 電話 011-233-5568
時間:11:30~15:30(L.O.15:00)、17:00~21:00(L.O.20:30)※スープなくなり次第終了
休み:不定
4:「TREASURE」でGARAKUの進化系スープを味わう
「TREASURE」は「GARAKU」の姉妹店で、両店は歩いて2~3分で移動できます。同じ系列といえども、店の雰囲気もスープの味わいも異なります。
TREASUREのスープは、GARAKUのスープをベースにアレンジし、お店独自に作った醤「秘伝醤」を合わせたもの。醤とは肉や魚などを塩などに漬けて発酵させた醤油の一種で肉醤や魚醤とも言い、TREASUREでは豚ひき肉をベースにしたオリジナルの肉醤を使用しています。カレーの味わいがありつつも、舌の上にじわじわと和風テイストを感じられるスープで、他のスープカレー店にはない独創的な味がやみつきに!
一番人気があるメニューは、「サクッと揚げレッグ」。具材の主役は、軟らかく煮込んだチキンレッグに衣をつけてサクサクに揚げた骨付きチキン。サクッとした衣がスープに浸されるとしんなりとして食べやすく、中の鶏肉はふっくらしていてジューシーで食べ応えもあります。お肉や野菜とともに、スープの味わいもじっくり楽しみましょう。スープを舌の上で転がすようにゆっくり味わうと、スープに溶け込む奥深い味わいを感じられますよ。
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TREASURE
- 住所 〒060-0062 札幌市中央区南2条西1丁目8-2 アスカビル1F
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最寄駅
地下鉄各線大通駅から徒歩3分
- 電話 011-233-5568
時間:11:30~15:30(L.O.15:00)、17:00~21:00(L.O.20:30)
休み:不定
札幌市民ならほとんどの人が食べたことがあると言えるほどのソウルフード。最近は札幌のみならず日本各地へと人気が広まり、札幌以外でもスープカレー店をたまに目にするようになりました。札幌には数えきれないほどのスープカレー店があり、それぞれの店主がアーティストのごとく趣向を凝らした味を編み出し、提供しています。ぜひ、何軒も食べ歩きをして好みの味を見つけてみてください!
Text by:川島 暢華
※本記事は2021年12月時点の情報を2023年8月に更新しています。最新の情報は公式サイト等でご確認ください。
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