道南エリアの魅力は、北海道の中では気候が温暖で、海産物などのグルメが豊富なこと。実はこの魅力、なんと1万年以上も昔から続いているものなのだとか。この地域からは縄文時代の遺跡が多く見つかり、中でも函館市の南茅部エリアでは、世界遺産に登録された史跡や、国宝に指定された出土品を見ることができます。
そこで今回の記事では、全道各地の取材経験豊富な北海道在住のライターが、自然と共に生きた縄文人の暮らしを学べるスポットを巡る、南茅部エリアの旅プランをご紹介します。
世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」 とは?
世界自然遺産の知床をはじめ、豊かな自然を誇る北海道。その自然の恵みの中、人々は約1万年以上も前から、漁労・狩猟・採集を基盤とした定住生活を行ってきたことが、さまざまな史跡から明らかになっています。青森県の三内丸山遺跡や秋田県の大湯環状列石など、北東北3県の縄文遺跡群と合わせて、合計17の縄文遺跡群が2021年7月27日に世界遺産に登録されました。
函館市の北東部に位置する南茅部エリアには、世界遺産に指定された2つの史跡があります。温暖で降雪量が少なく、海の幸・山の幸が豊富に得られるこの地で、縄文時代早期〜晩期までの何千年もの間、人々が定住生活をしていた。そのことを、これらの史跡は今に伝えています。史跡は開放されているので自由に見学できます。このほか、函館市の貴重な出土品を見て、縄文時代の歴史や文化を学ぶことのできる施設が南茅部にあります。
南茅部エリアへのアクセス
- 【車】
約60分(道道83号経由)
※函館空港からは約35分 - 【公共交通機関】
バス:函館駅前から函館バス99系統乗車で約75分、南茅部支所前下車
- 【車】
札幌市内から約4時間30分(札樽自動車道・道央自動車道経由、森ICから国道278号経由)
約1500年にわたる定住集落の跡「大船遺跡」を見る
南茅部エリアで世界遺産に登録された史跡の一つが「大船遺跡」です。海岸段丘の上で見つかった約7.2haの遺跡で、紀元前3500年〜2000年に継続して集落が営まれた跡を見ることができます。
周囲は豊かな海と森に囲まれ、サケが遡上する大舟川が近くを流れるなど、当時の暮らしを想像させる自然環境が残っています。大船遺跡は発掘後に史跡として整備されており、自由に見学することが可能です。
車で訪れる場合、駐車場の入口はバス通りである国道278号側ではなく、裏側の国道278号尾札部道路側にあるので注意しましょう。
駐車場から階段を降りていくと、緑の中に園路が整備された「縄文の森」ゾーンがあります。かつて、大船遺跡の周りには、縄文時代に北海道に持ち込まれたクリなどの落葉広葉樹が多く生えていたそう。その植生の復元を目指して、市民による植樹が進められています。
森の中は鳥や虫の鳴き声のみが聞こえ、とても静かで癒やされる場所です。植えられた木々には二次元バーコード付きの名札がつけられており、スマートフォン等で読み込むと植物の詳しい情報を知ることができます。
大船遺跡の見どころ①「縄文のにわ」
縄文の森ゾーンの南側に広がるのが、復元された竪穴建物のある「縄文のにわ」エリアです。完全復元された建物が1つ、建物の骨組を復元したものが2つあり、当時の集落の様子が垣間見えます。展示に添えられた説明には英語も併記されています。
完全復元された竪穴建物の中は、入口から見ることができます。祭壇や炉の跡など、当時の暮らしを思わせる設備も復元されています。
上記の他に、建物なしで復元された竪穴も3つあります。大船遺跡の特徴は、竪穴が深いこと。深さが2mを超えるものもあり、のぞきこむと、その規模がよくわかります。
なお、大船遺跡では100軒以上もの住居跡が発見されています。中には、発見位置が重なっている竪穴もいくつか存在します。これは1500年にわたり人々が定住生活を行う中で、何度も同じ場所に建物が建てられた証なのです。
大船遺跡をさらに深く知るために
縄文の森・縄文のにわゾーンの中間には、管理棟があります。毎日2回、管理スタッフによる遺跡ガイド(日本語のみ)を受けることができます。管理棟の中には展示と、休憩スペースもあるので、散策に疲れた時には足を休めることもできます。
管理棟の横に積まれているのは、遺跡から出土した石皿。縄文時代はこの上で石を使って、木の実や肉をすりつぶしたそう。この数からも、長年にわたってたくさんの人々がここで生活をしていたことが感じられます。
管理棟の中の展示コーナーで、遺跡の発掘の様子や、遺跡の発掘当時のジオラマなどを見学して理解を深めましょう!
史跡内は30〜40分程度で見学することができます。晴れた日には、遺跡の向こう側に太平洋をのぞむことができます。縄文人も眺めたであろう、高台からの美しい風景みつめながらゆったり散策するのもおすすめです。
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大船遺跡
- 住所 〒041-1622 北海道函館市大船町575-1
電話番号:0138-25-2030(函館市縄文文化交流センター) 営業時間:4〜10月9:00〜17:00、11〜3月9:00〜16:00 料金:無料 定休日:12月29日〜1月3日、その他臨時休場あり
体験を交えて学びを深められる「函館市縄文文化交流センター」
大船遺跡や、北海道の縄文文化をより深く知ることのできる施設が、南茅部エリアにはあります。大船遺跡から南へ、尾札部道路を約6分ドライブすると着く「函館市縄文文化交流センター」です。
見どころ①歴史の流れを学べる「展示室1」
建物2階に当たるエントランスから入館し、すぐ近くの「展示室1」では、世界と日本、北海道そして函館の、旧石器時代から古代の文化の流れを見ることができます。
大船遺跡は約3500年前〜2000年前の遺跡ですが、函館市では約9900年前から各時代の出土品が見つかっているそう。中には北東北の遺跡の出土品とよく似た物も見つかっており、太古の昔から津軽海峡を渡った交流があったことがうかがえるそうです。
展示には、理解を深める追加情報が見られる引き出しがついていたり、メイン展示とは別の場面がのぞき穴で見られたりと、楽しい工夫が随所に凝らされています。説明文など館内展示のほとんどは日英併記になっています。
見どころ②縄文人の知恵や手仕事に感嘆する「展示室2/3」
階段を降りて1階に降りると、函館市内の出土品を中心に、縄文人の生活について展示した「展示室2」があります。メインの展示ケースは、縄文人の生活を支える活動だった「漁労」「狩猟」「採集」の3つのテーマで展示物が分けられています。
使われた道具や食べ物の出土品などから、どのように縄文人の活動が行われていたか想像がふくらむ展示となっています。
展示室2に入ってすぐの壁面には、函館市内で出土した縄文土器が年代順に並べられています。シンプルな形だった土器に、持ち手や注ぎ口など用途に合わせた加工が加わって多様な土器が生まれていったことがわかります。
狩猟に使われた石の矢じり。石を割って加工した矢じりを、形や大きさごとにきれいに並べた圧巻の展示です。
「漁労」のコーナーでは、貝塚から出土した貝殻や魚の骨が、種類ごとに細かく分けて展示されていました。中にはイワシの骨など、ぱっと見は砂との区別がつかないような細かい物も。見分ける専門家の眼力に驚かされます!
続く「展示室3」は、縄文人の精神に触れられる出土品を展示したゾーンです。
子どもの足形を粘土板に写し取った「足形付土板」もあります。吊るして飾るためと思われる穴があったり、子どもの親と思われる人の埋葬品となっていたことがわかっていますが、用途や作られた背景はまだ研究中で、定かではありません。しかし、縄文人の循環・再生を信じる心が伝わってくるように感じました。
見どころ③国宝が見られる「展示室4」
最後のゾーンである「展示室4」には、2007年に国宝に指定された中空土偶”茅空(かっくう)”が展示されています。
南茅部エリアの住宅の家庭菜園から見つかったこの土偶は、縄文時代後期後半(約3500年前)の墓からの出土品です。「中空」という名の通り中は空洞です。頭部から脚先まで薄く精巧につくられ、文様も美しく、当時の高い技術力が感じられる一品です。
ちなみにこの“茅空”、中がすべて空洞であることを調べるために、函館市の病院でCTスキャンを撮ったそう。日本では、医療機器は人にしか使ってはいけない決まりがあるため、“茅空”を患者登録して診察券を発行したというユニークな逸話も残っています。
見どころ④土器づくりにチャレンジ!
一通り展示を見た後は、2階に戻って「体験学習室」へ。ここでは事前予約なし(※注)で、「縄文ペンダントづくり」や「組みひもアクセサリー」などのものづくり体験、100円〜という気軽な価格でできます。
この日は、「ミニチュア土器づくり」(350円)にチャレンジ!
※6名以上のグループは要事前連絡。また、日によって内容変更や中止となるプログラムもあるので、確実に体験したい場合は事前に問い合わせを。
まずは見本の中から、参考にするミニチュア土器を選びます。今回はこちらの尖った飾りがアクセントになったデザインを選びました。ただし、あくまで参考であって、デザインは自由。作りたい形で作ってOKです!
見本を前に置いて席に着くと、粘土と作業板、水の入ったトレーが置かれていました。粘土を6等分するところから作業開始。そのうち1つを、水につけてから軟らかくこねて、丸い底の部分を作ります。
続いて、側面になる部分を作ります。粘土の一かけを同じように水を加えてこね、細長く伸ばしてから筒状にして底に重ねていきます。粘土が乾かないうちに、つなぎ目の部分の粘土を指で伸ばして隙間を埋めていきます。「後ほど焼いて仕上げる場合は、隙間があると割れやすくなるので、頑張ってきれいに埋めましょう!」とスタッフの方の指導が。軟らかく加工しやすい粘土なので、優しくなでるようにするだけで簡単に隙間を埋められます。
側面づくりの作業を4回繰り返します。だんだんと土器らしい形になってきました!
最後の一かたまりを5等分して、尖った飾りの部分を作ります。
形ができたら、最後に飾り付けです。ひもを転がして縄目をつけたり、穴の開いた棒で丸い模様をつけたり、キリで自由な模様を描いたり。見本通りにするもよし、心のおもむくままに描くもよし。所要時間の目安は60分程度ですが、早い人はもっと短時間で仕上げることもあるそう。
完成した土器は持ち帰ることができます。まだ軟らかいので、持ち帰りの際はつぶれないよう箱に入れてくれます。直射日光に当てずに2〜3日乾かせば固まりますが、家庭用オーブンで焼くとより本格的な土器に仕上げることができます。
「ものづくりは苦手……」という方は、ミュージアムショップでミニ土器をお土産に購入することもできます。ペンを動かすと“茅空”が浮かんで出てくるフローティングボールペンなどの楽しいオリジナルグッズも人気です。
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函館市縄文文化交流センター
- 住所 〒041-1613 北海道函館市臼尻町551-1
- 電話 0138-25-2030
営業時間:4月1日〜10月31日9:00〜17:00、11月1日〜3月31日9:00〜16:30 料金:一般300円、学生・生徒・児童150円、未就学児無料 定休日:月(祝日の場合は最も近い平日)、毎月最終金(館内整理日)、12月29日〜1月3日、その他特別整理期間(年1回・2週間程度)あり
隣接の道の駅でショッピングしよう
センターの見学後に必ず訪れたいのが、隣接した「道の駅 縄文ロマン南かやべ」。館内直通の通路で行くことができます。ここでは南茅部産の質の高い昆布やその加工品など、特産品を購入することができ、お土産ショッピングに便利です。
人気の高いお土産は、縄文や土偶をイメージしたお菓子です。和菓子の最中の皮にクッキー生地を詰めた「モナスク 中空土偶茅空」が一番人気。サクサクと軽い食感に、抹茶と南茅部特産のガゴメ昆布を合わせたフレーバーが上品に広がり、食べる手が止まらなくなりそう。
ソフトクリームなどのテイクアウトスイーツもあります。「じょうもんクルミソフト」は、縄文人がよく食べていたとされるクルミを使用した名物。味はまろやかながらも濃厚なフレーバーで、トッピングされたクルミのパウダーの香りがアクセントになって、一つで大きな満足感が得られます。提供は3月中旬〜11月中旬までになります。
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道の駅 縄文ロマン南かやべ
- 住所 〒041-1613 北海道函館市臼尻町551-1
- 電話 0138-25-2030
営業時間:4〜10月9:00〜17:00、11〜3月9:00〜16:30 ※トイレは24時間利用可能 料金:無料 定休日:月(祝日の場合は最も近い平日)、12月29日〜1月3日、その他臨時休館あり
もう一つの世界遺産「垣ノ島遺跡」
道の駅の隣には、世界遺産に登録されたもう一つの遺跡「垣ノ島遺跡」のゲートがあります。9000年〜3000年前の6000年もの長期の定住の跡が見つかったこの遺跡は、大船遺跡とは異なり、保存のために発掘作業は一部に留められています。
園内には遊歩道が整備されており、スマートフォンやタブレット端末を通してAR・VRのコンテンツを楽しむことができます。史跡内はWi-Fiが整備されており、デジタルコンテンツ対応のタブレットをゲート付近にある垣ノ島遺跡案内窓口施設でレンタルすることもできます。
太古から愛される地・南茅部を満喫しよう
南茅部エリアは、約1万年前からずっと人が住み続けた場所であることが、2つの遺跡と縄文文化交流センターから学べます。また、現地を訪れてみて感じたのが、太古から選ばれ続けるくらい、豊かな自然環境が魅力的な場所であるということ。遠浅の海では昆布がよく育ち、近くで揚がる海鮮も絶品。エリア内には寿司店などもあるので、見学の合間に訪れてみるのもいいでしょう。のんびりとした漁村の風景に癒やされながら、太古のロマンに思いを馳せてみてください。
撮影=宮澤修一 原稿・編集=みんなのことば舎
札幌の地元タウン誌の編集に長年携わった編集者が設立。設立以降、20年以上にわたり、札幌を中心に北海道全域での取材・記事執筆を行い、観光ガイドや情報誌、北海道の景色を収めた写真集など多様な本も制作。スタッフは全員女性で、旅好き、スイーツ好き、お酒好きと趣向は様々。飲食店紹介からイベントレポート、レジャー体験記まで、発信の守備範囲は広い。
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