日本人が日常的に目にする食べものには、一見同じように見えるのに、違う名前がついているものがたくさんあります。たとえば「唐揚げ」と「竜田揚げ」の違いや、「からし」と「マスタード」の違い。その差を明確に説明できる人って、意外と少ないのでは?
そんな“○○と△△の違い”について、これまで「日本の定番料理編」、「食材編」、「調味料編」、「お酒編」と続けてお届けしてきましたが、今回は「パン」をテーマに調査! JPCA認定パンコーディネーターの資格を持ち、SNSでは様々なパン屋さんのパンを紹介している遠山はるなさんにお話を聞いてみました。
■「パン」と「ブレッド」、「トースト」の違い
漢字、ひらがな、カタカナによって成り立つ日本語。外来語もカタカナ表記でどんどん取り入れてしまいます。日本の食卓でもおなじみになった「パン」ですが、ちょっとおしゃれに「ブレッド」と言ってみたり、「トースト」と言ってみたり、様々な呼び方をします。
「お米」や「ごはん」に対して、大きなくくりで「パン」という呼称を使っている印象ですが、「ブレッド」や「トースト」との違いって、どこにあるのでしょうか?
「パンという言葉は16世紀に伝来したポルトガル語の“パオ”から来ており、語源はラテン語の“パニス”という言葉です。語源の違いによって呼び方が変わってくるんです。パンはラテン語であり、一方のブレッドは、ゲルマン語の“ブランドス”からきています」
つまり呼び方が違うだけ。小麦粉などの穀類の粉に、水分や様々な材料を混ぜこねて焼いて作る、同じ食べもののことを指しています。見た目が同じなのも当然ですね!
「また、“トースト”は食パンをカットして焼いたものですので、パンの種類ではなくパンの調理方法になります」とのこと。朝食の定番になって久しい「トースト」ですが、確かに、焼いたパンにした使わない呼び方ですね。
■「バゲット」と「バタール」、「カンパーニュ」の違い
フランスパンとしておなじみの「バゲット」。ベーカリーでは、「バタール」や「カンパーニュ」などの似たパンも売られています。一見すると長さに少々違いがありそうですが、どれも同じように、皮が硬いフランスパンという印象を抱きます。どこに違いがあるのでしょうか?
「バゲット、バタール、カンパーニュは、どれもフランスのパンの種類です。バゲットは “杖”や“棒”といった意味があります。生地重量は350gで長さは68cmというように、細かい指定がされています。バタールは“中間”という意味があり、生地重量は350gで長さは40cmという指定があります」
やはり「バゲット」と「バタール」は長さに違いがある様子。明確な指定がされているのには、フランス統治の歴史も関わっているそう。また、「バタール」と聞くとバターたっぷりのイメージがわきますが、フランスパンにはバターや砂糖、卵は使われていません。小麦粉、水、塩、酵母のみで作られるため、材料の配合や形によって色々と名前が変わるようです。
「一方のカンパーニュは、正式名称を“パン ド カンパーニュ”と言います。これはフランス語で“田舎パン”という意味。大きな型の食事系パンで、歯ごたえがあり、香ばしいのが特徴です」
シンプルな素材で作られたフランスパンは、他にも何種類も存在しています。皮の硬さや生地のモチモチ感にも違いがあるので、好みや合わせる料理によって選ぶのが良さそうです。
■「クロワッサン」と「バターロール」の違い
相性抜群のバターを使用したパンの代表格といえば、「クロワッサン」と「バターロール」。こちらは見た目にも違いがありますが、その差を明確に説明するとなると、意外と難しいのでは? その大きな違いは、作り方にあるようです。
「クロワッサンはフランス語で“三日月”という意味があります。生地にバターを何層も練りこんでいるので、サクサクした食感が特長的ですが、もともとは三日月の形だけで、バターもたっぷりでなければサクサクでもなかったと言われています」
ちなみにフランスでは、バターを使った「クロワッサン」は菱形、マーガリンを使ったものは三日月型にすることで区別して、販売しているお店も多いそうです。
「一方のバターロールは、ロールパンにバターを巻き込んで作られます。クロワッサンとの違いは、バターを何層にも練りこんでいるか、巻き込んでいるかに違いがあります」
層になっているためサクサクするぶん、表面がぽろぽろと崩れやすい「クロワッサン」に比べて、バターが巻き込まれている「ロールパン」は表面もべとつかず、ふっくらとした食感で食べやすいのも特徴です。バターの風味や食感で好みが分かれそうですね。
■「ピタパン」と「チャパティ」、「トルティーヤ」の違い
近年では「タコス」の人気が上昇し、専門店も多く出店しています。「タコス」は薄い生地の「トルティーヤ」に具材を巻いて食べる料理ですが、似たような食べものとして「ピタパン」や「チャパティ」が思い浮かびます。それぞれ平たい生地に具材がはさまれているイメージですが、その違いって何なのでしょう?
「ピタパンは中近東(イスラエル・レバノン・シリアなど)で食べられているパンで、チャパティはインドのパン、トルティーヤはメキシコ発祥です。チャパティはナンと同様、カレーと一緒に食べることが多く、家庭で食べる無発酵パンです。
トルティーヤとピタはそれぞれ何かを挟むのが特徴的です。トルティーヤはトウモロコシ粉を使った無発酵パン。主食として、肉や魚、豆料理を巻いて食べます。ピタは中が空洞になっている袋型のパンで、中にいろいろなものを入れてサンドウィッチとして普及しています」
「チャパティ」と「トルティーヤ」が無発酵パンなのに対して、「ピタパン」は発酵する平型パン。似ているように見えて、発祥国をはじめ、原料や造り方、食べ方にそれぞれ違いがあるようです。
■「角型食パン」と「山型食パン」の違い
日本でも朝食の定番になって久しい食パン。ベーカリーではもちろん、様々なメーカーのものがスーパーなどでも手軽に購入できますが、四角い食パンと、山型の食パンのどちらも見かけます。山型のほうが手で2つに割りやすいな……くらいにしか思っていませんでしたが、その違いって何なのでしょうか?
「先にできたのは山型食パン。18~19世紀ごろにイギリスで発祥しました。別名“イギリスパン”とも呼ばれていて、ブリキ製の箱に入れて焼きます。一方の角型食パンは、焼く際に蓋をする製法で、アメリカで発祥したものです」
イギリスで発祥した「山型食パン」が、アメリカにわたって「角型食パン」に進化したとのこと。
「角型食パン」は、焼き上がったパンの形がシカゴの車両会社プルマンの客車に似ていることから、アメリカでは「プルマン・ブレッド」とも呼ばれているのだとか。工場で量産するために蓋をする製法になったと言われており、使われる原料も進化していったそうです。
■「ふわふわのパン」と「硬いパン」の違い
パンには様々な種類や名前がありますが、食感という点でも、気になる違いがあります。「ふわふわのパン」と「硬いパン」の差って、いったいどこから生まれるのでしょうか?
「パンを作る際には、基本材料と言われるものがあります。小麦、水、酵母、塩の4点は必要最低限のものです。これに、副材料である糖、油脂、乳製品、卵などを加えることによって、パンの食感を変えることができます。
いわゆる“ふわふわのパン”というのは、この副材料を使ったもの。その中でも油脂は、パンをソフトな食感にしてくれるので、“ふわふわのパン”には油脂がたくさん使われています。また、硬いパンというのは、バゲットやカンパーニュのように、シンプルな基本材料でゆっくり発酵させて作るものです」
つまり、フランスパンの皮が硬いのは、基本材料のみを使ってシンプルに作られているから。様々な食感のパンは、原材料によって生み出されているようです。
編集・ライター歴トータル17年以上。マンガ、小説、雑誌等の編集を経てフリーライターに転向後、グルメ、観光、ドラマレビューを中心に取材・執筆の傍ら、飲食企業のWEB戦略コンサルティングも行う。そのため、日本グルメの新商品やトレンドのキャッチアップが早く、LIVE JAPANでは幅広い年齢層や国籍の方にわかりやすく伝えている。
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