みなさんは、『エシレバター』をご存知でしょうか?バター好きの人たちを中心に人気を集めているA.O.P.認定(※)のフランス産発酵バターです。発酵バターとは、バターを作る過程で原料となるクリームを乳酸発酵させて作るバターのこと。このひと手間を加えることで、コクが深まり風味が増すといわれています。紀元前ともいわれている程深い歴史を持つバター。その発祥の地であるヨーロッパでは、当時技術が未熟だったために自然と発酵が進んでしまい、発酵バターが主流になったといわれています。因みに、日本では技術が発達した後にバターが輸入されるようになったため、非発酵バターが定着して広まったようですよ。
今回ご紹介するのは、そんな発酵バターの中にあってフランスでも特別な存在感を放つ『エシレバター』です。エシレバターの専門店『エシレ・メゾン デュ ブール』では、人気の焼き菓子やその秘密、そこに込められている想いを聞いてきました。また、エシレバターそのものの魅力に迫るために、バターを使ったアレンジレシピにも挑戦しました。そこから見えてきた、エシレバターの真の魅力とは…!
(※)EUがその土地の伝統的な農産品の保護を目的として、製造地域や原料、製造工程などの規定を満たした商品にのみ付与する認証
世界初のエシレバター専門店『エシレ・メゾン デュ ブール』
まず訪れたのは、丸の内ブリックスクエアの一角にある、世界初のエシレバター専門店『エシレ・メゾン デュブール』です。「ここなら知っている!」という人も多いのではないでしょうか。2009年にオープンして以来、エシレバターはもちろんのこと、バターを使った焼き菓子や生菓子が評判を呼び、連日多くのお客さんで賑わっています。人気の商品は、なんと午前中には完売してしまうのだとか!取材に訪れた日も、平日にもかかわらず開店一時間前には多くの人がお店の前に列をなしていました。
店内へ入ると、そこはバターの優しい香りと焼き菓子の香ばしい香りに包まれていました。焼きたてのクロワッサン、フィナンシェやマドレーヌがオーブンから取り出され、次々と店内に並べられていきます。意外に思う人も多いようですが、これらは店内で焼き上げられているのです。
人気No.1商品の驚くべき正体とは…!
そんな焼き菓子を前にしながら、エシレバターの輸入及び店舗運営を行っている『片岡物産株式会社』の古川智久(ふるかわともひさ)さんにお話を伺いました。
—よろしくお願いいたします。
まずは、一番人気の商品について教えていただけますか?
「やはり、クロワッサンですね。朝一回しか焼かないこともあり、いつもお昼頃には完売してしまいます」
—フランスのクロワッサンは、日本のものに比べてあっさりとしていて食べやすいと聞きます。人気の理由はその辺りにあるのでしょうか?
「そうですね…。当店では、3種類のクロワッサンをご用意しています。フランスの伝統的なレシピに基づいて作られているのが、『トラディシオン』です。今仰った通り、サクサクとした食感と程よいバターの香りが楽しめる、いわゆるフランスの一般的なクロワッサンです。でも、よりエシレ感を味わっていただくには…」と紹介されたのが、驚きのクロワッサンでした!
滴り落ちるようなバターと溢れんばかりの香りが広がるクロワッサン
トラディシオンの手前に並べられていた2種類のクロワッサン『50%ブール(有塩・食塩不使用)』です。
「エシレバターを感じていただくために開発したレシピで、特に香りを楽しんでいただくために、生地も含めて原材料の半分にエシレバターを使っています。温めるとバターがジュワーっと出てきて、しっとりとした感じになりますよ」
正に、その古川さんの言葉を筆者が体感したのは、自宅のトースターで温めた後でした。「これぞ、50%の威力!」の如く、バターが内側から滴り落ちるように出てきたのです。食べてみると生地全体にバターが浸透していて、確かにしっとりとした食感のクロワッサンになっていました。溢れんばかりの香りが、口の中に広がったのは言うまでもありません!
「エシレバターを感じてもらうために開発したものの、当初はそこまで期待はしていませんでした。やはり、トラディシオンをお買い求めになる方が多いのかなぁと…。でも、バターが本当に好きなお客様が買い求めに来てくださるので、今では分け隔てなく人気がありますね」
確かに好みは分かれそうなところですが、香りと食感でエシレバターを存分に感じられる『50%ブール』は、バター好きの人には癖になる味わいなのでしょう!トラディシオンも含め、クロワッサンが人気No.1に君臨するのも納得です。
大判の焼き菓子に込められている、『フランスの伝統文化』とは?
筆者が前々から気になっていた焼き菓子ついても聞いてみました。顔がすっぽりと収まってしまいそうな大判の焼き菓子。一見、「飾り物?」とも思ってしまいそうですが…。
—このサイズ感に思わず目を奪われてしまうのですが、実際に食べるものなんですよね?
「はい。『ブロワイエ・デュ・ポワトゥー』は、エシレ村があるポワトゥー・シャラント地方に伝わる焼き菓子です。パーティーなどで人が集まる時に、この大判の焼き菓子を真ん中から砕いて、みんなで割って食べる習慣があるんです」
なるほど!みんなで食べるのなら納得のサイズです。因みに、「ブロワイエ=砕く」という意味なのだそう。フランスではこれからの季節、アパルトマンの中庭などに人々が集い、ワインを片手に食事会が開催されることも多いと聞きます。そんな場で、子供たちも一緒に歓声をあげながら、この焼き菓子を砕く光景が目に浮かぶようです。さすがはお菓子の国、フランスらしい発想ですよね。
さらに、古川さんは「このような文化を日本にも広めていきたいと思っています」と話してくれました。その視線の先にあったのは、先述の焼き菓子に負けず劣らずの存在感を放つ大きなマドレーヌ『マドレーヌ・ア・パルタジェ』でした。
日本にも広めたい文化…「家族や友人が集う機会に食べてもらいたい」
「ゴールデンウィークや夏休み、年末年始などには普段別々に住んでいる家族が一堂に会したり、友人と久々に集まったりする機会があると思います。そんな時に、このマドレーヌをみんなでわいわい言いながら分け合って食べる文化が日本にも広まったら…。そんな想いで、昨年から販売を始めました」
店内には、大きなマドレーヌを作る巨大な型もディスプレイされていました。
「一瞬、何かと思いますよね(笑)マドレーヌを焼く型なんですよ。『こんな大きな型で焼いているんですよ』というストーリーと共に、このマドレーヌを広めていけたらいいなと思っています」
古川さんにお話を伺って感じたのは、エシレの焼き菓子には作り手の強いこだわりと深い想いが詰まっていることです。エシレの焼き菓子が多くの人を魅了する理由は、味はもちろんのこと、そういったストーリーが背景にあるからこそではないでしょうか。
さて、ここからはもう一歩踏み込んで、『エシレバター』そのものの魅力に迫っていきたいと思います。バターを使ったアレンジレシピは必見ですよ!
『豊かな土壌』と『昔ながらの製法』が生み出す、エシレバター
エシレバターはその名の通り、フランスの中西部 大西洋に面するポワトゥー・シャラント地方にある『エシレ村』で作られているバターです。3000人程の小さな村ですが、その温暖な気候によって育まれる土壌を生かしながら、昔ながらの製法を守り続けることで、『芳醇な香り』と『まろやかな口溶け』が特徴のバターを生み出しています。
豊かな牧草を食べている乳牛からは、バターに適した乳脂肪分の多いミルクが搾乳されます。また、「エシレ」ならではの最大の特徴は、木製のチャーン(攪拌機)を使っていることだといわれています。ステンレス製のチャーンが一般的な現代にあって、木製のチャーンは滑らかな食感のバターを生み出すのです。
まずは、その真相を突き詰めるべく、思い切ってバターそのものを味わってみることにしました。一般的な日本の非発酵バターとの食べ比べです。
バターだけでも食べられてしまう程の口馴染みの良さ!
バターそのものを食べることは普段しないので、少々抵抗がありました…。実際、日本製のバターを口に入れた時は「ちょっときついな…」というのが正直な感想でした。
しかし、エシレバターは少し違っていました。口に入れた瞬間、すーっと溶けて馴染んでいったのです。思いの外あっさりとしていて、少量であればバターだけでも食べられてしまう程の口馴染みの良さを感じました。さらに、少し酸味のある香りが口の中にふんわりと広がります。乳酸発酵させているバターならではの風味なのでしょう。
口馴染みの良さと同様に、焼きたてのトーストに塗ると見る見るうちに溶けてあっという間にその姿を消してしまいます。一見相反しているようですが、『あっさりとしているのに、まろやかな味わい』という表現がシックリくるように感じました。
エシレバターの新たな魅力を発見!3種類の『アレンジバター』を作ってみた!
続いて挑戦したのは、アレンジバターです。WEBサイト(http://www.kataoka.com/echire/recipe/butter.html)で紹介されているレシピと古川さんのお話を参考に、自分流にアレンジしながら3種類のバターを作ってみました。作る前は、バターが全面に出てしまうのではという懸念がありました。しかし、結果的にエシレバターの万能さを見せつけられることに…!
●オードブルにおすすめの『サーモンバター』
見た目にもきれいな『サーモンバター』は、パーティの時などのオードブルにぴったりの一品です。食べてみて驚くのは、「バターはどこへやら?」と思うほどに、見事に引き立て役に徹していることです。バターは、スモークサーモンの塩気とレモン汁の酸味を調和する役割を担い、まろやかで優しい味わいに仕立てています。スモークサーモンとレモン汁で味はしっかりと付いているので、プレーンのクラッカーにのせて食べるのがおすすめです。
<材料>
エシレバター:30g
スモーク サーモン:20g
レモン汁:レモン1/2個
コショウ:少々
バジル:少々
<作り方>
あらかじめクリーム状に溶かしておいたエシレバターに、お好みの大きさにスライスしたサーモンと、たっぷりのレモン汁を混ぜ合わせます。バジルを少々加えると、彩りが良くなるのでおすすめ。アクセントにコショウを少々を加えたら出来上がり!
●お酒のお供にもぴったり!大人の味を感じさせる『黒オリーブバター』
白いバターにブラックオリーブとグリーンのパセリが映える『黒オリーブバター』は、カリッと焼いたバゲッドに付けていただくのがおすすめ!バターが主張し過ぎず、バゲッドに程よく馴染むので、独特の香りを放つブラックオリーブとパセリの味が引き立ちます。大人を感じさせる味わいは、お酒のお供にもぴったりです。
<材料>
エシレバター:30g
ブラックオリーブ:20g
パセリ:少々
黒コショウ:少々
オリーブオイル:少々
<作り方>
あらかじめクリーム状に溶かしておいたエシレバターに、お好みの大きさにスライスした黒オリーブと、パセリを混ぜ合わせます。さらに、味を見ながら黒コショウとオリーブオイルを混ぜ合わせたら出来上がり!
●卵焼きやオムレツにおすすめの『海藻バター』
最後にご紹介するのは、インタビュー中に教えてもらった『海藻バター』です。フランスではバターの中に色々なフレーバーを入れる習慣があるのだそう。その代表格が海藻なのだとか。トーストやバゲッドに付けて食べる他、オムレツを作る時によく使うのだそうです。
「ここは日本!」ということで、今回はわかめを入れた海藻バター使って、卵焼きを作ってみました。こちらは、具材がわかめだけのため、他の2種類と比べるとバター感が強く料理の風味付けとして適している印象でした。海藻バターを入れて作った卵焼きは、ほんのりと磯の香りを感じることができ、ひと味違った卵焼きとなりましたよ!
<材料>
エシレバター:30g
お好みの海藻:適量
塩:少々(※無塩バターの場合は、気持ち多め)
<作り方>
クリーム状にしたたエシレバターに、お好みの大きさにスライスした海藻を混ぜ合わせます。味を見ながら塩を入れて、丁度良い味になったら出来上がり!卵焼きを作る時に、油の代わりに海藻バターを使ってみてくださいね。
市販のパスタソースが変貌を遂げる!?
エシレバターを知り尽くしている古川さんだからこそのおすすめも聞いてみました!
「バターの方が、パスタやソースよりもお値段は張ると思いますが…(笑)、贅沢にスパゲッティに使うのがおすすめです。市販のソースでも、エシレバターを絡めると風味が良くなって、とてもおいしくなりますよ」とのこと。
「これは期待できそう!」と、市販の蟹クリームソースで早速試してみました。パスタを茹でて、フライパンにエシレバターを溶かしてから、ソースとパスタを絡めてみました。その瞬間、バターの香りがふわ〜っと広がり、美味しくなること間違いなしの予感が!欲張ってさらにバターを加えてしまった程です。熱々のうちに食べてみると、蟹クリームソースのコクがより全面に出てきて、まろやかな味に仕上がっていました。どうしても単純な味になりがちな市販のソースに奥行きが生まれて、本格派のパスタに変貌を遂げたのです!
主役にも引き立て役にもなれる万能さ…!
さて、ここまで紹介してきた『エシレバター』、いかがでしたでしょうか...?筆者が焼き菓子とバターを追求して感じたのは、『エシレバター』は主役になれる個性がある一方で、引き立て役にも徹することのできる万能なバターであることです。『あっさりとしているのに、まろやかな味わい』という、一見相反する特徴を持っているエシレバターは、それぞれのお菓子や料理に合わせて最適な押し引きができるように思いました。それこそが、高級バターといわれる所以であり、バター好きの人を虜にする理由なのではないでしょうか。
この機会に、ぜひバターを使ったアレンジレシピに挑戦してみてはいかがでしょうか?エシレバターの新たな魅力を発見できること間違いなしですよ!
撮影協力
店名/エシレ・メゾン デュ ブール
住所/東京都千代田区丸の内2丁目6−1 丸の内ブリックスクエア
電話番号/03-6269-9840
営業時間/10:00~20:00
WEBサイト/www.echire-shop.jp
京都生まれ。幼少期をオーストリア、高校時代をカナダで過ごした帰国子女。海外生活から日本の良さを再発見。最近特に注目しているのは、農業、焼き物、染物など「日本の伝統文化」。Webデザイナー兼ライターとして、日本の魅力を発信することを目指しています!
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