就職活動が大変なのは、どの国も同じ。けれど、日本は、独特の「大学生の就職活動のルール」が、職選びを難しくしている。大学を卒業後に職探しをし、採用時期がバラバラな国が多いが、日本は「年に一回のみの新卒一括採用」で、「大学在学中に職探しをする」という点が特徴的。
日本では経済団体連盟が、就職活動を始める「解禁日」を決めているが、近年、大学側より経団連や主要企業に対して、「就職活動が長すぎて学業に支障をきたしている」と申し入れがあり、就職活動のスケジュールはたびたび変更されている。2017年度は大学3年生の3月から会社説明会がスタートし、6月選考スタートというスケジュール。翌3月に卒業し、4月に入社するスケジュールになっている。マイナビが2016年8月に発表した調査によると、新卒の内々定率は77.5%だ。
大学生にとっては、就職活動と学業のバランスも悩ましいところだ。
どんな企業に入りたい? 就活人気企業ランキング
では、日本ではどんな企業が就職で人気なのだろう。「マイナビ2017就職企業ランキング」を見てみよう。
文系総合ランキング
1位 JTBグループ(旅行業)
2位 ANA(空運業)
3位 H.I.S. (旅行業)
4位 JAL(空運業)
5位 三菱東京UFJ銀行(金融業)
理系総合ランキング
1位 味の素(食品)
2位 JR東日本(運輸業)
3位 資生堂(化粧品)
4位 トヨタ自動車(自動車)
5位 サントリーホルディングス(食品)
いずれも社員数数千~数万単位の大企業が並んでいる。文系では、20~30年前までは商社や損害保険会社、テレビ局、広告代理店が人気だったが、現在は旅行会社、航空会社などが上位にランキング。
理系の学生は大手製造業を志望する人が多いが、なかでもその時代のヒット商品を扱う業種が上位にあがる。ここ数年は、グローバル展開し社員の離職率が低い「味の素」が人気上位に。
こういった人気企業に採用される倍率は数十倍。ランキング上位の企業を目指して就職活動する様子を受験になぞらえ、採用される難易度を「就職偏差値」とよぶこともある。
ちなみに厚生労働省の調査(平成28年)によると、企業規模別に見た大卒者の初任給は、社員1000人以上の大企業の場合206,900円、100~999人の中企業は201,100円、10~99人の小企業は199,100円だそう。
日本の就職活動・キーワード
新卒の就職活動には、いろんなルールや仕組みがあり、そのひとつひとつが、学生にとっては悩みの種となっている。
学生が就職活動で着るスーツはリクルートスーツとよばれ、専門店や百貨店で売られている。ネイビーか黒のスーツに、白いシャツを合わせるのが標準。女性はひざ丈のタイトスカート、靴は3~5㎝のヒールでシンプルなデザインのレザー製が選ばれる。
男性はさっぱりした短髪、女子は黒髪をひとつに結ぶヘアスタイルに、ナチュラルメイクが多い。清潔感やまじめさを演出するとともに「みんなと同じファッションに身を固める、協調性」をもアピールできるのだ。
エントリーシートとは、学生が最初に企業に送る応募書類で、履歴書に自己PRや志望動機がついたもの。
日本の企業は新卒の学生に対して、どちらかというと「大学での専攻や資格より、ポテンシャル(潜在能力)を重視する」という傾向がある。即戦力を期待するのではなく、将来有望な若者を「会社のカラー」に染めていくこうと考える企業も多い。だから、「どんな人柄か」「ほかの社員と協調して働いてくれそうか」は、大事だ。
エントリーシートは、学生が自己アピールする第一の関門。しかし、それまで、横並びを重視し従順さをたたえる学校教育が染みついている若者は、就職活動になって突然、「自己主張しろ!」と言われても、戸惑ってしまう。そこでたいていの学生はマニュアル本を見ながら、自分の性格や経歴を「自己分析」する。それをもとに、「人柄」「仕事への熱意」「将来性」をアピールするのだ。面接の受け答えも当然、マニュアルに沿ったものになっていく。
企業側は多くの学生に接しているので、「これはマニュアル通りの書き方(受け答え)をしている」と、見破ってしまう。どこかでマニュアルを打破して、自分の言葉で語れるようにならないと、道は遠い。
このほか、就職活動に関して、大学生が使う隠語は数多い。インターネット経由で広まり、日常に定着している言葉をいくつかピックアップしよう。
企業側が学生に対して、わざと答えづらい質問や批判的・否定的な発言をすることを圧迫面接という。学生の自己PRに対して、「ありきたりな経験だね」などと返したり、大学の成績表をみて「ちゃんと勉強したの?」など、威圧的な態度で言うことだ。
これらはただの意地悪ではなく、「マニュアル通りの受け答えをしている学生の、本音を引き出したい」「予想外の質問に対して、どう対応するかをみたい」という狙いがある。学生は、冷静に受け答えすることを求められる。
学生間の噂として、最終面接の中で、学生が「合格しているはず!」と、ガッツポーズしたくなるようなシチュエーションとなることを、「合格フラグ」が立った、とよぶ。具体的には「面接予定時間のぎりぎりまで話が盛り上がった」「こちらからの質問に、社内事情を含めて詳しく答えてくれた」「入社後の仕事内容をほのめかされた」「配属部署の担当者が現われた」などなど。面接から結果発表までの不安な気持ちを紛らわせようとしてか、インターネット掲示板などで「●●社の面接で、あなたが感じた合格フラグは?」などの質問が飛び交っている。
がんばって面接まで進んだのに、企業から送られてくる悲しい不採用通知が「お祈りメール」とよばれる。「今後のご健闘をお祈り申し上げます」などの、文言で締めくくられているメールだからだ。これは、神さま、仏さまに祈っているわけではなく、「願っています」という意味のていねいな表現。採用企業にとっては、落選させる学生といえども、将来の顧客候補でもあり、なるべく失礼のないよう対応しようとする表れ。しかし、何度も「お祈りメール」をもらう学生にとっては、そのていねいさがかえって腹立たしく聞こえてしまう場合も…。
日本の就職活動風景は変わるのか?
そんなに苦労して就職をしても、大卒者は3年以内に30%ほどが離職している(厚生労働省・平成25年)。退職理由としては「給料が低かった」「職場の人間関係がつらかった」など、労働環境が理由に挙げられる場合もあるが、「思っていた仕事と違った」「やりがいが感じられない」など会社とミスマッチを感じたことからの離職も多い。
これは、職業について具体的にプランを持たずに、就職活動をした学生が多いことの裏返しといえる。それを受けて、教育現場では小・中学校など早い時期から、職業について考える「キャリア教育」がスタートしている。
新卒一括採用だけを考えると、大学生同士の争いに目が行くが、今後は外国人など幅広い人材が同じ採用の土俵にあがることが考えられる。目的意識の高い外国人にどう対抗していくのか、日本人の学生も試されることになりそうだ。
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