ニセコアンヌプリや羊蹄山などの雄大な山々に囲まれ、北海道でも有数の豪雪地帯として知られるニセコ。その自然の恵みを生かし、ジャパニーズウイスキーとジンを製造しているのが「ニセコ蒸溜所」です。今回は、観光やグルメに多数実績を持つ札幌在住のライター・ヒカルが、同施設で実施されている見学ツアー(有料・要予約)に参加。ツアーを通して感じた、ニセコ蒸溜所の魅力をたっぷりご紹介します!
ニセコ蒸溜所とは?
ニセコ蒸溜所は、ニセコアンヌプリのふもとにあるウイスキー・ジンの蒸溜所です。2019年から開設準備を行い、2021年に蒸溜をスタートしました。ウイスキーは熟成が必要なため、販売開始はもう少し先になります。そこで、開設当初よりジンの製造・販売も行っています。「販売開始までの間に蒸溜所を訪れてくれる方に、ニセコならではの製品を届けたい」という思いがそこにはありました。
実はニセコ蒸溜所は、新潟県を拠点とし、創業100年を超える酒造「八海醸造」のグループ会社。八海醸造では、日本酒やビール、焼酎などの製造のほか、2016年には米を主原料とする「ライスグレーンウイスキー」づくりを開始。これをきっかけに、モルトウイスキーづくりにも強い関心を持ったのだとか。そんな中、ニセコ町からの誘致があり、「自然豊かなこの地なら、私たちが目指すモルトウイスキーづくりができる」と蒸溜所の設立を決めたそう。
ウイスキー・ジンの製造には、ニセコアンヌプリの伏流水を使っています。伏流水とは、川底の下にある、砂層などの中に浸透して流れている水のこと。地中でろ過されるため、地表の水と比べて濁りが少ない良質な水です。
- 車
札幌から:国道230号経由で約 2 時間/約 100km
新千歳空港から:国道276号経由で約2時間/約110km - バス
札幌から:約3時間15分
新千歳空港から:約3時間 - 電車
JR札幌駅またはJR新千歳空港駅〜JRニセコ駅:快速エアポート、函館本線などを乗り継ぎ、約3〜4時間
JRニセコ駅〜ニセコ蒸溜所:路線バスまたはタクシーで約10分
いざ、蒸溜所へ!
シンプルでスタイリッシュな造りの建屋。自然との共生を大切にしているニセコ町の精神に共感し、保安林に溶け込むように配慮して設計されています。
入り口にある銅製の看板には、ニセコの「n」と、ディスティラリーの「d」を組み合わせて作られたロゴが描かれています。
施設に入ると、ふわっと、えも言われぬお酒の良い香りが鼻をくすぐります!お酒好きにはたまらない瞬間です。
建屋の奥から施設全体を見ると、こんな感じ。ニセコ町を含む後志地方のカラマツが使われており、開放的で木の温かみを感じられる造りになっています。製造エリアのほか、バーやショップも併設されています。
見学ツアーに参加!
それでは早速、見学ツアーへ!蒸溜所スタッフが、ウイスキー・ジンの製造工程を丁寧に紹介してくれます。今回は、お酒が大好きというFさんがガイドをしてくれました。
【見学ツアー概要】
○案内時間
5月〜11月 10:00〜/11:30〜/15:00〜
12月〜4月 10:00〜/15:00〜
○見学の流れ、所要時間
製造エリア、蒸溜所、貯蔵庫を見学し、最後に原酒(ニューポット)を試飲/合計約60分
○見学料
1,000円(税込)
1ドリンク付き(アルコール・ソフトドリンクなど)
※3歳児未満は無料
○予約について
ニセコ蒸溜所Webサイトの予約フォームから予約可能です。英語での案内を希望する場合は、事前にお問合せを。
○備考
施設内には、足場が不安定な場所や段差、高温の設備などがあります。ツアーに参加する場合は、安全のため、ハイヒールやサンダルは履かないようにしましょう。
見学ツアースタート!まずはジンの製造ゾーンから
まずは製造エリアに入ってすぐのところにある、ジンの蒸溜機から。蒸溜機はドイツのアーノルド・ホルスタイン社製で、右手にある背の低い丸みを帯びた「単式蒸溜機」と、左手にある煙突状の「連続式蒸溜機」からなる「ハイブリッド式蒸溜機」です。
国際的品評会で世界一位!「 ohoro GIN(スタンダード)」
この蒸溜機から生まれるのが、創業当初から販売されている「ohoro GIN(スタンダード)」。「ohoro」はアイヌ語で「続く」という意味があります。このジンが未来永劫愛され続けるように、という願いを込めて名付けられました。スムースながら、芯のあるしっかりとした味わいで、カクテルベースとしてもおすすめです。
ベーススピリッツに風味を付けるための「ボタニカル」には、ジン独特の香りを生み出すジュニパーベリーのほか、5種の柑橘系のフルーツの皮、またニセコの指定農家で栽培しているヤチヤナギ、ニホンハッカなど、合計13種類を使用。一部は見学ツアーで見ることができ、直接、香りをかぐこともできます。
ニセコ蒸溜所のジンは国内外で高く評価されています。今年の2月には、イギリスの国際的なコンペティション「World Gin Award 2024」で部門別世界一位を獲得しました。
次は、いよいよウイスキーの製造工程見学です!大きく分けて、粉砕、糖化、発酵、蒸溜、熟成の5工程があります。まずは大麦麦芽の「粉砕」から。
製造工程その①「粉砕」
粉砕は、原料の大麦麦芽を小さく砕く作業です。朝のうちに終了するため、作業そのものの見学はできませんが、作業場は見学できます。
粉砕過程ごとの大麦麦芽もツアーでは見ることができます。ニセコ蒸溜所では、イングランド産の大麦麦芽を100%使用しているそうです。
製造工程その②「糖化」
次の作業が「糖化」です。粉砕された1tの大麦麦芽をこの「糖化槽(マッシュタン)」へ入れ、そこにお湯を入れると、でんぷんの酵素効果が糖分に変わり、甘い「麦汁(ウォート)」ができます。1度に作ることのできる麦汁の量は約5000Lです。
製造工程その③「発酵」
麦汁は写真奥の木製の発酵槽へと移し替えられます。ここで、ウイスキー酵母を加えアルコールを発生させます。発酵に費やす期間は4日間。発酵により、甘みはほぼなく、少し酸味のある、アルコール度数約7%の「もろみ(ウォッシュ)」ができ上がります。
ステンレス製の発酵槽を使う蒸溜所もありますが、ニセコ蒸溜所では木の発酵槽を使用。醤油や味噌の発酵樽を手がける日本の会社が、カナダの米松(ベイマツ)を使って作り上げました。Fさんは「木を使うことで、目に見えない乳酸菌などの微生物がウイスキー酵母と合わさり、複雑な香味になります」と教えてくれました。
製造工程その④「蒸溜」
次の工程は「蒸溜」。スコットランドの有名ウイスキー製造設備メーカー・フォーサイス社の蒸溜機(ポットスチル)を使用しています。
蒸溜は、基本的に2回行われます。1回目の蒸溜では、右側にある「ストレート型」と呼ばれる、スコットランドの伝統的なポットスチルを使います。約6時間かけて蒸溜されたもろみは、上部のアームを通って、真ん中にある円柱状の「冷却塔」へ。そこで冷却・凝縮され、液体になります。2回目は、特徴的な球状の膨らみがある「バルジ型」のポットスチルを使って、1回目同様に蒸溜・冷却。液体がさらに濃縮され、「原酒(ニューポット)」ができ上がります。
粉砕から2回目の蒸溜が終わるまでは約1週間かかります。原酒はタンクへ移し替えられて貯蔵庫へ運ばれ、そこで樽詰され、熟成がスタートします。
熟成中のウイスキーがぎっしり!貯蔵庫へ
ここで一度、蒸溜所の外へ。蒸溜所向かいにある貯蔵庫で、熟成中のウイスキーを見ることができます。貯蔵庫内はアルコールの香りと木の良い香りで満ちています。ニセコの自然な気温でゆっくりと熟成を進めるため、断熱材や空調は一切使用していないそうですが、貯蔵庫内は7月の強い日差しの中でも意外にも涼しく、驚きました。
貯蔵されている樽は全部で400本以上あり、一番小さいもので200L、一番大きいもので500L。王道のシェリー樽やワイン樽、バーボン樽、新樽のほか、通常ウイスキーの熟成にはなかなか使わない焼酎の樽もあるとか。
ジャパニーズウイスキーの定義の一つが「3年以上国内で熟成していること」。ニセコ蒸溜所で最初に樽詰したウイスキーは、2024年5月で丸3年となり、ジャパニーズウイスキーの仲間入りを果たしました。
しかし、ウイスキーは長い年月を経て味わいが深くなるお酒。納得のいく味わいや品質になるよう、これから調整を重ねていくため、今のところはウイスキーの発売時期は未定です。どのようなウイスキーに仕上がっていくのか、期待が高まります!
ツアー参加者限定!原酒試飲体験
貯蔵庫を見た後は、もう一度蒸溜所へ。ツアー参加者限定で、熟成前の原酒の試飲ができます。フルーティーで甘めの香りで、ウイスキー特有の色や香りはまだありません。しかし、度数はなんと約60度!喉が熱くなるほどの強さでしたが、爽やかで飲みやすくもあり、不思議な味わいでした。人によっては、「甘い」「昆布の香りがする」などの感想が出ることもあるそうです。
また、チェイサーとして、仕込み水でもあるニセコアンヌプリの伏流水を飲むことができます。ニセコアンヌプリの伏流水は「極軟水」。とても柔らかく飲みやすい、上品さも感じるようなお水でした。みなさんもぜひ、原酒と伏流水を味わってみてください。
ツアーの最後はバーでドリンクをオーダー
最後に、施設内のバーで参加者専用のドリンクメニューから1点を注文して見学終了。「ohoroGIN(スタンダード)」や、八海醸造が製造しているライスウイスキーなどのほか、車を運転する方やお酒が飲めない方向けにモクテルも2種類用意しています。
今回は、Fさんおすすめの「ohoroジンソーダ」と、モクテルの「ニセコ ハッカトニック」を注文。「ニセコ ハッカトニック」はジンにも使用しているニホンハッカをシロップにしてトニックで割ったものです。どちらも夏にぴったりの爽やかな味わいでした!
バーはツアー参加者以外も利用可能!
バーは、ツアーに参加しなくても利用できます。蒸溜機を眺めながら、ニセコ蒸溜所の自慢の一杯を楽しめます。
バーにも、ジンに使っているボタニカルがディスプレイされています。ぜひスタッフさんから説明を聞き、香りを確かめてみてください。
バーには、カウンターのほかにテーブル席もあります。テーブルはヤチダモ、椅子はセンノキという木材でできています。どちらも木製家具で有名な旭川で作られたものです。
ショップコーナーには「ohoro GIN」をはじめ、希少なお酒や伝統工芸品、おつまみも!
ツアーが終わったら、ぜひショップコーナーへ!見学ツアーの参加なしでも利用可能です。「ohoro GIN(スタンダード)」や希少な日本酒をはじめ、ウイスキーのように「時間の経過とともに価値が高まる」木製品や刃物などの伝統工芸品も取りそろえています。
おすすめはやっぱり「ohoro GIN(スタンダード)」!現在は、通常ラベルに加え、世界一を記念して限定ラベルの商品も販売しています。
そのほか数量限定品として、ニセコ産のニホンハッカをふんだんに使用したジンも。ハッカならではの清涼感あふれる味わいを楽しめます。取材時点では在庫切れでしたが、製造ができ次第、販売再開予定です。
毎年夏には、数量限定商品としてニセコ町のシンボルであるラベンダーを使ったジンも販売しています。使われているラベンダーは、地元の指定農家や、北海道ニセコ高等学校の学生が栽培したもの。2024年も8月上旬から発売しています。タイミングによってはバーで楽しむこともできるそうです! 気になる方は、事前に提供状況を問い合わせてみましょう。
「ohoro GIN」のコーナーには、数量限定品を含む3種類のミニボトル(スタンダード、ニホンハッカ、ラベンダー/各100ml)を詰め合わせたオリジナル缶BOXも。試し飲み用としても、お土産や贈り物としてもぴったりです。
「新潟県にあるものづくりのまち・燕三条を中心に、店舗を持たない作家さんの製品も取り扱っています。日本のものづくりの精神を、ニセコを訪れる世界中の人たちにどんどん発信していきたいです」とFさん。お箸や包丁といったもののほか、盆栽鋏などの品物も。
こちらは一枚の銅板からできた酒器。文化庁の無形文化財に指定されている技術が使われています。施設入り口の看板も、同じ会社が製作しています。
こちらのお皿は、北海道出身の作家さんの作ったもの。このほかにもさまざまな品物を取り扱っています。きっとお気に入りのアイテムが見つかるはず。
ニセコで作られているものを中心に、お酒に合う食品類も多数販売中。酒の肴にと、まとめ買いしていく人も多いとか。
ニセコのオーガニックワインのほか、酒蔵の紹介コーナーなどもあります。
※工芸品、ジン、日本酒は免税対象商品です。要冷蔵の商品は免税対応していません
爽やかな風を感じられるテラスも
施設南側にはテラスがあり、バーで頼んだドリンクをここで楽しむこともできます。テーブルと椅子があるので、風を感じながらゆっくりと自然を眺めて休憩するのもおすすめ。通年開放していますが、安全のために冬はテーブル・椅子を撤去しているそうです。
オールシーズン、どんな人でも楽しめるニセコ蒸溜所
地域に根ざし、自然と調和しながらウイスキーづくりを行うニセコ蒸溜所。現地を訪れ、実際にツアーに参加しながら取材してみて感じたのは「どんな人でも楽しめる、魅力たっぷりのスポット」だということでした。
季節に関わらず見どころが盛りだくさんの施設なので、お酒好きの方はもちろん、お酒が飲めない人や子どもでも十分に楽しめること間違いなし!ニセコを訪れた際は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
撮影=大谷康介 原稿・編集=みんなのことば舎
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ニセコ蒸溜所
- 住所 〒048-1511 北海道虻田郡ニセコ町ニセコ 478-15
- 電話 0136-55-7477
営業時間:10:00〜17:00(バーは16:30 L.O.)
定休日:無休(年末年始の営業はお問い合わせください)
札幌の地元タウン誌の編集に長年携わった編集者が設立。設立以降、20年以上にわたり、札幌を中心に北海道全域での取材・記事執筆を行い、観光ガイドや情報誌、北海道の景色を収めた写真集など多様な本も制作。スタッフは全員女性で、旅好き、スイーツ好き、お酒好きと趣向は様々。飲食店紹介からイベントレポート、レジャー体験記まで、発信の守備範囲は広い。
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